第4話
ま、もう転生しちゃったもんはしょうがないか。うだうだしたって仕方ないしな。そんなことよりもモン娘よな!早速捕まえに…いやいや、なめてかかっちゃいかん。せっかく男の夢を叶えるチャンスなんだから、準備は万全にしなくては。まずは自分の能力を確認しよう。
俺はまず「擬態」と心の中で念じる。確かゲームの中でも魔法以外の特技は詠唱なんて必要なかった筈だ。もっとも俺の職業クラスの中の技たちは魔法なのか何なのかよくわからんものも多かったが…。
俺が念じた瞬間、ガントレットの中から生えていた触手はみるみるうちに普通の人間の腕になっていた。なじみ深い黄色人種の肌の色だ。やはり俺はモンゴロイドであるらしい。頭に残った知識を鑑みても、俺は元日本人で間違いないだろう。まあこんな業の深い性癖してるしな!…みんなモン娘好きだよな?俺だけの特殊性癖ではないよな?
続いて自身の漆黒のフルヘルムを取り外し、脇の地面に置く。そして顔をペタペタと触る。うむ、多分人間の顔をしているだろう。鏡がないのでわからないが。自前の黒い髪の毛もふさふさだ。全身触手だったときもこの体が自分の肉体だ、という感覚はあったが、擬態してからのほうがしっくりくるかもしれない。俺が前世でキャラメイクした時はわりと自分に似せて作ったのかもしれないな。いや、人間だったのに触手の扱い方がわかっていた奴なんていないだろうから当然の感覚ではあるだろうが…。もしかしていたりする?触手の扱い方がわかる人間…?
「まあいいか、さて次は攻撃技の確認でも…ん?」
とここで俺は風に乗って漂う異臭に気付いた。焦げ臭いような、煙たいような…これは硝煙の匂い…?
辺りを見回すとどうもこの草原は小高い丘になっていることに気付く。同じ高さに見える風景が山の中腹や切り立ったがけのむき出しの岩壁だ。においの元は崖下のようであるらしい。俺は丘の淵に近づき崖下を見下ろす。
「どれどれ…なんじゃこりゃあ!」
そこには荘厳な城がそびえ建っていた。黒光りするレンガによって建てられた巨大な城。四つの尖塔が角に建ち、その間に堅牢な城壁を構える砦のような城。俺が素人目に見ても実践的用途に用いられてきたことがわかる立派な城だ。だがその城、あちこちから火の手が上がり、跳ね橋も完全に下がっている。これが匂いの元凶だろう。そして耳を澄ますとかすかに鬨の声も聞こえてくる。どうやら城攻めが行われているらしい。
「これはどうしたもんか…。もちろん無視してもいいけども…」
関係ない振りは簡単だが、神との対話が記憶にある身からすると、十中八九攻められているのは魔物じゃなかろうか。人間同士の争いと言う可能性も無きにしも非ずだが、あんな見るからに魔王城みたいな城だしさ。
「いよっし、悩んでも仕方ねえか。いざとなったら転移スキルも覚えてたはずだから逃げられるだろ。それに神も人間と魔物勢力を安定させてほしいって言ってたし。」
ある程度の強さを保証してくれていると信じたい。そう思いながら手に拾い上げた漆黒の兜を頭にかぶり、転移魔法を発動させる。なぜか使い方は頭に自然と浮かんだ。
「星間移動…あー対象はあの城の中で一番激しく戦いがあってる場所」
そういった瞬間足元に煌めく小宇宙が発生し、俺はドプンと飲みこまれたのだった。