精霊の荒療治
「あ、もうダメ。許さない。あのね、この子ってば、今ではこんな風だけど、10代の頃はそりゃもーーーーーーーう、超の付く遊び人でね。」
「もう遅いようだ。アルフェ。」
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
ここが裏通りでよかった、と思えるほどの声量で叫ぶアルフェ様。
しかし、ルダ様は鼻で笑うと静かに話を続ける。
「ふふ、叫んでも無駄なのに。でね、女の子をそれこそとっかえひっかえ、遊びまくってたのよ。」
そうなんですよ、アルフェ様。残念ながらそんな大声とあげても、全く意味がないのですよ。なんたって念話で話すと、声が頭に直接響くんですから。
「でもね、そんなことしてたら、いつかは誰かの恨みを買うにきまってるじゃない。」
「あー、修羅場っすか?」
わざと相槌を声に出せば、アルフェ様が今度はぴしり、と固まる。
おっかない思いをしたんだ、これくらいやり返してもバチは当たらないと思う。
「まさしくそうよー。あれは、うーんと、15の時だったかなー?ある町でやっぱりいつも通り複数の女の子に手を出しまくってたんだけどね、その中の一人がちょっと、思い詰めちゃってねー。」
「えー、なにしたんですか、アルフェ様……。」
「他の女とベタベタしてるのを見られちゃったの。こっそり後つけてたのよ、その子。執念よね。」
「あー、わかりやすい上に、凄くベタな展開ですね。」
「面白くもなんともないわよね。で、アルフェを挟んで女の子同士が言い争い始めちゃったの。で、ヒートアップしていくうちに…
…ぷぷ、傭兵やってて、ちょっと有名になり始めてたもんだから、調子こいてたのかしら。アルフェったら素人の、それも女の子にお腹ナイフでぐっさり刺されちゃったのよー。」
「え、」
痛い痛い!話聞くだけで痛い!!!思わず眉間にしわが寄る。
だが、そんな私の表情からすべてを悟ったらしいアルフェ様。頭を抱えてその場にしゃがみこんでしまう。
そしてそれを上から憐みの視線で見降ろすカナハさん。シュールな光景である。
「団長もさすがに心配半分、怒り半分でね。戦場ではほとんど怪我しないくせに、町で、素人に、しかも痴情のもつれでそんな大けがを負うなんて!って怒鳴ってねぇ。
まあ、そんなことがあって、この子、後輩のカナハより小隊長になるのが少し遅れたのよ。療養と謹慎でね。」
「ルダ様治してあげなかったんですか?」
光の精霊にとって聖属性がメインの回復魔法はお手の物だろうに。
「いやいや、私が治したら、誰がやったの!ってなるじゃない。知ってるかもしれないけど、治癒魔法って敷居が高いの。傭兵団でもそう使い手は多くないわ。」
まあ、王都の学校でもやるのは基礎だけだし、本格的に治療に使えるような回復魔法はそれこそ神学校に入ってからの勉強らしいしね。
「それに、いい薬だと思ったしね。ふふ。」
そう言って笑うルダ様。恐ろしい…大体、今のこともルダ様が原因っちゃあ原因ですよ!口に出した私もアレだけど!まさか通り名が地雷とは思わないわ!!!
「ずいぶんキツイ薬ですね。」
「いや、ほんとにそうなのよ。流石にあれからもう女遊びはピタリとやめたからね。」
「そうなんですか……………ま、まあ、きっかけはなんにせよ、真人間になれてよかったですね!泣く女の子がその分減ったと思えば!うん、良いことですよ!」
「フォローになってるようでなってない!!」
ヒステリックに叫ぶアルフェ様。声裏返ってますよ。
「君も、ルダと話せるって言ってくれてれば…。」
「聞く気が無かったのはどちらですか。」
「う、」
「それに、あまり大きな声で言える話ではないんですよ。」
「ま、まあ、そうだよね…。」
あ、今までの口調と雰囲気に戻った。ちょっとホッとする。
流石にあのままの調子でいられたらたまらない。
「でも、ルダも子供にする話じゃないだろう!!」
「んー、なんとなく、この子には話しても問題なさそうな気がしたのよ。」
「…なんとなく、この子には話しても問題なさそうな気がした。と言っている。」
「なんとなくであんな話バラされちゃたまったもんじゃねーよ!!」
「あら、直感って大事なのに。サラって子供って感じしないし。」
ぎくり。
話の展開がちょっと意外な方向に逸れてきた。カナハさんも馬鹿正直に全部そのまま伝えないでくれ。
「ほんと、不思議な子よね。普通さっきみたいに詰め寄られたら、泣きだしても無理ないわよ?」
「いやー、ほんとは怖くて怖くて。チビりそうでした。」
「女の子がチビるとか言っちゃだめだよ!!」
アルフェ様、凄んだり、取り乱したり、窘めたり忙しいな。
いや、怖くなかったわけじゃない。ただ、前世のバイト先で何回かおっかない人に絡まれたことがあるからその経験と、単純に年齢的なモノから普通の子供よりは耐性があったと思われる。
「まあ、私達の事見える子は、皆少し老成してるというか…といっても、精霊と話せるのは他にキュミラス位かなぁ…あ、キュミラス知ってる?」
「はい、色々教えてもらっています。」
「ん?」
「魔術師団長殿だ。」
「ああ、キュミラスさんか。知り合いなんだ?」
色々ボロ出るし面倒だから普通に会話してるけど、ルダ様の声がアルフェ様だけ聞こえないせいで、微妙なことになっている。
「はい。」
「そっかー、凄いよね、あの人。何回か一緒に仕事させてもらったけど、とても敵う気がしないよ。魔法は当然、あの体だろう?普通に強いんだよね…。」
まあ、確かにキュミラスさんはマッチョだ。私も最初は魔法使いであることを疑ったレベルのマッチョだ。
宮廷魔術師団長である魔法の腕と、あのガタイ、しかもおそらく肉体強化魔法も使ってくるだろう。うん、弱い理由がない。
「流石に魔力の制御が他の国の魔法使い含めても、ダントツに上手いのよね。キュミラスも当然私のことは見えてるけど、私はいつもカナハにくっついてるから話す機会がないのが残念だわ。いつかじっくり話してみたい相手ね。」
「……いつか手合わせ願いたいものだ。」
おお、カナハさんがしゃべった!!それほどキュミラスさんは魔法も肉弾戦もトップレベルってことなんだな。精霊さんにここまで言われるってたぶん物凄いことだ。
「あら、もうこんな時間。ずいぶん時間を取らせちゃったわね。アルフェ、カナハ。お詫びにこの子をレヌールのところまで連れて行きなさい。」
「…ああ。行こう、アルフェ。」
「!りょーかい。」
なんのお詫びかはもう聞くまい。
それから、二人(+ルダ様)に連れられて私は目的のファジル商店に無事到着することができた。
しかもさっき聞いてた通り、そこにはお目当ての本があったよ!!わっほい!!
「よかったわねー。」
本を抱えてニヤニヤする私を店主のレヌールさんが生暖かい目で見守ってくれている。
このぼんやりした可愛いお姉さんが情報屋…?と思ったけれど、今は本をゲットできたことがうれしいので、まあ、どうでもいいや!!!!




