第1章 オワルニチジョウ 第2話 ヘンカノトキ
夏休みに入って1週間ほど経ったその日、妾と奏は、母様に連れられ、母様の務める製薬会社の研究棟に来ていた。
「おはようございます、天月主任。その子たちが例の?」
「ええ、そうよ。娘の乙姫とお隣の東風谷 奏ちゃんよ」
「母様、気が早いのじゃ。妾は、まだ娘じゃなくて息子じゃ。明日には娘になっておると思うがの」
「そうですよ、桔梗お義母さま。明日から、女の子になった乙姫ちゃんのラブリーな姿が見れるんですよ」
「そうだったわね」
「それにしても、よかったんですか?乙姫ちゃんもそうですが、奏ちゃんも」
「大丈夫よ。ちゃんと同意書もらってるから」
「はぁ~、わかりました。それでは、臨床試験室に行きましょう」
何かをあきらめたかのような表情をした若い男性職員に連れられ、妾らは臨床試験室に向かった。
臨床試験室は、思いのほか広く、12床ほどのベッドと、そのベッド1床ごとに大量のモニター機器が置かれていた。
妾と奏は、臨床試験室の奥にあるベッドを2床パーテーションで囲ったスペースで、投薬を受けることになった。
妾が投薬を受けるものは、TS薬、所謂性転換薬で遺伝子レベルで性別を変化させることができるが、そのあまりの変化に、一生に1度しか投与することができないらしく、妾は、女子になったら、もう2度と男子に戻ることはできないらしい。
奏の薬は、女性同士で子どもを儲けることができるようになる薬で、励起薬と呼ばれる錠剤を飲むと30分後に男性器が4時間ほど生えるようになるらしい。
そんな薬を、1時間ほどかけて点滴され、経過観察のためその日は臨床試験室に泊まることになった。
点滴の後、経過観察がしやすいようにと貫頭衣に着替え、朝妾らを臨床試験室に案内してくれた若い職員さん(大迫さんというらしい)に案内され、お昼を食べに研究棟の社食に来た。
「うちでは、入院中でも好きな料理を我慢せず食べれる、そんな入院食を開発して社食で提供しているんだ」
「あれ、そうだったけ?いつも、何気なく食べてたからわからなかったわ」
「はぁ、主任はそう言うと思ってましたよ。ところで、なにを食べるか決まったかい?」
彼はそう言うと、何を食べるかメニューを見ながら話し合っていた妾らに聞いてきた。
「うむ、妾はこの富山ブラックじゃな」
「わたしはね~、このジャンボバーガーセットがいいなぁ~」
「わかりました。頼んできますので、席に座って待っていてくださいね。主任はどうしますか?」
「そうね~、私はビゴスにするわ。この子達と待ってるからよろしくね~」
「了解です。それでは行ってきますね」
大迫さんは妾らの注文を聞くと、食堂のカウンターに走って行ってしまった。
数分後、全員分の料理を持って席に着くと、会話を楽しみながらお昼を食べた。
大迫さんや、他の職員さんが持って来たゲームや映画を楽しんで、社食で夕食を食べたら、その日は早目に眠ることにした。
大迫さんは、念のためにと臨床試験室の隣のモニター室で、母様はモニター室向かいの仮眠室で眠りについた。
深夜、時計の針が午前零時をさしたとき異変が起きた。