始章(/死章)
思考は未だに定まらなかった。私の思考はいつでもそうなのである。故に周りからは疎まれ、避けられているのではあるが、然しそれは私の個性であるのでなんとも治し難いものなのである。
あれはおよそ二年ほど前のことであっただろう。確証もないが、おそらくはその程度だ。私は普段通り、そう、つまりは変わり映えのない一日の中で命を落とした。つまらないだろう? 私はいつもこうなのである。つまらない男なのだ。つまらない人間なのだ。そんな私がよもや死後にこの世に留まることになろうとは思うわけもなく、また今でも信じされないのではあるのだが、事実は事実、現実は現実として受け止めてこそが私である。
さて、死後の世界というのを信じていなかった私は|(もちろん今も信じてなどいないのだが。何よりこうして私はこの世に留まり続けている)、もちろんながら魂などという下らない与太話の類も信じてはいなかったし、例などという生物ではない『何か』が実在するとも思ってはいなかった。だが私はそれを改めねばならぬのかもしれない。なぜならば事実、私は死んだというのにも未練たらしくこの世に留まり続けているからか、はたまた、私がその不確定かつ非科学的かつ下らない与太話の類でしかない生物ではない『何か』の同類になってしまったからだ。然し私は私以外の同類、私以外の生物以外の『何か』────一般的呼称で幽霊などと云うそれを見たことはないので、視認したことはないので、もしかしたらこれは単に私が、私の脳が見ている幻覚、現実ではない何かではないかという可能性も否めないし、否定できないのだけれども。第一何よりも私がこうして死んだというのにこの世にと留まり続けていること自体、矢張り私には理解できないし納得がいかないのだ。
だけれども。
だけれども、だがしかし、かといって────すでに二年余である。
納得するには足らぬ時間でも、突きつけられるには十分な期間だ。
それほどにも、二年という年月の持つ時間は長く、遅延なものだ。
この二年の中で、ようやく私も認めることができた。信じることは決してないが、しかし、認めることはできたのだ。不本意ながら。
まったく、何の因果か。
何の偶然か。
どうやら、私は幽霊であるらしい、と。