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異世界相場 ~人生ごと強制ロスカットされた俺、シルバーカードで経済無双~  作者: 星島新吾


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5/10

寿命が見えるカードなんて、死神も悪趣味が過ぎる

 入社事件から一ヵ月が過ぎようとしていた。その間に幸雄は着々と事務所を自分の住居に改造していき、そこに住み着き、不吉を予測する怪異のようになっていた。


「幸雄さん幸雄さん」

「どうした? ユノ」


 朝日に目を細めながら歯ブラシをもって振り返る幸雄。まだ白のパジャマでナイトキャップを被っていた。


「ちょっと大問題かも」


 ちょっと大問題とは、どういう意味だ? と幸雄は首を傾げながら、彼女の顔を窺う。


「そうか。何したんだ? 」


「ちがうの、私じゃなくて幸雄さんの」


 またまた御冗談をいうユノさんに、幸雄は自分がしたことを振り返る。掲示板に予言めいたことを書いたから、暴落したといういちゃもんをつけられたか、あるいはユノ経由で海洋新報にコネ入社したことを、誰かに悪く吹聴(ふいちょう)されたか。


「俺が? 空売りで儲け過ぎたせいで、なんか疑われでもしたか? 」


 どちらにせよ全くもってその通りで、大変反省し甲斐のあるご批判である。余りにも都合よく周囲が動いていることに幸雄自身、今日も頬をつねり商売の神様に感謝申し上げて生きていた。


「そうじゃなくて……幸雄さん、戸籍がないから銀行に証券口座作れない……」


 と、まさかのココでリアルな問題に直面した幸雄。

 あまりに根本的な問題に、幸雄は「ぁあ、確かに」と頷き口を(すす)いだ。


「とりあえず銀行に行って必要な書類とか聞いてこよ」


「住民票とかじゃないのか? 」


「だって、住民票が手に入るかどうかも怪しいご時世じゃない」


 小麦の高騰により、この一ヵ月ルドヴィーコでは二回の小麦騒動があった。そして海洋統治機構というルドヴィーコの最高意思決定機関の総入れ替えが行われる事態にまで発展し、ルドヴィーコの住人のガス抜きが行われるまでに至る。そんなご時世だから、当然治安も荒れに荒れていた。


「まあ確かに。銀行行ってみるのもいいか」


 そう言うワケで、ユノと幸雄は銀行に向かった。道中では荷馬車が襲われ、火が上がっている。

 火炎瓶らしきものを投げられ、大規模な流通を支配しているこの町の運搬ギルドが攻撃を受けているように見えた。


「こりゃ、ココもしばらく底値の更新が続きそうだな」


 触らぬ神に祟りなしと、襲撃者たちをよそに幸雄とユノは何とか銀行に到着する。

 銀行の中は静かなもので、今のご時世誰もお金を借りるような人間がいないのか、寂しいものだった。

 受付も一人で、よぼよぼのお婆さんが担当している。


「ヒッヒッヒッヒ……ひらっしゃひ」


 沼地に潜む魔女のようなひき笑いのあと、べっ甲の眼鏡をかけ直すお婆さん。幸雄はこのお婆さんが、羅生門で髪を抜いていても別に驚きはないだろうなという感想を持ちながら、受付に手を置いた。


「新しく口座を作りたいんだが」


 幸雄がそう言った途端に、彼の尻ポケットがキラキラと突然光出した。もちろん彼にそう言った特技はない。


「なに……? そのお尻の光、神聖発光(ホーリー・レイ)? 」


「ケツから神聖発光(ホーリー・レイ)した覚えはねえよ。てか神聖発光(ホーリー・レイ)ってなんだ」


「魔道具にあるの」


「そ……そうか……」


 尻ポケットをまさぐると、幸雄を異世界に連れてきたシルバーカードが出てきた。

 お婆さんはそのシルバーカードを見ると、ふらりと席から立ち上がり、銀行の奥へと消えると、代わりに中性的な黒のスーツを着た麗人が姿を現した。


「いらっしゃいませ、幸雄様。本日はどのようなご用件で? 」


 ニカッと笑った歯は全て金歯。

 成金でもここまではしないだろう。


「……なんで俺の名前知ってんだ? 」


「おや失礼。そう言えば今日が初対面でしたか。では失礼」


 黒スーツは指をパチンと鳴らすと、幸雄は世界の時が止まったような錯覚を受ける。


「……ファッ!? 」


「少々、特殊な空間にご招待いたしました」


 振り返るとユノはマネキンのように固まり、ピクリとも動かない。しかし、彼女に触れることは出来るし、彼女の腕を上げたりすることはできた。

 黒スーツと幸雄だけが動ける謎の空間に幸雄は移動させられたようだった。


「お初にお目にかかります。ワタクシ、異世界相場の管理者(アドミニストレーター)であり、幸雄様のナビゲーターのような役割も担っております。名前は……何にしましょうね。いつもココでワクワクするんですワタクシ。ンニョッンニョッニョッニョッニョッ! 」


 ヘンな笑い方だし、まるで名乗る度に名前を変えているようにも聞こえる胡散臭さのある男に、幸雄は訝し気な双眸で観察を続ける。


「なんでも良いだろ。アドミンとか、ナビとか」


「あー、そーゆーのはもうやったので飽きてしまいました。タマとかポチとかもウンザリですし。何か良い名前はありませんかねぇ」


「マモンとか? 」


「ンニョッ!? 悪魔は勘弁してくださいよ。ワタクシそんな強欲じゃありませんよ」


「んじゃ、商売の神でマーキュリー? 」


「今回セーラー服は着てませんしねぇ……」


「お前そっち系も詳しいのな」


「幸雄さんの世界の知識も当然ございますよ。そちらの管理は任されておりませんが」


「ティックってのはどうだ? 時間止めるし、銀行員なら信用って言葉でも表せる」


「マダニという意味もございますね」


「気づいてたか」


「ンニョッニョッニョッニョッ!」「ハッハッハッハッ!!」


「よろしい! それでは今回のワタクシの名前はティックと致しましょう! 初めてのパターンです! 」


 前にも何人か案内をしているような口ぶりに、幸雄は少し安心しながら、彼の説明に耳を傾けることにした。


「ではご説明しましょう! 異世界相場とは、我々管理者が預かる異世界の価値を(ゴールド)で数値化し、指標を出すために存在します! 」


「他にも異世界があるってことか? 」


「ええっ! 無数に、それこそ星の数ほどございます! そこから神々はどの異世界に投資をするか決めるのでございます。いわゆる祝福と言ったり、魔法と言ったりする奇蹟がこれに値します」


「俺が元々いた世界にも管理者がいたってことかい? 」


「ええ。ですが、非上場世界でしたので」


 ティックがつまらなさそうにケロッと言った。


「上場してる世界は魔法が使えるのか」


「察しが良くて助かります。神々の注目が高ければ高いほど、その世界は容易く魔法や祝福が与えられる環境となるのです。ご存知でしょう? 詠唱がいる魔法といらない魔法、とかそういう世界構造。詠唱がいる世界は貧しい世界なのですよ。哀れですねぇ~」


 ティックの言い方が正しければ、投資する神々にも魔法や祝福を与えるメリットがあるのだろう。そしてそれを必要としない管理者もいるというのも理解できる。


 別に魔法がなくても科学レベルが高ければ、そんな奇蹟に頼らなくてもよいということだろう。


「しかし残念なことに、現在我々の世界はいわばペニー株……先ほど申し上げた世界よりも貧しい。投資家(神々)には見向きもされぬ悲しき異世界でございます。人間は魔法が使えず、使えるのは魔道具頼りの矮小な魔法ばかりなのです」


 ペニー株……ケツを拭くのにちょうどいいゴミ株のことだ。


「綺麗な世界だと思ったけどな……」


「それはもちろんでございます。それはワタクシが保証いたしますとも。しかし我々はあくまで管理者、管理するための存在でございますので。直接関与することは禁忌とされております」


「歯がゆい思いをしていると? 」


「いえいえいえ、そういうのは全く。自分の管理している世界がゴミの烙印を押されていようと、管理者には何のデメリットもございませんので。ただ……多少刺激を加えてみるのも面白かろうと思いましてね。非上場世界から一人、交渉してコチラに連れてきたわけです」


「あ、俺か」


「ええ、そうでなかったら本当にここまでの話は無駄ですからね。貴方にお渡しした銀色のカードがございますね? そちらに現在の貴方の寿命が記載されております。カードを擦ってみてください」


 カードを擦ると発色のいい緑色の数字が見えた。

 現在の数字は2777と書かれていた。


「コレは2777日?それとも年? 」


「もちろん2777時間でございます。いい感じに恐怖を煽る数字でしょう? ワタクシが設定いたしました!」


 勝手に寿命を決められたことに、遺憾の意を表明するべきか悩んだが、言ったところでどうにもならないのは、政治家が既に証明済みだ。それを嘲笑するようにティックは話しを続ける。


「しかもそれは、金の投入で寿命を延ばすことも可能です。ワタクシがして頂きたいのは、まさにそのサイクル。お金を稼ぎ、寿命を延ばし、そうした循環の中でこの世界を豊にして頂きたいのです」


「生存税ってとこか」


「ニャハ! 素晴らしい。次からはそのように話すとしましょう! 」


「しかしこのシステム変じゃないか。世界で金を循環させて欲しいのに、カードの中に金を入れちまったら、金が消えちまうじゃねえか」


「もちろん、お引き出しも可能でございます。その場合は各地域の銀行に行って貰えれば、その地域に根差した貨幣と交換可能でございます」


「しかし、その分俺の寿命も減るってことか。天寿を全うしたいなら、金を稼げとは……」

「いえ、貴方に天寿全うなどございません。金がある限り貴方は働いていただきます! つまり貴方はお金の妖精としてこの世界にやってきたのです! 」


「不老ってことか? 」


「ええっ! 不老不死でございます! 例え自然治癒では完治不可能な致命傷を受けたとしても、金が尽きるまでその状態で生きていただきます! 」


 例え首を刎ねられても、首のまま生きて金が尽きるのを待て。ということらしい。


「やっぱ、お前悪魔の類だろ。俺に選択権とか無かったし」


「仕方あーりません。パッと手に取ったら貴方でしたから。お知り合いに医者を探すことを推奨いたします! ニョッ!ニョッ!ニョッ!ニョッ!ニョッ!ニョッ!」


 だんだん目の前で嘲笑うティックに腹が立ってきた幸雄は、話しを切り上げようか悩み始めた。


「そうかい、ご忠告どうも。それじゃあ俺の口座はこのカードになるのか? 」


「はい。そうなります」


「振込とかどうすんだ? 」


「一応ココの”フジツボ信用金庫”名義になっております。振込の方はそちらから」

「ソイツはどうも」


「この世界と一緒に自分も変えられると良いですねぇ。前の世界では殆ど家に引き籠りでチャート見てましたからねぇ~」


「お前どこまで見て…!? 」


「ンニョニョニョニョニョニョニョ!! それではそろそろ元の世界へ戻りましょう! ワタクシに会いたい時はいつでも、銀行窓口で! 」


 幸雄はそうして銀行窓口前に戻ってくると、銀行窓口には黒のスーツを着たティックが手を組んで座っていた。


「今日のご入用は? 」


 ティックは初対面のふりをして、営業スマイルで問いかけた。


「通帳を作ってくれ。あと振込も」


 カラ売りで儲けた分を小切手でティックに差し出す。


「かしこまりました。ご新規様、ごあんな~いデス!」


 誰もいないと思われた銀行の奥から、『御新規様1名入りまーす!』 とティックと同じ声がかえってくる。関与しないと言っておきながら、普通に銀行員を楽しんでいるようにも幸雄には見えた。


「幸雄さん知り合い? 」


「いいや? 赤の他人だ」


 隣でキョトンとするユノを尻目に、幸雄は大きくため息をついた。これから始まる、死と隣り合わせのマネーゲームを想って。




さあ、第二話です。

読んで下さりありがとうございました。

今回はかなりファンタジー寄りなお話になりました。

メタい話しもあったりして、純粋なファンタジーでは出来ないようなネタも、

異世界転移系ならできるというのが、異世界転移系/転生系ならではの強みですね。



リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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