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それぞれの事情


「つ……っかれたぁぁぁ!!」


声には出さないけど、私もグレッチェンちゃんに全力で同意。

更衣室を見渡せば、同じようにぐったりとしている子がほとんどだ。


あ、私たちは2年生になりました。イエイ。

さて、いきなりですが何故こんなにクタクタなのかというと、2年生になると始まる授業の内容のせいなのです。


1年生の時は、体を動かす授業と言っても、前世で言う体育程度でした。普通に走るとかね。

まあ、それも疲れると言えば疲れるんだけど、2年生になってからの授業はそれにさらにプラスアルファがあった。


動きながらの魔力制御である。

これがまあ、疲れる疲れる。


止まった状態で行う分にはどうってことないことも、動きながらだと集中の度合いや、タイミングが非常に難しくなる。

しかも先生が「はい、そこで魔力を両手に留める!」とか指示出してくるもんだから、さらに混乱することになる。


まあ、実践的な魔法の運用には欠かせないんだろうね。デスクワーク的な仕事ならまだしも、魔術師や冒険者を目指すなら動きながら魔法を発動できなきゃ何の意味もないし。


「しかもこの後、魔法理論の授業とか…。」

「寝そう…、いや、絶対寝る。」


カリナちゃんの言葉に私の気分が沈む。

魔法理論は、通常でも眠くなる授業の筆頭である。小難しい理屈、複雑な計算式、妙に眠気を誘う担当教師の声……眠くならない要素がない。


「そういえば、この間、廊下で寝てる子がいたよ。しかも熟睡。」

「ええ……。」

「マジで!?」


廊下で!せめて自分の席で寝ようよ、その子。


「そうそう。見たことない男子だったけど、そりゃもう熟睡って感じ。友達っぽい子に引きずられていったけど。」

「へ、へえ。」

「寝てる本人はあんまり目立たない感じの子だったけど、その友達っぽい子が超ハデだったから超目立ってた。黒と黄の髪って凄いね。」


……ソーン君とベリリアント君じゃん!!もしかしてあの二人同じクラスなのかな。


「あー、たぶんそれ、東ラクラエンの子だわ。」

「ほんと!?はは、サラの地元面白すぎ!」


皆に笑われてしまった。いや、東ラクラエンは別に面白い所じゃないぞ?


そうそう、基本的にはクラス替えと言うものはありません。

この規模の生徒たちを再び振り分けるのが大変だからかな?

ただし、上級生になると選択制の授業が増えるため、通常のクラスで授業を受ける機会はぐっと減るとのこと。



「それにしても、ルゥナちゃん、すごいね!」



そんな話をしていると、更衣室のある方向からそんな声が聞こえ、私はそちらに視線をやる。




部屋の端の方。

他の子と話をすることも無く黙々と着替えたせいか、既にほとんど身支度を終えた黒髪美少女こと、ルゥナちゃんがクラスの他の子に話しかけられているところだった。




2年生になっても、相変わらずルゥナちゃんは一人でいることがほとんどである。

別にハブにしているわけじゃないから、グループ分けの時とかにトラブルが起こるわけじゃないんだけどね…。


話しかけても無視するわけじゃないんだけど、あからさまに雑談を避けている雰囲気が感じられるから、皆あまり積極的に話しかけないのが現状だ。



そんな中話しかけた子はある意味勇気がある。

まあ、確かに凄いと思うのは分かるよ。


ルゥナちゃんは集中力が凄い。


運動神経が特別いいってわけじゃないみたいだけど、動きながらでも先生の指示についていけていた。



私?



テンパって左右を間違えたり、聞き間違いで指示されたこととは微妙に違うことをしたり…、まあ、お察しください。


「…別に普通。」

「えー、先生もほめてたじゃん!」

「確かに、すごいよねー。」


他の子達も口々にそうルゥナちゃんを讃える。

うん。気持ちはわかる。

成績優秀な美少女…。いいよね。ていうか、一緒のクラスになって二年目なんだから、そろそろ仲良くなりたいのもわかる。


だけど、そんな言葉にもルゥナちゃんは硬い表情のままだ。

それに周りの子は気づかないのか、どんどん盛り上がっていく。


「私なんて、魔力が分散しちゃって散々だった。」

「私もー。だから見てて凄いと思ってたよ。」

「まだまだ、足りない。こんなんじゃ。」


うおう、ルゥナちゃん、頑なだ。褒められ慣れてないのかな。それにしても素気ないね…。


「えー、そう?」

「もっと練習しなきゃならない。全然ダメ。まだ完璧じゃない。」


相変わらずの表情でそう自分に言い聞かせるようにつぶやくルゥナちゃん。なんか凄まじい気迫を感じる。


「そんなに思い詰めなくても…。」

「…完璧って、まだ二年生じゃん。無理は良くないよー?それに女の子なんだし…。」


だが、その瞬間ルゥナちゃんの表情が一変する。

そしてその言葉を発した子をにらみつけると、物凄い剣幕で、まくしたてた。


「女の子?だから何なの?」

「え、ルゥナちゃん…?」

「だから、手を抜けっていうの?」


突然詰め寄られた子は、目を見開いて固まってしまっている。ついでに周りの皆も唖然とした様子で固まっている。私も含め。


「そ、そういうわけじゃ…。」

「そうだよ、ルゥナちゃん。メリッサちゃんだってそういう意味で言ったんじゃないよ。」

「先生も言ってたじゃん。無茶すると、特に女の子は体に影響しやすいから、って。」


ああ、そういえば初期の授業のころ、無茶な自主練を戒めるためか先生がそう言ってたな。

実際どうなるかはよくわからないけど、アレかね。ホルモンバランスが乱れるとかそういうことがあるのかね。


「…。」

「ルゥナちゃん?」

「私はどうしても宮廷魔術師団に入らなきゃいけないの!女の子なんだからとか言って甘ったれていられないの!!」


いきなりそう叫ぶと、ルゥナちゃんは走って更衣室を出て行ってしまう。

それまでそれなりにざわついていた室内は、嘘みたいに静まり返っていた。


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