第3話
…我ながら迂闊だった……。
何もわからないまま、何をしていいかもわからないまま俺は転生してしまった。
いやだって、今まで求めてやまないものを目の前にぶら下げられたら誰だって飛びつくって!魔物娘万歳!
いや、それにしても極めつけはこの触手だよ…。
場面は冒頭に戻るが、これすごい見覚えあるわ。自分の記憶の糸を手繰るとなぜかそのネットゲームに関しては鮮明に思い出せる。自分の前世の名前も思い出せないのに不思議なもんだ。
そのネットゲームは当時流行っていたMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)で、よくあるファンタジーものだ。職業を選び、モンスターと戦い、経験値を手に入れ、上級職へクラスチェンジをすることで成長していくタイプの。最終的に色々なボスモンスターを倒し世界を救う系の。もうテンプレ過ぎてストーリーに奇抜さは無い。ただ職業や魔法、特技の種類が多種多様で、キャラクターメイキングの仕方も細かく、とても人気があった。職業クラスの数なんか1000くらいあった気がする。ただそれだけ職業があると中には際物もあるわけで…。
俺のこの職業なんかその最たる例だ。もう人ですらない。一応ある程度やりこんでいたゲームなので、職業クラスは最上位だ。当時「騎士」やら「暗黒」やらの言葉にかっこよさを見出していた痛い俺は、迷わず「ブラック・ナイト」の職業クラスを選択していた。そこからの派生クラスも「暗黒騎士」、「魔界漆黒騎士」と今思い出すと赤面もののクラス選択を行っていた。
転機は多分「星雲の騎士」にクラスチェンジした時だ。そこから覚える特技もガラッと変わった。今まで暗い所で幻影を見せる「ダーク・イリュージョン」やら、闇の魔力を爆発させて相手を攻撃する「ナイト・バースト」なんて、今となっては口に出すのも恥ずかしい闇系の特技や魔法を覚えていたのに、「星雲」では流れ星を相手に降らせる「流星の夜」なんて技を覚えた。そこまでははまだましだ。次のクラス「宇宙の使徒」では掌に大きな眼球が現れそこから無数のレーザーを放つ「瞳の掌握」やら、指定した場所に小宇宙を発生させ、そこから現れた無数の触手がのたうち暴れ回る「異界の指先」やら、もう使っている場面が恐怖でしかないものばかりだった。しかも技が依存するステータスが攻撃力や魔力ではなく精神力だった。もうおわかりだろう。宇宙的恐怖、コズミックホラー、クトゥルフ、這い寄る混沌…。そんな、そんな感じの職業クラスだった……。
そんな職業クラスの最上位クラス、「異界の奇死」がこの姿だ。もう騎士ですらねーじゃねーか!!と当時の俺は叫んだ。何だよ「奇死」って!奇妙な死に方するってか!!と憤慨もした。
とにかくこの職業何がおかしいって、特技もそうだが基本は漆黒のフルプレートアーマーの中に無数の触手がのたうっており、それが本体と言うのが驚きだ。「擬態」というスキルでキャラメイクした姿にもなれるが基本はこの触手姿がデフォである。そんな触手☆騎士が今生の俺の姿であるらしい。俺は深いため息をついた…。