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言葉にできない不安



「最近王都に魔物が出没しており大変危険なことから、本日外出禁止令が発令されました。」



朝礼で先生の口からそんな言葉が発せられたのは、私が本をゲットしてから三日目の事だった。

王都に魔物、という信じられない言葉に教室中がざわつく。



「…運がよかったね、サラ。」

「うん。」



未だざわめきが収まらない中、小声でグレッチェンちゃんが私にささやく。

確かに数日遅かったら、私は本をゲットできないところだったのだ。

そう考えると、ギリギリのタイミングだったんだな。





「それにしても、ほんとだったんだね。サラが言ってたの。」

「…グレッチェンちゃん、私がウソをついてたと思ってたの?」


昼食の時間に朝の話を皆でしていると、唐突にグレッチェンちゃんがため息とともに吐き出した。

ジト目で軽くにらみつければ、グレッチェンちゃんは肩を竦める。


「そーゆー訳じゃないけどさぁ。ただの噂だと思ってたの。だって、まさか王都の中に魔物が入り込むなんてさぁ。」

「……まあ、王都だもんね。私の町でさえ魔物なんて出たことないもん。異常事態だよね。」


ラクラエンは平和だった。私が初めて生きてる魔物を見たのは町の学校に入った頃だったけな?冒険者の人が生け捕りにしたっていう魔物を冒険者ギルド付近で遠巻きに見た時だった。

その次に見たのも、テイマーというのか?そういう人たちに飼いならされてたっぽい魔物だし…襲うような魔物はそれこそ王都に向かう道中に見たのが初めてだった。

確か角の生えた狼みたいな魔物だったが、ビビる間もなく人力車のお兄さんたちに蹴散らされていたので、正直印象が殆ど無い。


田舎ではないが、決して大都会ではないラクラエンですらそうなのだ。王都で魔物が出るなんてかなりヤバい事だろう。

と、思って軽く口に出した言葉だったのだが、周囲の反応は私の予想外のものだった。


「え、サラの地元って、そんなに安全なの?」

「ん??」

「ラクラエンって、凄いねー。」

「ほ?」

「ダメだ、この子マジでわかってない。」

「まあ、私の地元は貧乏だからアレだけど……。」


今度はみんな信じられない物を見る目で私を見てきた。も、もしかして。


「え、みんなの町って結構普通に魔物が街中に出てた……?」

「いや、さすがに普通ってことは無いけどさぁ。数年に一回くらいはそりゃあるよ。」

「町のはずれの方とか、時々ね。」

「小さい村なんかだと、魔物が出るなんて日常茶飯事だって聞いたことがあるよ。まあ、そんな大型のじゃないけど。」


詳しく聞いてみると流石に町の中に「魔物がでたぞー!!」ってことは稀みたいだけど、夜間に魔物が出て家畜がやられたり、農作物がやられたりすることは結構あるらしい。

熊が出たとか、イノシシが出たとか…前世で言うとそんな感覚なのかな。いや、そっちも私は経験ないけど。


「うちの町は、一部の畑は「外」にあったよ。」

「あー、同級生に外の村に住んでる子いたわー。」

「サラのとこは?」

「…みんな防壁の中。」

「まあ、分断の森が近いもんね。流石に外は無謀か。」


ラクラエンをそれこそ西と東にぶった切っている分断の森については2年生の時だったっけな?授業で改めて習った。

初心者向けと言える森ではあるが、その割に恵まれた素材を安定して供給してくれる分断の森は、思った以上に私達の生活を楽にしてくれていたらしい。


「子供の時から、門の外には出るんじゃない!ってきつく言われてた。」

「はぐれモンスター警戒してたのかね。今回のもそーゆーのかなぁ。」


この場合のはぐれモンスターとは、本来の生息地から何らかの原因で出てきちゃった魔物を言う。

王都の近くの危険スポットと言えば、この間授業で使った魔法研究所跡とか、馬車で2時間くらい離れた所にある旧王都あたりだろうか。


「ただ、今回の王都に出たのは違うんじゃない?だって、サラが前あの人たちに助けられたときに出たのってロックベアって言ってたよね?」

「ロックベアぁぁ!???」


グレッチェンちゃんのセリフに被せる勢いで、カリナちゃんが声がひっくり返して驚く。

正直、そっちの声の方に驚いた。他のグループの子もぎょっとして振り向いてる。


「よく無事だったね…。」

「ほんとに。あの二人、超強かったよ。」


目を見開くルカちゃんに精一杯そこを強調しておく。実際、私は助けてもらっただけだ。


「大通りからは遠いにしても、ヤバくない?」

「ヤバいだろうね。だいたい、町の中に魔物が出たこと自体が30年くらいぶりらしいよ。」

「あ、やっぱり珍しいんだ。」

「そりゃそうでしょ。あの壁だし、警備自体もしっかりしてるんだから。」


流石に規模がでかすぎるため、ラクラエンのように全体に聖水堀は無いけど、結界陣は全体にあるし防壁はラクラエンの比じゃないほどに高く厚い。

それに、何より入り口は常に見張りが立っているし、監視塔もある。他にも私たちの知らない防衛機構があるのだろう。


「でも、今なんか、冒険者の人少なくない?」

「傭兵さん達は、マノイのシルメリア遺跡に冒険者が集中してるから、自分たちが警備に当たってるって言ってた。」

「なるほどー、みんなそっち行っちゃってるんだね。」


冒険者が多いような場所はその気配を恐れて魔物はそこに近づこうとしない。

普段は王都もそうなんだろうけど、今だけはそうじゃないからなー。


「…なんか、イヤなタイミングで魔物が出たんだね。わざわざそんな時に出ることないのに。」


だが、そのルカちゃんの言葉に私はなぜかドキリとする。


アルフェ様が言っていたマノイのシルメリア遺跡に年に一度冒険者たちが集まる季節。口ぶりからすると毎年の事らしい。

詳しい期間は聞かなかったけど、あれからまだ2か月経っていない。それに、まだ傭兵団が王都にいるってことは警備は終わっていないってことだ。



(冒険者がいない時期に。)



偶然にしちゃ、少し出来過ぎてるような気がしないでもないけれど。


考えすぎ、と自分に言い聞かせるが、胸騒ぎは中々治まらない。

王都に、何か恐ろしいものが迫っているんじゃないか。


そんな嫌な考えがなかなか頭から消えてくれず、その日私はほとんど眠れなかった。



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