第1話
はじまりはじまり~
……どうしよう。
抜けるような青い空。綿あめのような白い雲。心地よい風が吹き抜ける青々とした草原で、俺は困り果てていた。
前世の記憶を持つ俺は、このどこにでもある剣と魔法のファンタジー世界に転生していた。ここはかわごえ…いや、なんでもない。俺の前世のゴーストが囁いた気がするが、気のせいだ。
この世界への転生を果たした俺は前世では日本人の男性だったはず…。と言うのもこの世界に来るときに、自分の個人的な記憶やらなにやらは置いてきてしまったらしい。いや、覚悟はしていたが。
常識のようなことは分かるし、知識も備わっている。箸の持ち方やしゃべり方は理解できるし、自分のいた世界の住んでいた地域、日本の歴史や教育制度も覚えている。ただ、過去の自分の名前や家族のこと、俺自身の見た目など、自分本人に関する記憶は全く思い出せない。一人称が「俺」なので多分男だったとは思う。
それはともかく、そんな俺が今現在何に困っているのかと言うと、この目の前にある物体に関してだ。いや生命体、もしくは肉体と言ったほうが適切かもしれない。
……ぬめぬめとした不気味な粘液をまとった、植物の弦のようなピンク色の物体。怪しくゆらゆら揺らめいている…。前世の業の深い一部の紳士淑女の方々はすぐに理解できる、いわゆる「触手」という物だ。それが俺の装備したガントレットから生えている。いや、生えているというかその触手がガントレット内から出ている…。それは今や俺の肉体の一部なのであった……。