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工学系女子シリーズ(異世界・恋愛、仕事)

【工学系女子シリーズ⑤】建築家志望の女子学生ですが、可愛い年下助手が大人教師に宣戦布告しました

作者: コフク
掲載日:2026/02/22

シリーズ③ノエラ編の続編です。

「ノエラは、渡しません」

王立工学学院で一番人気の教師に、可愛い年下助手が宣戦布告した――


王立工学学院の講義は、噂以上だった。

専門の基礎科目も、一年生から高度な理論が飛び交い、設計は感覚ではなく数式で裏付けられる。だが、教師の説明は簡潔で、分かりやすい。そして、目から鱗が落ちるような、興味深い話しをしてくれる。

今日は、建築構造学・基礎の授業。ノエラは最前列でノートを取りながら、ひとつの式に眉を寄せた。

(……ここだけどうしても、腑に落ちない)


鐘が鳴る。

教室がざわめく中、ノエラは迷わず席を立ち、教壇へ向かった。

まだ、授業は始まったばかり。分からないところは、そのままにしないでおきたい。


教壇に立つのは、ルーカス・ヴァルトハイム。建築構造学や設計理論を担当する人気の教師。三十前後位と思われ、若いが、説明が上手い。が、人気の原因は、それだけではない。


金髪でやや長めの髪を後ろに流し、整った顔立ち。

そして——無駄に距離が近い。

「質問かな?」

周りを囲む生徒の後ろで待っていると、低い穏やかな声で話しかけてくれた。

ノエラはノートの図面を指差した。

「この補正係数ですが、ここで誤差が出る理由が分からなくて」

「いい質問だ」

さらさらと、黒板に、式を書き足す。

ノエラの疑問点をすぐ把握していると分かる、的確な答えで、すぐに理解できた。

「なるほど。分かりました」


ヴァルトハイム先生は一瞬だけ目を細めた。

「……君、首席入学だった子だね」

「はい」

頷くと、先生は柔らかく笑った。

「分からないところがあったら、いつでも研究室においで」

周囲の女子がざわつく。

ノエラは無難に答えた。

「ありがとうございます」


ノエラがヴァルトハイム先生の授業を受けた理由は、建築系に進みたい場合は選択した方が良い授業だと、ゼインが勧めてくれたから。

人気だろうが、ゼイン以外に興味はない。


◇ ◇ ◇


放課後。


ノエラがうきうきと向かったのは、アリシアの研究室。学院を受ける際に、家を半ば絶縁状態で飛び出してから、今も憧れの建築家であり、学院の教師でもある、アリシアの家でお世話になっている。

扉の前に立って、中の様子をそっと伺う。

(……ゼイン、まだ戻ってない)


ゼインは二年の生徒でもあるが、母親のアリシアの助手として研究室を手伝っている。講義が終わった後も、いつも研究室へ寄ってから帰る。待ち合わせはしていないが、ノエラも終わるとここに寄り、毎日二人で一緒に帰る。


ノエラは壁に背を預けた。

静かな廊下。

足音だけが遠く響く。

(早く、ゼインに会いたい。でも、待っている時間も、悪くない――)


その時。

「君」

声をかけられた。

振り向く。

さきほどの授業の、ヴァルトハイム先生だった。

「僕の研究室に来たのかい?」

「いえ、違います」

 どうやら、彼の研究室がたまたま隣だったらしい。

「遠慮しなくていい」

「質問しにきたわけではありません」

「そう?」

まだこちらから目を離さない。近づきながら、さらに何か、話しかけようとしているか、と思われた。

その瞬間。


「……ノエラ」

呼ばれた。

ゼインだった。

彼は迷いなく、ノエラの手を掴んだ。

「帰るよ」

そのまま歩き出す。

「ちょ、失礼します」

教師に一礼だけして、その場を離れた。


◇ ◇ ◇


学院の門を出るまで、ゼインは何も言わなかった。

馬車に、向かい合わせに乗り込む。

扉が閉まる。

沈黙が、続く……。


やっと彼が口を開いた。

「……あの人に聞きに来たの?」

「違う」

「ほんとに?」

「ゼインを待ってただけ」

一瞬、ゼインの視線が揺れた。

「あの先生、女子に人気だよね……女の人って、大人の男の方がいいの?」

真剣で、ちょっと不安げな顔をしていた。

ノエラは少しだけ考えた。

「人による」

それだけ答えた。

「ふうん……」

ゼインはそう言って、窓の外を見ていた。

馬車の振動が、いつもより大きく感じた。


◇ ◇ ◇


夜、家の書斎の灯りがついている。

ノエラがそっと、扉を開けると、ゼインが本を広げていた。

 

いつものように、隣に座る。受験の時と同じように、未だに毎日ゼインに勉強を教わりながら勉強している。勉強をする気も起るし、何より、ゼインに近づけるから。

 

ゼインは母アリシアの授業の助手として、建築模型の展示指導を担当し、年上の学生に助言する役目だ。

夜は関連書を読み漁り、どう言えば納得してもらえるかを研究する。

ノエラはその姿を見るたびに思う。

(私も、もっと上に行きたい)

 置いて行かれずに、この先もずっとついていけるように。


◇ ◇ ◇


翌日。

講義の後、ノエラはレポートに必要な資料を借りるため、図書館へ寄ってから、研究室に向かった。


(ゼイン、待ってるかな)

走らないよう気を付けながら、早足で廊下の角を曲がる。

すると、声が聞こえた。

「君は、助手をしているのか」

低音の、落ち着いた声。ヴァルトハイム先生だ。

ノエラは足を止める。角の向こうで会話が続く。

「はい」

相手は、ゼイン。

「彼女と仲がいいみたいだね……ノエラ・リーヴェ」

(なんで、私の名前? ……それよりゼイン、なんて答える??)

「普通です」

(おいっ!)

「君の方が年下だよね。弟みたいに面倒見てもらってるのかな?」

沈黙。

「恋愛するなら、普通は大人の男性だよね」

空気が止まる。気になって、少しのぞく。

ゼインが、自信を失うように、うつむいていくのが見えた。


ノエラはたまらず、飛び出していた。

「やめてください!」

二人が振り向いた。

彼女は迷わずゼインの隣へ行き、その腕を掴み、

そして――


ぎゅっと引き寄せた。

「彼をいじっていいのは私だけです!!」

廊下が静まり返る。

「いくら、可愛いからって……」

睨んでしまった。教師を。


ゼインの体が固まった。

顔が、みるみる赤くなる。

肩がわずかに震え、鼓動が速くなる。


長い沈黙が続いた。

(あ、やっちゃった! 先生に嫌われたら、成績落とされる??)

流石のノエラも、動揺し始めた。


やがて。

ヴァルトハイム先生が吹き出した。

「……はは」

お腹を抱え、肩を揺らす。

「なるほど。そういう関係か」

「違います」

ゼインが即答で、否定する。

(何が?!)

ヴァルトハイム先生はくっくっと笑いながら去っていった。


◇ ◇ ◇


 数日後。

ゼインはルーカス・ヴァルトハイムの建築構造学・中級の授業を受けていた。構造評価の質問を終え、他の生徒が出た後、図面を片付けて、教室をやっと出ようとしたときだった。

「理論は悪くない」

ルーカスは椅子にもたれかかりながら言う。

「だが、君は真面目すぎる」

「……真面目なのは悪いことですか?」

「悪くない。だが面白くない」

ゼインは眉を寄せる。

「遊びが足りない。本だけから、学んでいるんじゃないか?」

「……」

「遊べ」

「……遊ぶ?」

ルーカスはふっと笑う。

「建築は使うものだ。体験しろ。歩け。感じろ。彼女とデートでもすればいい」

ゼインの動きが止まる。

「……彼女?」

「ノエラ・リーヴェ」

「彼女ではありません」

「じゃあ彼女にすればいい」

さらりと言う。

ゼインは真顔のまま固まる。

「どこに連れて行きたい?」

「……え?」

ルーカスは机を軽く叩く。

「どの建物に、何故、連れて行きたい?」


ゼインは考える。

思い浮かんだのは、小さな聖堂。


◇ ◇ ◇


その日の夜。

ゼインが書斎へ行くと、ノエラが本を読んでいた。


ゼインは隣に座り、しばらく黙ってから、緊張しながら言った。

「こ、今度、街に出ない?」

「……どうして?」

「建物を見たい」

「勉強?」

「半分」

ノエラは目を細める。

「もう半分は?」

ゼインは少し迷う。

「……デート」

沈黙。

ノエラの心臓が跳ねる。でも、ここは、できるだけ冷静を装う。

「いいわよ」

ゼインは、耳まで赤い。いつもよりも、さらに。


◇ ◇ ◇

週末。

ゼインはノエラを連れ出した。

街の外れにある、こぢんまりとした聖堂。

「商売で成功した貴族が、自費で作ったらしい」

「へえ……。知らなかった」


その貴族が好きな物を集めたのか、小さな礼拝堂には華やか過ぎないステンドグラスがついており、壁には静かな雰囲気の絵が、何枚も飾られていた。

聖堂には珍しく、人や神様ではなく、風景画が多い。特に、海に船が浮かぶ絵。

二人はゆっくり、絵や装飾を楽しみながら歩いていく。


中庭のような空間に、小さな噴水があり、その周囲に緑が植えられて、高い窓から光が差し込む。

いくつかあるベンチには、座って休んでいる人や、本を読んでいる人がいた。


ベンチに並んで座る。

パイプオルガンの音が流れ始めた。

「運がいいね」

「いい音……」

静かな時間。


「ゼインは、どんな建物を作りたいの?」

「僕は」

ゼインが視線を巡らせる。

「こういう聖堂とか、美術館とか、図書館とか……人が集まる場所。

人の時間が重なる空間を作りたい」

ノエラが微笑む。

「ゼインらしい」

「ノエラは?」

ノエラは少し考える。

「私は……人が住む所かな」

光を見上げる。

「安心できる、あったかい、場所」

少し笑う。

「私、建築コンテストで受賞して、ここに来られた。

建築が、私をここまで連れてきてくれたと思うと、何だか、不思議」

ゼインはその横顔を見る。

「僕も、建築でここにいる。

きっと、これからも、建築が僕たちを、いろんな場所へ連れて行ってくれるね」


ノエラが横を見る。

「ところで、なんで私を誘ったの?」

突然、逃げ場を与えない視線が飛んできた。

「実は、ヴァルトハイム先生に、授業の後で、言われた。

『君には遊びが足りない』『建築は使うものだ。体験しろ』って。

 もっともだな、と思って……」

「……私は、遊びですか?」

ノエラが顔をのぞきこみながら、詰める。

「か、『彼女とデートすればいい』とも、言われて……」

「彼女?」

「僕は、彼女ではないと言ったんだけど」

「ふうん」

「『じゃあ彼女にすればいい』って……」


一瞬、視線が絡む。


ゼインは深く息を吸う。

「ノエラ、好きだ。だいぶ前から。付き合ってほしい」

真っ直ぐ。

逃げない。

「君が、隣にいる空間を作りたい」


音楽が遠のく。

ノエラの鼓動が跳ねる。


ノエラは少し目を伏せてから、顔を上げる。

「うん」

ゼインの呼吸が止まる。


「これからも、ノエラと建築デートしたい」

ノエラが少し笑う。

「建築限定かあ……じゃあ、まずはお互いの好きな建築巡りからで」

ゼインはそっと手を差し出す。

ノエラは迷わず重ねる。

指が絡む。

(ゼインなのに、甘すぎる……)


◇ ◇ ◇


「折角だから、このまま少し歩いてから帰らない?」

二人が聖堂を出て街の方へ向かうと、ルーカスが一人、こちらへ歩いてくるところだった。


「デートは勉強になった?」

余裕の笑み。

ゼインは一歩前に出る。

「ありがとうございます」

ルーカスが眉を上げる。

「何が?」

「遊びが足りないって言ってくれたこと」

ゼインは真っ直ぐ見る。

「でも、ノエラは、もう、僕の彼女です。

先生がどれだけ大人でも、渡しません」


空気が止まる。

流石のノエラも、顔が真っ赤になる。


ルーカスは数秒沈黙し、ふっと笑う。

「宣戦布告か?」

「はい。負けません」

「若いな」

「承知の上です」


ノエラが割り込む。

「先生、ゼインにデートを勧めていただいたことは、ありがとうございます。

でも、私、年がどうかより、ゼインが好きなので」

ルーカスが肩をすくめる。

「……何、その、僕が振られた感じ。

大丈夫。こう見えて、僕の本命は年上だから」

「え……?」

ゼインも、ノエラも、一瞬で力が抜けた。


「これからも、二人の幸せを願っているよ。

二人とは、もっと仲良くなりたいからね。じゃあ、また」

ルーカスはそう言って去って行った。



「先生に、宣戦布告って、誰の許可取ってるの?」

「君の」

「……取れてる。それに、ちょっと嬉しかった」


どうやら、今時点では、ノエラ以外に本命がいるらしい。

でも、安心はできない。ノエラが成長したら、魅力に気付くかもしれない。


ゼインの心が静かに燃える。

(知識も経験も、まだ届かない)

でも。

(成長して、追い越す)

この先も、彼女の隣は、譲らない。



お読みいただきありがとうございます。

今回はシリーズ③続編でしたが、次はシリーズ⑦でこちらの続編も準備中です。

引き続きお楽しみください。

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