魔王城の日常3
「失礼致します、魔王様!
極東第七支部支部長パング、ご報告のためただいま帰還致しました!」
胸に拳を当てて、びしりと敬礼をしたのは牛系魔物。
簡単に言えば二律歩行したバッファロー。
彼に続くように、ぞくぞくと魔物達が帰還した。
総勢24名。
世界各地を侵略しようと展開している魔王軍各支部のトップたち。
誰もが例に漏れず一騎当千の力を持っている。
一度戦場に現れれば、生きて帰れるものはいないと言われる程の猛者。
その中にちょこんと小さな影が並んでいる。
もちろん、ちーちゃんだ。
何でも真似してみたいお年頃。
「西方マーロ帝国支部は現在膠着状態。マーロ聖騎士団は隣国ギリスと手を組み、我がマーロ帝国支部と睨みあっている状況です。しかしいまだ戦力は6:4でこちらが優勢。必要とあらば我自ら戦場へ向かう次第でございます」
「うむ、ご報告ありがとう。まあ、無理はするな。貴様が前線から退くことにでもなれば、周辺の戦力図ががらりと変わってしまうでな」
「はっ、承知いたしました!」
「次は…」
魔王が視線を巡らせると、らんらんと輝いた目で見つめてくるちーちゃんがいた。
きっと報告の真似をしたいのだろう。
しかしここは遊びの場ではないのだ。
一族の進退を決めかねない、大事なことを決める会合である。
いくらちーちゃんと言えど、甘やかすことはできない。
ここは魔王の威厳を見せてやる時だと、キッと目を凄めちーちゃんを見る。
(らんらん)
「はぁ、ちーちゃん報告を」
「はいっ、こちらちーちゃん7歳!
今日は湖にいってウロちゃんと一緒におにぎりを食べました。
あと花飾りも作りました。
お母さんのお手伝いのためお城へ来ています!」
「う、うむ、ありがとう。
それでは皆、引き続き我が魔族のために、その力を捧げてくれ。
以上、解散っ!!」
魔王の号令と共に、支部長たちは散り散りとなる。
その中の一人、ボロス将軍がちーちゃんに近づいてきた。
「ちー殿、久しぶりでござるな。一人でお使いとは立派になられたな」
「あっ、こんにちわ、ボロスさん!今日もいい鱗ですね!」
震撃の竜人と人族に恐れられるボロス将軍。愛槍テュマヨズを一度振るえば、その威力足るや地震をも引き起こすと言われている。
「ちー殿からも父君に頼んでくれないだろうか?
かねてよりグングニルを売っていただきたいとお願いしておるのだが、魔族に売る武器はないと、突っぱねられてのう。
あれほどの名器が埃を被っているのは忍びない」
「うーん、よくわからないけど、お父さんは『ぷらいどの問題だ。人間にひとつも売れない内から、ご近所さんに頼っちゃあ、武器屋の名折れ!』とか言ってたよ」
「うむ、プライドであるか。
ならば、仕方ない。
しかし心変わりがあったのであれば、いつでも声をかけてくだされ。そう父君に言伝しておいてくだされ」
「うん、わかった!」
のしのしと歩き去る、ボロス将軍。
人は訪れない、村人には用がない、そんな武器屋だが、城の魔族たちからは需要が高かった。
なんせ伝説級の武具がゴロゴロとしているのである。
そのどれもが神をも殺す力を秘めている。
ひとつでもどちらかへ手渡れば、戦況はそちらへ傾くだろう。全て戦場へ投入すれば、あっという間に勝利を収めることができるだろう。
ボロス将軍に限らず、彼の武器を欲するものは多い。
階級の低い魔族の中には、盗み出そうとするものまでいる始末。まあ、一人も漏れずに返り討ちにあっているが。
見つかれば怪我を負うだけでなく、魔王直々の懲罰もある。
だが、そのリスクを背負ってでも、有り余る魅力。なんせ武器さえ手に入れば、支部長に並ぶ、もしくはそれ以上の力を得ることができるのだから。
人類がいまだ魔族との戦いを持ちこたえていられるのは、ひとえに武器屋の小さなプライドあってこそだろう。