第8話
いやあ、やったぜ!無事に第一魔物っ娘確保してさっきの草原まで逃げてこれたぜ。ちょっと星間移動の影響で気絶しちゃってるが、問題ないだろそのうち目を覚ますはず。…覚ますよな。
でも、見れば見る程可愛い顔してるよなこの娘。肌も透き通るようにきれいだし、顔のパーツの配置も芸術的だね。口が開きっぱなし、目も半開きで気絶してるからちょっと残念な感じになってるけど…。お、そういえば口からすげー鋭い犬歯が二本顔をのぞかせてるな。
と、ここで少女がうーんと言いながら目を見開いた。おお、目も宝石みたいに綺麗だな。
「はっ、ここはどこじゃ。先ほどの地獄のような光景は一体…」
とここで少女の顔を覗き込んでいた俺と目が合った。脳内で例のBGMが流れる。目と目があう…いや何でもない。
「お、お主はさっきわしを助けてくれた騎士か」
「おう、なんか悪かったな。変な連れ去り方して。俺の転移スキル気持ち悪かったろ?」
そうなのだ。俺のスキルがどれも気持ち悪い事は説明したと思うが転移スキルの星間移動も例外ではない。入口である小宇宙を超えると目的地まで高速で移動できるのだが、その際色々と名状し難いものを目にしなければならないのだ。具体的に言うと、のたうつ無数の肉塊やら、青白い触手の塊とか、小さな蟲の大群とか。結果この少女は移動中に気絶してしまったんだよな。
「う…いや、助けてくれたことは分かっておる。感謝こそすれ、非難することなどない。まあもう勘弁して欲しいがな…」
おお、この娘も思った以上にいい娘じゃないか。俺だったらあんな摩訶不思議ゲテモノ空間に連れ去られたら、あっという間に発狂もんだぜ。
「それはそうと、君の住処はなんで人間に攻められていたんだ?」
とここらで本題に入らないとなと思いながら、俺は疑問を投げかける。
「そんなこと、こちらが聞きたいのじゃ!わしらは静かに暮らしたいだけと言うのに!人間はわしのことを魔王だ何だと言うが、ちょっと長生きしてるだけの吸血鬼なのじゃ!」
鼻息荒く俺の方によってきた彼女を、どうどうと落ち着かせながら会話を続ける。
「それならそのこと向こうに伝えたかい?私はそっちに危害を加えるつもりはありません、だからほっといて下さいって」
「なんでわしがそんな面倒くさいことしなくてはならんのじゃ」
これだ、と俺は確信した。先ほど魔王城で女騎士と対峙するこの少女の前でも思ったが魔物の考え方はやはり協調性という物が圧倒的に欠けている。個人の力がなまじ強いので、必要なかったのかもしれないが長い目で見ると魔物側が不利になってくるのも納得がいくように思えた。人間の強さはその集団性と成長性にあるのだから。一人で力及ばないなら多くの者と組むし、今の自分の力に納得がいかないのなら鍛えもする。魔物にはこの考えができないのだろう。
「ふむ、わかった。じゃあ俺が君を守ってやる。君のために並み居る人間どもを蹴散らし、その謀略から救い出そう。だから俺のものになれ」
俺は聖人君子じゃないからな!魔物たちにその人間に対する心構えやら対策を教え込むのではなくて、俺に依存するように仕向けてやる。くくくっ……。目指せ魔物ハーレム!
「な、何を言うとるんじゃお主は…。そういうことは自分と同族の雌に言うもんじゃぞ。」
少女はそう言いながらも、頬を赤らめているようだ。ふむ、言葉ではこんなことを言っていても満更ではないと。これはイケるよな?まあまだ、自己紹介もしてないし、今はここまでで十分よな。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前はショク。種族は…自分でもよくわからんが、人間じゃないと思う。よろしく!」
そう言ってから俺は右手を少女の前に差し出した。
「わしは吸血鬼のシェヘラザード・アイン・ゼッケンドルフじゃ。お、お主には特別にシェヘラと呼ぶことを許す。よろしく頼むのじゃ」
俺は吸血鬼の少女、シェヘラの手を固く握り、ブンブンと上下させてから離した。…やわらかかった。何か、よかった。
「ところで今後はお主はわしと一緒に行動してくれるということでいいんじゃな?」
「おうよ、シェヘラの行く先についていくぜ。特に俺に目的地はないしな」
強いて言うなら、可愛い魔物娘がたくさんいるところがいいが。グへへ…。
「うむ、それならわしの知り合いのところに身をよせようかの。城に来ておったわしの力を当てにしておった者たちへの義理ももういらんじゃろ」
「お、おお…いいのか?俺の力を当てにあの人間達にとらわれた魔物を取り返すとかでもいいんだぞ?」
「いや、とらわれた魔物はいない筈じゃ。というかどいつもこいつもわしを置いてさっさと逃げおったのじゃ。もう知らんのじゃ」
そして腕組みをしてプイッとそっぽを向く動作をするシェヘラ。何この可愛い生き物。お持ち帰りしたい。
「そうか、そうか。大変だったなあ!安心しろお兄さんはシェヘラを置いて行ったりしないぞお」
「な、何をするのじゃ!おろすのじゃ!」
可愛さのあまり、少し変なテンションになった俺は、シェヘラを肩車して草原を後にするのだった。暴れるシェヘラはしばらくすると疲れたのか、はたまた抵抗が無意味と理解したのか最終的におとなしくなった。