まさかのNGワード
「…ちょっと待て、君、一体、どこでその名を知った?」
冷たい、というか鋭い声に、私はその声の方を振り返る。
そこには、今まで見たことのないような冷たい目をしたアルフェ様。
え、何故。何でいきなり私睨まれてんの。
さっきまでニコニコとしていた人と同一人物と思えないその表情に、私はすっかり気圧されてしまう。美形の睨み怖い。
「え、何を、」
「それはこっちが聞きたい。どうして君が知ってるんだ?レヌールを。」
「あ、ヤバ。」
耳元でルダ様がつぶやくのが聞こえる。おい、ヤバって何がだ!!!
(ちょ、ルダ様!!?いったいどうゆうこと!)
「ごめんなさいっ!!私うっかりしてた!!レヌールは情報屋もやってるのよ!傭兵団ごひいきの!」
いつも悠然とした感じのルダ様が珍しく慌てている。ルダ様曰く、
・『導き手のレヌール』と言うのは、一般的には知られていない二つ名であるらしい。
・この名で呼ぶのは、傭兵団や、裏のお仕事をしている人達だけ。
・一般人が呼ぶとしたら、なんでも屋のレヌール(普通だ…。)
つまり。
(アルフェ様は、普通の人が知らないはずのレヌールさんの二つ名を知ってる私を、もしかしたら敵じゃないかと疑っているってこと?)
「そういうことだわね……。」
(はぁぁぁぁぁ!!!???冗談じゃないっすよ!!!)
思わず変な口調になるが、無理もないだろ!!
相手傭兵だよ!しかも凄腕っていう!!私もう死ぬしかないじゃん!!!!!
(えええ、どうしよ、うわー!!死ぬ、死ぬ、絶対死ぬーーー!)
「……まあ、魔法の発動くらいなら妨害できるけど…武器で来られたらどうしようもないわね………カナハ、何とかしなさい。」
「え……?」
いきなり話を振られて、カナハさんが肩を震わせる。まあ、驚くよね。
そんな間も、アルフェ様は私に対して鋭い視線を向け続けている。
正直あまり気分のいいものではない。それどころか、だんだん怖くなってきた。私は自分の背に冷や汗が伝うのを感じる。
そうなんだよな。この人達って戦いを生業にしてる『傭兵』なんだよな。
第一印象がチャラくて、物腰が柔らかい上に、正規軍と変わらないような扱い受けてると聞いてたせいで忘れがちだけど、本質はきっと、思ってるよりずっと荒っぽい。
一言で言えば、『荒くれもの』なのだろう。
「……おい、」
それでも、興奮を鎮めようと肩を叩くカナハさんの手を振り払って、アルフェ様はなおも詰め寄ってくる。もう誰の言葉も耳に入らないようだ。
「返答によっては、こちらも考えなければいけなくなる。」
「あー、もう!アルフェの悪い癖が出たわ…。頭に血が上ると、話聞かなくなるっていう…。
ちょっとカナハ、貴方の相方でしょう。何とかしなさいよ……とは言ったもの、カナハがアルフェを丸め込めるとは思えないしねー。はぁ……こういう時、直接話せないのってアレよねえ。」
さりげなく、カナハさんをディスるルダ様。まあ、確かに上手に説明できるようには思えない。
カナハさん、ごめんなさい。
だってカナハさんってば無茶苦茶無口なんだもん!!!しかも喋っても声超ちっさいし!!
「しょうがない。人の話を聞かないアルフェが悪いのよ。ねえ、サラ。ごにょごにょ。」
アルフェ様の殺気のようなものに中てられ、正直もう帰りたい状態の私の耳元にフヨフヨ寄ってきたルダ様が私にこっそり耳打ちをする。
「……へ?」
「うん、言っちゃいなさい。」
「え、でも。これ、」
「一番手っ取り早いのよ。いいから、ほら早く。」
「…何をぶつぶつ言っている!」
ついに声を荒げたアルフェ様の様子に、さすがにカナハさんが強引に肩をつかんで止めに入る。でも、この調子だとたぶん振り切られるだろう。
そう確信した私は、意を決し、その言葉を口にした。
正直、効果があるかどうかはわからないけど。ていうか、意味不明だけど。
「ヴィヴィアン。」
「…は?」
「ティリス、ジュゼット、マデリーン……えと、カティア。」
「ちょ、え、な、」
「あー、……イレーネ、フェン、チェリス。」
耳元でルダ様に耳打ちされた言葉………たくさんの女性の名前を、訳も分からないまま復唱する私。
「キャスリーン、レナ…え、違う?エナ。」
違う違う、と首を振るルダ様の様子に慌てて言い直せば、視界の端に映るアルフェ様の顔色がみるみる青くなっていく。
アルフェ様が元々色白だから血の気が引くとマジで青白いな。
しかし、詳細は分からないけど、女の人の名前を連呼すると青ざめるって…なんだろ、振られた女……はこのイケメンっぷりからしてないな。捨てた女かな。
なんにせよ、ろくな関係じゃなさそうだ。
「……君、まさか。ル、ルダと……。」
あ、気付いたか。
まあ、最終手段だよね、これ。だってルダ様と話せることを白状するってことだから。
顔色を悪くしたまま後ずさるアルフェ様を、今度こそ背後からカナハさんがホールドする。そしてそのまま耳元でささやいた。
「…これ以上、人の話を聞かないようだと、この子にあの事件の話をするぞ、と言っている。」
「!!」
アルフェ様は、その瞬間口をあんぐりと開け、そして拘束と解こうと身をよじりだした。
「は、放せ、カナハ……!!」
先ほどまでの威圧感はどこへやら、必死で暴れているアルフェ様…が、力はどうやらカナハさんの方が上らしい。後ろからがっしり捕らえられてしまっている。




