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おいでよ、最果ての村!  作者: 星野大輔
プロローグ
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村の日常3

「なんか、おにぎりがやたらでかくなかったか? 形もデコボコしてるし」


昼ご飯を食べ終えた武器屋の主人ことブンタは、指についたご飯をなめとりながら、一個だけやたらといびつだったおにぎりについて感想を述べた。


「それに塩をつけすぎだぞ、口の中がジャリジャリして…」

「あらあら、それはあの子が作ってくれたのよ」

「どおりでおいしいわけだ」


おっとりと喋るのは、ブンタの妻であり一児の母であるシーレ。


「なんだ、今日は俺の誕生日か!?いや、ちがう、先月終えたばかりだ、しかしなぜ、急に手料理なんて作ってくれたんだ、まさかパパが好きすぎて!ありうる!!」

「違いますよ、今日森へお出かけするから、お友達と一緒に食べるんだって言って、あなたのは失敗しちゃって捨てるのも勿体ないからね、ふふっ」

「ナイス母さん!まさか娘の手料理がこんなにも早く食べれるなんて、今日の日記は大作になりそうだぜ」


興奮やまないブンタをよそにシーレは洗い物をしながら「あらあら」と微笑んでみていた。


「ところであなた、まだお昼を回ったばかりなのにお仕事はどうしたのからし?」

「…お客がこないから閉めてきた」

「あらあら、いち親としてどうなのかしらね~、娘にそんな姿見せてなんともおもわないの?お客がこないから?いつものことでしょう?それにもし、万が一客が来たらどうするの、いつもこないからといって今日もこないとは限らないのよ。店の前でぽつんと立ち尽くしているかもしれない、ああ可哀想なお客さん。遠く険しい道のりを乗り越え、やっとたどり着いた村。装備はぼろぼろでもう使えない。これより先に進むには新しい武器が必要だ。だと言うのに村に一件しかない武器屋は閉まっている。徒手空拳で魔王城に乗り込むお客さん。ああ、せっかく磨いた剣技も使えない、かわいそうなお客さん。

でも、しょうがないわね、だってあなたが休みたいって思ったんだもの。例え、お客さんが魔王城で朽ち果てようが、娘に昼間から家でごろごろする父の姿を幼心に刻みつけようが、あなたが休みたいんですものね。ええ、しょうがないわ。あら、どうしたの鞄なんてもって」

「…もう一度、店開けてきます」

「あらあら、いってらっしゃい」


背中を丸めとぼとぼと家を出ていくブンタ。


それから数分後、入れ替わるようにして一人の娘が帰ったきた。

「おかーさん、ただいま!」

「あらあら、お帰りなさいちーちゃん」

「あのね、おにぎり喜んでくれたよ!」


空っぽのバスケットを差し出し満面の笑みを浮かべるちーちゃん。


「よかったわね、ちーちゃん」

「うん、また今度も作っていくって約束したんだ、次はなにがいいかなー」

「そうね、サンドイッチなんてどうかしら、外で食べるにはちょうどいいわよ」


和気あいあいと母子の会話が繰り広げられる。


「あれ、そういえばお父さんは?いつもこの時間には帰ってきてるのにる」


不思議そうに家の中を見回すちーちゃん。


「お父さんはまだお仕事なのよ、ちーちゃんがおにぎり作ったの知って、お父さんも、負けてられないって、またお仕事に出かけちゃった。」

「えへへ、そんなに喜んでくれたんだ」


数分前にこの家で行われたやりとりを知らない、父の重く沈んだ背中を知らないちーちゃんは純粋に嬉しそうに笑った。


「そうだわ、ちーちゃん、良かったらおつかいに行ってくれないかしら?」

「おつかい?」

「ええ、本当はお父さんに行ってもらおうと思ったんだけど、お仕事忙しいから」

「分かった、おつかい行ってくるよ!」


ちーちゃんは母親の手伝いをするのが嬉しい、ちょっとおませなお年頃。

いったいどんなお手伝いなのか聞くことも無く、全力で了承した。


「それじゃあ、一度お着替えしましょうか。せっかくのおしゃれなワンピースよごしちゃうかもしれないからね。」

「はーい」

「あら、可愛らしい花飾りね、湖でとってきたのかしら?」

「うん、湖のほとりにね・・・」


母親に手を引かれ家の奥へと消えていくちーちゃんだった。



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