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異世界相場 ~人生ごと強制ロスカットされた俺、シルバーカードで経済無双~  作者: 星島新吾


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9/10

腐った在庫の再評価

 事務所のデスクに、幸雄は数枚の羊皮紙を並べていた。そこにはルドヴィーコの冒険者ギルドで「不良債権」の烙印を押された者たちの名が記されている。


「幸雄さん、正気? 敵は現役バリバリの騎士団なのよ。せっかく稼いだお金を、どうしてこんな……もう動けない人たちに投じるの?」


 ユノの悲鳴に近い問いに、幸雄は万年筆を回しながら冷徹に答えた。


「ユノ、お前は表面的な『現在の価格プライス』しか見ていない。俺が見ているのは『潜在的な期待値バリュー』だ。エリート騎士団は確かに強い。だが、奴らは『負けられない』というプライドが邪魔をして、捨て身の勝負ができない。つまり下落リスクに対して脆弱なんだ」


 幸雄は羊皮紙の一枚を指で叩く。


「対して、こいつらはどん底だ。これ以上下がりようがない。なら、あとは上がるしかないだろう? 特定の一瞬、特定の局面だけでいい。そこの性能さえ尖っていれば、投資(ベット)する価値はある」


 幸雄は椅子から立ち上がり、コートを羽織った。


「さあ、仕入れに行くぞ。世界で俺だけが知っている『お宝銘柄』をな」



 ※




 華やかな大通りから一本外れ、さらに路地裏の汚水を跨いだ先。

 昼間から饐えた臭いが漂うスラム街の一角に、その酒場『泥酔亭デッド・ドランク』はあった。

 看板は半分朽ち落ち、窓ガラスの代わりには木の板が打ち付けられている。ここは、かつて名を馳せた冒険者たちが、加齢や古傷、あるいは酒や博打で身を持ち崩し、人生の『上場廃止』を待つ吹き溜まりだ。


「……うっぷ。幸雄さん、本当にここなの? 空気だけで二日酔いになりそう……」


 ハンカチで鼻を覆うユノが、怯えたように幸雄の背中に隠れる。


「失礼なことを言うもんじゃないぜ。ここは宝の山なんだぞ」


 幸雄は平然と、重たい木製の扉を蹴り開けた。

 ギィィ……と錆びついた蝶番が悲鳴を上げ、店内の喧騒が一瞬止む。

 薄暗い店内には、濁った目の老人たちがたむろしていた。彼らの視線が、場違いなほど清潔な服を着た二人に突き刺さる。


「おいおい、ここは坊ちゃん嬢ちゃんの来るところじゃねえぞ」


「ミルクでも飲みに来たのかぁ?  ひっィく……」


 嘲笑と野次。だが、幸雄はそれをBGMのように聞き流し、カウンターの中央に歩み出た。


「単刀直入に言う。──俺は今から、お前たちの『残存価値(サルベージ・バリュー)』を買いに来た」


 幸雄の声が響く。


「三日間だ。三日間、俺のために命を張れる奴には、前金としてこいつを払う」


 幸雄が懐から取り出したのは、鈍く光る銀色のカードだった。


(……頼むぜ、相棒。ここが一番の勝負所だ)


 幸雄がカードを強く擦る。すると、彼の網膜に浮かぶグリーンの数字が激しく明滅した。


【1775】……【1600】……【1400】……。


「……っ」


 内臓を直接掴まれるような鋭い痛みが幸雄を襲う。寿命を直接『現金』へ変換する代償。冷や汗が頬を伝うが、幸雄はそれを悟らせず、虚空から溢れ出した金貨の袋をカウンターに叩きつけた。


 ジャラッ!!

 重厚な金属音が響き、店内が静まり返る。


「帰んな、若造」


 店の奥からしゃがれた声が飛んだ。かつて『鉄壁』と呼ばれた重装騎士、ガン・ロックだ。


「俺たちはもう『終わった』人間だ。剣も振れねえ、魔法も忘れちまった。そんなガラクタ集めて何をする気だ」


 幸雄はニヤリと笑い、椅子と一体化したような巨漢へ近づいた。


「ガン・ロック。現役時代の防御力は城壁並み、だが今は膝を壊して移動速度ゼロ。市場評価は『不良債権』……だが俺はそうは見ない」


「……あ?」


「俺が求めているのは『機動力』じゃない。『固定資産』だ。お前はただ、指定された場所に座り、盾を構えていればいい。敵が退くか、お前が死ぬか。それだけの仕事だ。動かないお前は、敵にとって『迂回しなければならない障害物』……つまり、市場を固定する強固なサポートラインになるんだよ」


 ガン・ロックの独眼に、困惑と、そして微かな熱が宿る。


「そこの婆さんもだ。ミリア・エーテル。一発撃てば魔力切れで寝込む燃費の悪さ。だが、その一発の威力だけは、最新の魔導具すら凌駕する。お前は安定性ゼロの『超高ボラティリティ銘柄』だ。一瞬の暴騰、それだけでいい。お前が敵の陣形を粉砕する瞬間が、俺にとっての利確ポイントだ」


「……ヒヒッ、面白いことを言うねぇ。撃ち逃げでいいのかい?」


「ああ。介護はこっちでやる」


 幸雄は次々と、店内の「死に体」たちに声をかけていった。腰痛持ちの神速弓兵、耳の遠いベテラン盗賊、健忘症の元聖女。世間が見捨てたゴミ山から、幸雄は的確に「一点特化」の才能だけを拾い上げていく。


「どいつもこいつも、長期保有には向かないボロ株だ。だがな……」


 12人のメンバーが決まり、幸雄は震える手で杖を握る老人たちを見渡した。


「『デッド・キャット・バウンス』って言葉を知ってるか?」


「猫が……なんだって?」


「高いところから落ちれば、死んだ猫でも地面に当たって一度は跳ね返る……相場の格言だ。お前らは社会的に死んだ。冒険者としても終わった。だがな、地面に叩きつけられた今だからこそ、人生で一番高く跳ね上がれるはずだ」


 幸雄は、寿命を削ったことで蒼白になった顔で、しかし勝利を確信した笑みを浮かべた。


「これは『決闘裁判』なんかじゃない。お前たちの人生の『損切り』をするための戦いだ。奪われた誇りを、シュヴァインどもの喉元から引きずり出して、高値で売りつけてやれ」


 ガン・ロックが軋む鎧を鳴らして立ち上がり、ミリアが杖を掲げる。


「ようこそ、アベン爺ズへ。……さあ、人生最後の『葬儀遊戯(エンドゲーム)』、その幕を上げようぜ」

ついに始まりました、アベン爺ズによる葬儀遊戯。

次回は具体的な戦闘シーン、もとい『資産運用』の様子をお届けします。

読んで頂きありがとうございました!

リアクション頂けると幸雄の寿命が延びます(たぶん)。

また失踪しますが、よろしくお願いいたします。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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