(番外編)心配性の、この人と。
ちょっとした番外編です。
※キュミラスさんの奥様視点
※キュミラスさんの奥様視点
「ただいま。」
「あら、お帰りなさい。」
ここは、クルーヴ王国、宮廷魔術師団の宿舎。
そこで私、アリア・リシーバ・ダーマは夫であるキュミラス・ロウ・ダーマと暮らしている。
最近、夫は仕事を終えた後、時々魔術学校の方へ行っているらしい。
将来の部下を育成する上級学校……研究所の方ではなくて、基礎を学ぶ子供たちがいる魔術学校の方へ、だ。
珍しくはないけど今までに比べ頻度が高いみたいだから、ちょっといつもと違うな、と思っていた。そのうち何があったか聞いてみようかと思っていたけれども…どうせだから、今聞いちゃおう。
「将来有望な子でもいたの?」
夕飯の用意をしながら、軽くそう尋ねたのだが。
「有望かどうかはまだわからんが…同類がいた。」
「え。同類って……。」
「ああ。見える子だ。」
予想以上のその言葉に、私は心底驚愕した。
それはもう、思わず持っていたお皿を落としそうになってしまった程に。
夫は精霊とコンタクトをとれるという非常に稀な才能を持っている。
それは持ちたくても持てない才能だ。
私だって、魔術師団の中では五本の指に入る実力を持つと自負しているけれど、精霊を見たり、会話することはできない。
「それ本当?何年ぶり?」
「ガラドゥール老師が亡くなってからだから…25年ぶりだな。」
「はぁー、そんなになるのね。」
ガラドゥール老師は特定の国に所属しない、いわゆるフリーの魔術師でありながら、宮廷魔術師を凌ぐと言われた魔術師である。
彼は若かりし頃、仲間とともに邪竜を始めとした強大な魔物を何体も討伐したという実績を持つ。
当然ながら、その後色々な国からスカウトを受けたが彼はそれをとうとう亡くなるまで拒み続け、最後は辺境の村でひっそりと亡くなったという。
その情報だって、精霊から聞いたキュミラスが掴んだものだ。正直精霊からの情報がなかったらガラドゥール老師が亡くなったことを私たちは知ることはできなかっただろう。
「見込みがありそう?」
「まあ、魔術学校に来るくらいだから、魔力は高いだろう。だが、本人は欲がないというか…。」
夫の表情は複雑だ。まあ、確かにそれだけの希有な才能を持っていながら、意欲がないのはもったいないというか、なんというか。
クルーヴ王国だって今は落ち着いているとはいえ、周囲に敵国がいないわけではない。
優秀な人材は喉から手が出るほど欲しいのだ。
「上手く言えないのだが…性格が妙に落ち着いてるのが気になる。」
「あら、貴方だって年齢の割には…。」
私は、そう言いながら昔のことを思い出す。
私たちが王都の魔術学校に入学した時だから、うわ、もうそんな前の話になるのね。
まだ10にもならない子供たちの集団。
おませな女の子と違って、男の子は落ち着きのない子が多かった印象がある。
いたずらしたり、走り回ったり。
しかし、この人は違った。
自分と同い年のはずなのに、まるで親たちと…ううん、悪いけど、おじいちゃん!ってくらいに落ち着いていた。
例の能力のことを知ったのはずぅ~っと後のことだけど、それにしたって年とはかけ離れた落ちつきっぷりだったのを今でも覚えてる。
まあ知った後だと、一体精霊たちは彼にどんな教育をしてたのかしらと、疑問に思ったものだけどね。
「何か言いたげだな。」
「うふふ。別に。」
「…ふぅ。まあ、今のところは様子を見る限り、万が一という可能性は低そうだがな。」
「……そっか。」
心底安堵したような夫の表情。
はっきりは言わないけど、夫が何を言いたいのかはわかる。
私達が宮廷魔術師団に入ってから、約30年。
その中で魔人化したものが二人。魔人化までいかない魔力暴走の結果、狂化した者が4人。
魔人化した二人のうち一人は、入団して間もない頃、10歳くらいかな?年上の団員だった。
そしてもう一人は、私たちの同級生。
一緒に入団した子だった。
私もそうだけど……この人は恐れている。
魔力の本質を誰よりも知っている人だからこそ、その暴走が恐ろしいのだ。
私にできるのは、そんな夫に寄り添い、話を聞くこと。
そして、もし必要なら、持てる力を全力で振るうこと。
そんな事態にならないことが一番だけど…何が起こるかわからない。
人生なんて、そんなものなのかもしれない。
「さて、真面目な話はここまで。あのね、今日連絡があったの。ヒューナとルクスが今週末帰ってくるって。」
「!そうか。1年ぶりか?フッ、美味い酒でも用意しておくか。」
それまでの話から一転、独立した子供が帰省するという話をすれば、一気に夫の表情が明るくなる。
良かった。
心配性の夫も、さすがに子供たちに会えるとなれば気持ちが浮かぶらしい。
子供たちは二人とももう十分大きいけれど、この人は子供たちが小さいころから変わらず、ずっと子煩悩のままだ。
(楽しい週末になりそう。)
早速あれこれ歓迎のための準備を考え始める夫の姿に安堵した私も、週末の予定に胸を躍らせるのだった。




