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2016年/短編まとめ

さようなら、愛した人

作者: 文崎 美生

へらり、表情筋を精一杯柔らかくして、締りのない笑顔を一つ。

愛らしい子供のような笑顔を見せてあげれば、大きく見開かれた二つの目がそこにはあって、その目には笑顔の私が映っていた。


彼の手首を掴めば、自分の手首とは違う太さに、今更ながら少し驚く。

完全に掴みきれない手首を見下ろして、手の平を上に向けさせた。

だらり、力の抜けた状態の手の平をしっかりと広げさせた私は、ジーパンのポケットを漁る。


硬い素材の中にヒンヤリとした金属の感触。

しっかりとそれを握りしめて取り出せば、目の前の彼は眉間に深いシワを刻んでいた。

怒っているような困っているような、そんな表情。


それでも私は笑顔のままに、その無骨な手の平の上、ころり、金属の塊を転がす。

私の指にピッタリと合っていたそれ。

私の指にうっすらと残る細い日焼けの跡。

彼の指には同じデザインのサイズ違いが、光に当てられてはキラッキラッと反射している。


彼の目を見て、今までで一番の笑顔を作って見せれば、ぐしゃり、歪んだ彼の顔。

今まで見たことのない顔を、最後の最後に見れた。

私は満足だ。

有難う、さようなら、吐き出した言葉に彼は何も返さなかった。


日焼けの跡を撫でる。

僅かに窪んだ皮膚を感じながら、緩やかなカーブを描く私の唇。

身軽になった、そう呟いて、私は彼と別の道を歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] ドキッとする人物描写、個性的な言い回し、文崎さんの世界だ…。 彼は納得していないみたいですけど、理解はしているようですね。そんな心の微妙なくうきが絶妙に表現されていると思います。 歩き出し…
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