不思議なお店と中二な二つ名
「一人で大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
「ほんとに?」
「お願いだから信用して……。」
同室のプリメーラちゃんにお母さんのように心配されながらも、私は鞄を掴み小走りで部屋を後にする。
私だってもう4年生。一人でお出かけ位できる!!しかも中身は更にプラス19年だ!!!
今日は休日。
お天気も良く……ぶっちゃけ暑い。
それでも木陰に入ると結構涼しいのだ。
この辺、日本の夏と違うよね。
(あんな風にジメジメ蒸し暑い国もあるのかな?)
世界を旅する、例えば冒険者の人達なんかは知ってるかもしれないね。
いや、聞いたところで行くとは限らないんだけど。
それにあの蒸し暑さを正直また体験したいかというと……うん、数分でもういいや、ってなりそう。
あ、話が逸れた。
えー、本日私は私用で町まで出てきています。
別に特別な用事があるわけではない。
こっちに来てから、趣味は読書です!といった勢いの私だけど、楽しみにしている本の最新刊が本日発売なのです。
え、図書館があるだろって?
いや、その本は勉強とは直接関係のない本……ぶっちゃけライトノベルっぽい本なので、何年も前に発売された既刊はともかく、最新刊についてはたとえリクエストしたところで、優先度は後回しなのだ。
でも、私はその本の続きがどうしても読みたかった。数年ぶりの新刊だしね。既刊はすでに何度も読み直してるくらいだし。
というわけで、町の本屋さんにその本を探すため私はこうしているのです。
「あ、あった。」
町の中心にほど近い大きい本屋さん。
前世からのおなじみの光景、新刊は入り口付近に平積みスタイルである。
その山を私は目を皿のようにして見つめる。
「…え、無い。」
しかし、そこにお目当ての本は無い。何度見直しても無い。
何故!?人気シリーズの最新刊だよ!!?
「あの、すみません。」
「はい?」
「今日発売の、『ウルとベリルと魔法の剣』って置いてないですか?」
近くで棚の整理をしていた店員さんを捕まえて聞いてみれば、彼は軽く頭を下げながら、申し訳なさそうな表情になる。
「あー、あの本、もう売り切れちゃったんですよー。」
「ええっ!?」
「なんでも数年ぶりに続きがでたからって、予約していく人も結構いましてねぇ。」
マジかよ!
複数冊ずつある既刊も、図書館で貸し出し中になってることが結構あったから人気あるのかなーと思ってたけど、まさかそれほどとは。
「ちょっと時間はかかりますが、取り寄せましょうか?」
親切な店員さんの申し出だけど、とりあえず他所を探してからと一旦断り、私は他の本屋さんへ向かった。しかし…。
「もうないんですよ。すみません。」
「さっき最後の一冊が出ちゃいまして。」
「うちは予約分だけで完売で…。」
まさかの全敗である。
さすがに呆然とする私。
そんな私を見かねてだろうか。
可愛い眼鏡の店員さんがおずおずと言った様子で声をかけてくる。
「必ずとは言えないんですけど……ここからちょっと離れたところにも本屋というか雑貨屋さんがあるんですけど、もしかしてそこにまだ残ってるかもしれません。」
店員さんの話によると、この大通りから少し離れたところにある、知る人ぞ知る……言い方を変えるとマイナーでマニアックな本屋兼雑貨屋さんに、もしかしたらお目当ての本があるかもしれないということだ。
人気シリーズなので、さすがのその店にも無いかもしれないと付け加える店員さんだけど、それならそれで諦めるしかない。その場合は潔く取り寄せてもらおう。
店員さんにお礼を言ってからレジ脇の可愛い栞を買い、私はそのお店を目指すことにした。
教えてもらった通りは、大通りからちょっと路地裏に入ったところ。とはいえ、王都なので基本治安はいいはず。私以外にも一人で歩いている子供がいるくらいだ。
時々RPGであるスラム街とか、暗黒街とか、そういった感じではない。あ、歓楽街もないよ!(学校が近いからこっちの方面にはそういう店は無い。)
お店もあるけど、ところどころに民家もあるって感じ。
「おお、噴水。」
途中の小さな公園のようなところには、キラキラとした水を散らす噴水があった。
小さい噴水だけど、思わず足を止めてしまうのは、その噴水から水の魔力と、更に光…つまり、聖なる魔力が感じられたからだ。
「聖水ってことか?」
「あら、さすがね。」
「ほ?」
聞き覚えのある声に振り向けば、そこにはカナハさん、ルダ様、そしてアルフェ様の姿が。
「あ、どうも。」
「……よう。」
「あ、この間の子。」
「どうしたの?今日は一人?」
「はい、…あ、」
やべえ、普通にルダ様と会話しそうになった。
カナハさんは、私がルダ様と話せることを知っている。しかし、まだアルフェ様には明かしていない。ルダ様にも話す相手は慎重にって言われたしね。
まあ、カナハさんの相棒っぽいし、カナハさんとルダ様のことは知ってるみたいだから喋ってもいいのかもしれないけど、まだ知り合って日の浅い人に明かすにはちょっとアレである。
(んと、本を探しに来たんです。)
「あら、こんな裏通りまで?」
(表通りの店は全滅でして。)
私がそう答えると、ルダ様はああ、といった表情で通りの更に奥に視線をやる。
「となると、レヌールの店ね。まあ、あそこなら本でも道具でも、それこそ武器でも置いてるわねぇ。」
(レヌールさん?有名な人ですか?)
「変わり者でね。まあ、でも商売人としては一流よ。いろんな意味で。」
ルダ様の表情がなんとも言えない感じになる。
なんかルダ様ってそこら辺にいる精霊さんより位が高いせいか、表情が人間っぽいんだよね。
(色々置いてるからお店の名前がファジル商店なんですね。)
「そ。不思議な子でね。不思議と自分の店に来る人の欲しいものがわかるのよ。んで、先回りしてそれを置いておくの。私達の間では導き手のレヌールなんて呼ばれてるわ。」
「導き手のレヌール…。」
なんか中二っぽい響きだけど、なんかかっこいい。いかにも二つ名って感じで。
とにかく、そのレヌールさんは不思議な力があるのか、勘がやたら鋭いのか、はたまた、たまたま適当に集めた商品が来る人のニーズに偶然合致してしまうラッキーな人なのか。
ルダ様がそこまで言う人だ。もしかしたら私の探している本もあるかもしれない。おお、希望が湧いてきた。
俄然テンションの上がってきた私。このままの勢いで突入だ!!そして今夜は徹夜してでも読破してやる!!
そう意気込み、再びお店を目指そうとした私だったが、そこで思わぬところから横槍が入った。




