よくあるすれ違い
さて、お土産も無事確保した私たちは、ラクラエン行の馬車に揺られています。
王都に来るときは人力車だったけど、今回は馬車です。知らない人達と乗り合いだけど、その分価格はお手頃。チャーター便と定期便の違いみたいなものかな?
ちなみに、馬車と言っても前世の記憶の馬とは違ってなんが凄まじくごつい生物…ていうか。魔獣です。
こいつ、肉食じゃないんだぜ?と言われたときはマジかよ、と思った。それくらいごつい。どっちかっていうと恐竜に近いかも。
人力車とは違うルートで速度も遅めの為、途中で二泊を挟み、ラクラエンには昼過ぎに着いた。
前世の日本とは違い、魔物が出るこの世界では人の住む場所は基本的に固まっている。
ラクラエンは防壁がしっかりしているとかつて習ったが、改めて意識してみると本当に他の町より堅牢なつくりをしている。
「ありがとうございました!」
「はいよ。おつかれさん。」
馬車はここから更に西ラクラエンに向かうらしい。森を避けるため半日くらいかかるとのこと。大変だな。
笑顔の御者さんを見送った後、私たちは門の方へ向かう。
「ほら、サラ、シャルロッテ、荷物こっちによこしな。」
「おお、ディアン。ありがとう。」
スッとさりげなく、ディアンが私たちの荷物まで持ってくれた。騎士の教育を受けているせいだろうか。ディアンは以前よりこういう気づかいができるようになった気がする。将来モテるぜ!やったね!!
門番のお兄さんにおかえりーと迎えられながら、町の中を窺えば、なかなかに活気のある東ラクラエンの通りが見える。
「あんまり変わらないね。」
「そりゃ、一年位じゃね。」
「そうか?」
「ディアンは去年来なかったもんねー。」
ディアンは去年、騎士学校の強化合宿に参加していたため帰省していないのだ。
夏休みほとんど潰されてしまったと嘆いていたが、その合宿で第二騎士団の人に声をかけられたのだから、結果オーライだろう。
「あ、ダリルさん。」
「あれ、サラちゃんに、シャルロッテちゃん、お、今年はディアン君もいるんだね。」
と、そこで見覚えのあるネコミミに声をかけられた。
相変わらずイケメンなダリルさんは、今日も鮮やかな黄緑の目をキラキラさせながら走っているようだ。
「こんにちは、ダリルさん。」
「おかえりなさい。みんな。」
にっこり微笑まれると、まぶしい。彼は年齢的に十分大人の男性のはずなんだが、どことなく少年っぽさを感じるんだよなぁ。ネコミミのせいか…というか、獣人系の人達って肉体の成長度合いは人間と一緒なんだろうか。
ダリルさんの笑顔にやられながらも、お仕事頑張ってくださいと声をかければ、ダリルさんは私の頭を撫でてくれる。
「大きくなって…。サラちゃんはあと一年?」
「はい。」
「じゃあ、君たちは今年卒業か。早いもんだね。」
「ですねー。」
「こっちに戻るの?」
「いいえ、二人とも上級学校に進みます。」
きっぱり答えるシャルロッテ。その瞳は揺るがない。迷いのないその返事がうらやましくなる。
「そっか。寂しいけどしょうがないね。凄いな、僕は魔法はさっぱりだったから。サラちゃんは?」
「私は、ラクラエンに戻ってきたいんですけど。」
「けど?」
「……正直まだ色々迷い中です。」
へい。
私はいまだに悩んでいました。
その私の煮え切らない返事に、ディアンが呆れた視線をよこす。
「優柔不断にも程があるだろ!!あと一年しかないんだぞ!?」
「そろそろ進路調査来るよー。」
進路調査。なんかすごい懐かしい。ていうか、またその名を聞くことになろうとは。
「成績は大丈夫なんでしょ?とりあえず上級学校に行ったら?」
「まあ、それが一番無難なのかなぁ。」
実は、キュミラスさんにもそう言われていた。とりあえず上級学校に進んだらどうかと。
はっきりは言わないがキュミラスさんも自分と同じような能力を持つ私の存在はちょっと気がかりなようで、なるべく自分の目の届く範囲に置いておきたいような様子だったのだ。
まあ、だからこそ入学式のあの時、話しかけてきたのかもしれない。宮廷魔術師になれるかはともかく、上級学校に進めば王都に残ることになるから。
「そうなんだ。まあ、学べるところまで学んでみるのもいいかもね。」
そう笑ってダリルさんはじゃあ、と走って行ってしまう。
彼は魔法がさっぱりと言っていたが魔術学校でそれなりに学んだ今ならわかる。彼も肉体強化魔法が上手い。
猫っぽいからチーターとかそっちに近いのかな?強化した俊足でテキパキ動きまわる彼には、配達人と言う職業は天職に思える。
「ダリルさんかぁ…サラって、獣人っぽい人好きだよね。」
「な、誤解を招くようなこと言わないでよ!シャルロッテ!」
一陣の風のように走り去ったダリルさんをボーっと見守っていると、唐突にそんな風に声をかけられた。
「ダリルさんもそうだけど、同級生の子にもいるでしょ?あの子の耳を物欲しそうに見てるよね。」
「メメリアちゃんのこと?」
うっ、シャルロッテ、鋭いなぁ…。
確かに私は獣人系…というか、いわゆる「ケモミミ」に弱い。
生まれた時から当たり前なものだと思えばあんまり気にならないのかもしれないけれど、前世の記憶が残っている私にとっては気になるパーツなのだ。
当たり前が当たり前じゃないんだよ。私の感覚だと。パーツもそうだけど、この世界って人が纏う色彩も前世より非常に豊かで、それこそアニメとかでしか見たことない容姿の人がそこら中にわんさかいる。
無茶苦茶自然なコスプレみたいなもんなのかな。いや、コスプレ間近で見たことないけど。
とにかくそういった感覚なんです。おお!!凄い!!って思っちゃうんですよ、一瞬。
10年たっても未だに慣れないんですよ!
「自分の見た目が地味だからかな。派手な人に目が行っちゃうんだよねー。」
「お前、それおじさんとおばさんに言うなよ。泣くぞ。あの人達お前の事溺愛してるんだからさ…。」
ディアンが呆れた目で再び見てくる。地味に傷つく。ていうか、そんな風に思われてたのか。うちの両親。
いや、でも地味なもんは地味なんだよ。残念ながら。
「それに、俺はいいと思うけどな。サラ目と髪の色。」
「え。」
が、続けられた言葉に私は目を見開く。え、なに?褒められたの?今。
ディアンの後ろでは、シャルロッテも目をまん丸くしている。だよね。驚くよね。
「…どうしたの、ディアン?って、あー、騎士って女性の扱いも重要なんだっけ。ありがとう。慰めてくれて。」
騎士道ってやつだな。女性をエスコートしたり、気遣いしたり。戦いだけじゃないってことか。
ディアン、いいヤツだ…。
「お前っ…もういい!!」
「あ、ごめん。」
しかし今度は一転、怒られた。
その形相に私はよくわからないけど謝ってしまう。
「ディアン、唐突すぎ。」
「うるせー。」
ディアンの背後では今度はシャルロッテがため息をついている。
「ほら、行くぞ!」
「あ、うん。」
ぷりぷり怒りつつも、そう促してくれるディアンはやっぱりいい奴だ。荷物持ってくれるし。
そんなことを考えながら、私は一年ぶりの両親の顔を見に家へ向かうのだった。




