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異世界相場 ~人生ごと強制ロスカットされた俺、シルバーカードで経済無双~  作者: 星島新吾


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7/10

疾風怒濤の反撃開始

 消火活動が終わる頃には、日は高く昇り、辺りは焦げ臭いにおいと熱気に包まれていた。

 倉庫の屋根は焼け落ち、在庫として保管されていた荷物の大半は灰と化している。

 損害賠償が幾らだ、なんて考えるだけで涙を流すことは簡単だ。

 だが、運送ギルド疾風に最後まで残った男たちの目は死んでいなかった。


 顔を煤だらけにしたガレオとその従業員たちが、新たな「オーナー」である幸雄の前に整列し、次の指示を待っていた。


「……助かった。アンタのおかげで、俺たちは首を括らずに済んだ」


 ガレオが深々と頭を下げると、後ろにいた屈強な男たちも一斉に頭を下げる。

 その光景に、ユノは「これだけの男の人に囲まれると壮観ね……」と少し引いていたが、幸雄は煤で汚れたスーツの埃を払いながら、冷淡に言い放った。


「礼には及ばん。俺はボランティアで金を出したわけじゃないからな。言ったはずだ、勝てる勝負だから投資したと」


「勝てる勝負、か……。だがオーナー、見ての通り倉庫は全焼だ。運ぶ荷物がねえぞ。なんなら大赤字だって抱えてる」


 ガレオが焼け跡を指さす。

 運送ギルドにとって、運ぶモノがないのは致命的だ。しかし、幸雄はニヤリと口角を上げた。


「荷物ならある。それも、山のような宝の山がな」


「宝……?」


「今、この街で一番足りていないモノだ」


 幸雄は懐から一枚のメモを取り出した。それは昨日、ユノと調べた周辺都市の相場表だ。


「小麦だよ。……いいか、今の小麦高騰は自然災害じゃない。人災だ」


 幸雄はガレオたちに、市場のカラクリを説明した。

 ライバルである魔石輸入商会や古い運送ギルドが、わざと「輸送が遅れている」とデマを流し、倉庫に古い在庫を隠し持っていること。価格が吊り上がったところで売り抜けようとしていること。


「それが人のやることかよ……!」


「何言ってんだ、これ以上なく人間らしいだろう」


「え?」


 幸雄の言葉に口を半開きにして驚くガレオ。

 彼はこんな事例を幾つも知っているような口ぶりで続ける。


「奴らの狙いは『出し惜しみ』による価格操作だ。だが、それは裏を返せば最大の隙になる」


「隙……?」


「奴らがのんびりと出荷調整をしている間に、俺たちが他所から安くて新鮮な小麦を大量に持ち込めばどうなる」


 ガレオはハッとして、目を見開いた。


「相場が暴落して……奴らの持ってる古い在庫はゴミになる」


「……つまり、奴らに大損をさせて、俺たちは大儲け。……ついでに市民は安いパンが食えて万々歳だ」


 幸雄の口から語られる完璧な報復計画に、ガレオの表情が変わる。絶望の色は消え、獰猛な野心の色が浮かんでいた。しかしそこにユノが割って入り、冷静になるよう呼び掛けた。


「ま、まって幸雄さん。隣町まで往復するには、どれだけ急いでも三日はかかるよ。その間にその人たちが売り抜けたらどうするつもり?」


 それには幸雄も頷く、しかしガレオに視線を向けると彼も察したのか力強く頷いた。


「普通の馬車ならな」


 ガレオは、焼け残った車庫の方へ顎をしゃくった。

 唯一、重点的に消火活動が行われ、無傷で守り抜かれた場所だ。


「 俺が投資したのは、灰になった倉庫じゃなく、あっちだ」


 幸雄の言葉にガレオはニカっと、白い歯を見せて笑った。


「カッカッカッ! さすがオーナー、お目が高い! ……おい野郎ども! アレを引っ張り出せ!」


 ガレオの号令で、従業員たちが車庫から数台の馬車を引き出した。

 一見すると普通の荷馬車だが、車輪には特殊な板バネ(サスペンション)が組み込まれ、車軸には魔石を加工したベアリングが使われている。


 幸雄が見込んだ、技術の結晶だった。


「こいつは『疾風号』。悪路でも荷崩れしねぇし、卵を積んでも割れねぇ。何より速い」


 ガレオが持ち出してきた疾風号こそ、今朝ユノと目撃した『秘密兵器』──運送ギルド疾風が誇る、次世代の運搬車だった。通常の馬車が「ガラガラ」と音を立てるなら、こいつは無音で走る。


 魔石ベアリングが青白く発光し、サスペンションが筋肉のように収縮するそれは、荷馬車というより、地を這う軍艦のような威圧感を放っていた。


「三日かかる道のりを、どれだけで走れる?」


「一日だ。……いや、オーナーの命令なら半日で往復してみせる」


「上等……時は金なりだ、行ってこいガレオ。俺の寿命を無駄にするなよ」


 幸雄の不思議な言い回しに、ガレオは一瞬首を傾げたが、今はそんな状況でもないので、首肯して手綱を握った。


「応よ!速さなら任せておけ!」


「ここまでする相手だ。妨害がないとも限らないから───」


「追いつかせはしねえよ」


 注意深くガレオは御者台に飛び乗ると、バンダナをきつく締める。彼の眼には確かな覚悟が燃えていた。それを見て幸雄は余計なお世話だったかと小さく笑い、これ以上何か言うことをやめた。

 従業員たちも次々と馬車に乗り込み、その後にスパンッと鞭が振るわれた。


「ハイヤァー!! 」


 轟音と共に、見たこともない速度で馬車が加速していく。その背中には、ギルドの看板である「風」の紋章が描かれていた。

 嵐のような出立を見送った後、幸雄は隣にいるユノに向き直った。


「さて、俺たちも仕事だユノ」


「仕事? まだあるの?」


「仕上げだよ。ガレオが小麦を持って帰ってくるタイミングに合わせて、海洋新報で号外を出す」


「号外?」


「見出しはこうだ。『小麦、大量入荷! 価格暴落のお知らせ』……とな」


 牛も熊も富を築けるが、欲張った豚だけは屠殺される。

 幸雄の目には、遠くに見えるライバル商会のビルが、丸々と太った豚小屋のように見えていた。


「情報戦の始まりだ。……精々太っておけよ。ナイフを入れるのは俺だ」



リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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