グッバイ、平穏な日々。
でも、ある意味しょうがないらしい。
初歩の回復魔法……それこそ擦り傷、切り傷くらいならこの学校で習う魔法で事足りる。実際私も今年になって回復魔法というか、治癒魔法をやったけど……アレは衝撃だった。
体が傷を治そうとする力を何十倍、何百倍にも高めるという原理みたいだけど、日に日に傷がふさがっていく様子を早送りで見ているようななんとも不思議な気分になったものだ。
だが、それは初歩魔法の話。
上級魔法になると骨折を治したり、腕が取れたのをつなげたり、果ては死にかけているのを復活させたり…というもはや奇跡レベルの魔法になるのだが、これは才能が非常にかかわってくるらしく、特に死にかけを復活させる魔法は文字通り奇跡扱いされている。
これについては、神学校に行ったから使えるようになるといったレベルの魔法じゃないんだよ、と熱く語るのはシャルロッテ。
そのレベルの使い手になると、治すスピード、傷跡、痛みの具合に至るまで一般の使い手と全然違うらしい。マジか。同じ魔法でも全然違うもんなんだな。
(光の精霊さんとの相性とかかな?)
ルダ様見てて思うのは、他の精霊より個としての人格を感じるということだ。一言でいうと人間臭い。
光の精霊さんは少ないとのことだから、もしかしたら他の精霊さんよりルダ様みたいに自分の意思がはっきりしてるのかも。だから力を貸す云々も人を選んでやってるんじゃ?と考えたんだけどさ…。
あ、でも自分で魔力操作行える人の場合はまた違うのかな。謎は深まるばかりだ。いつか調べてみたいと思う。
そんなことを考えるてると、急に廊下の方が騒がしくなってきたことに気づく。
何事かとシャルロッテとラディエルさんと顔を見合わせてると、図書室にいる他の人も異変に気づいたらしく、徐々に周囲がざわつき始めた。
「……!!」
「…早く!…!」
その間も、廊下の方からはバタバタと大勢の人達が走る音や、焦った様子で何やら叫んでいる声が聞こえる。
なんかただごとではない雰囲気だが、それなら余計に私達生徒が身に行っちゃいけない気がする。邪魔になるだけだと思うし。
好奇心が無いとは言えないが、そこはぐっと抑え込む。私は我慢のできる子です。
「大変だよー。」
「乱れるよー。」
しかし、精霊さん達はそうもいかなかったようだ。
周囲の混乱とともに魔力も乱れているせいか、つられるように騒ぎ始めたのだ。
縦横無尽に飛び交う精霊さん達は目の前をかすめるように飛び交っているので、思わず虫かよ!!とツッコミたくなってしまうのだが、他の人に精霊さんは見えない。
ゆえに私は顔の表情を固めてやり過ごしかないのだ。なんという拷問。
「なにがあったんだろう。先生達だよね、騒いでるの。」
「うん。しかもよくない事っぽい。」
ひそひそと不安を口にしていると、いつもの図書室には似つかわしくないバタン、という音が広い部屋に響き渡る。
正直ビビッた。が、そのあとの言葉は、更に私達を驚かせるものだった。
「重傷者が出ました!上級治癒魔法を使える方は、至急医務室へお願いします!!」
「ふぇ!!??」
「ちょ、…マジ?」
あまりの衝撃に、つい変な声が出てしまう。隣のシャルロッテとラディエルさんも同様のようだ。
「重傷者!?」
「はい!2番街で魔物が発生し、一般人が負傷。魔物は騎士団などによって討伐済みですが、負傷者が多く、私達だけでは足りない状況です。」
医務室に勤務してる若い女性は焦った口調でそう説明すると、再度上級治癒魔法を使える人は来てくれと叫ぶ。
こ、これは正真正銘の一大事だ。
不幸中の幸いで命に別状はなかったらしいが、王宮や神学校からも回復魔法の使い手が来ているという話だから大けがは大けがだったみたいだ。
ていうか、改めて思う。回復魔法の使い手、少なっ!!!
断片的な話をつなぎ合わせると、重傷者は二人。他にも軽傷者が数十人出ているらしい。そのための呼びかけだろう。
魔力量の関係から人手は多い方がいいというのは隣にいるシャルロッテの解説だ。
この世界の魔法は、ゲームのように魔力の消費量が魔法によって決まっているわけではない。以前キュミラスさんも言っていたが、魔力の運用については個人の技量が関わってくる。
回復魔法は聖属性、つまり光の魔法である。精霊自体が少ないというせいだろうか、魔力の消費量は光と闇の魔法がダントツで多い。つまり燃費が悪い。しかも難しい。
「サラー、あっちに怖い魔力が巻いてるよー。」
だが、私の心配事はそれだけではなかった。
魔力の乱れに騒いでいたと思いきや、今度は非常に怯えた様子の精霊さんたち。十数年生きてきてこんな精霊さん達の反応を見るのは初めてだ。
(怖い魔力……!まままま、まさか、魔王?)
勘弁してくれよ、私が生きてる間に魔王とか!!
私の計画が崩れるじゃないか。
田舎でのんびりスローライフで長生き!も平和な世の中だからできることだぞ!
「まだ魔王じゃないよー。」
「でも、似てるのー。」
(……。)
ということは、魔人化とか?
私はそこで先ほどの副団長さんとの問答を思い出す。
王都に魔物を招き入れた奴がいるという話だ。
確かに王都に魔物を召喚するとか、正気の沙汰じゃない。つまり、魔人の仕業…。
ドキドキする胸をさりげなく抑えながら周囲のようすを見ていると、数名の人が扉から外へ出ていく。
流石に生徒はいないが、若い人も何人かいた。
「…こういう時、役に立てるように早くなりたい。」
「そうだね…。」
心底悔しそうなシャルロッテ。
聞けば、シャルロッテが神学校に行こうと決めたのも、かつて授業で結構な怪我をした友達を神学校出身の先生が助けてくれたのがきっかけらしい。
面倒見がよく、厳しいながらも優しいシャルロッテにはぴったりな進路だと思ってはいたけど、まさかそんなはっきりしたきっかけがあったとは。
『聞こえるか、サラ。まずいことになったぞ。』
(!キュミラスさん!?)
と、二人と話しつつ、時々ざわつく精霊さんを宥めながらとりあえずその場で待機していると、唐突にキュミラスさんの声が頭に響く。
よくここにいるってわかったな。流石エリート。
『魔人が出た。』
(!!)
なるべく表情に出さないようにしたつもりだけど、それでも顔が強張るのがわかる。声を出さないようにするのがやっとだった。
(町に出た魔物もそのせいですか!?)
『ああ。魔人が召喚したものだ。』
その瞬間、背筋が凍るのを感じる。
自分でもそう思ってたくせに、改めて肯定されるとやっぱり違うものだ。




