面接試験は『空売り』推奨──小麦神話の崩壊
海洋新報ギルドのエントランスにつくと、その圧倒的な未来志向に幸雄は納得して手をポンと叩く。
「どうかしたの? 」
「いや、街の風景とユノの部屋に合った魔道具? が俺の中で噛み合ってなくてな。ここを見て分かったんだ」
ユノは顎に指をあてながら思案する。しかしやはり分からなかったのか、幸雄に訊いた。
「どういうこと? 」
「俺のいた世界には魔道具なんてものはなかった。どうやら高度な経済成長の真っ只中にいるみたいだな。この街は」
「景気は確かにいいかも。なんたって世界の貿易の中心地だから」
受付でアポを取るために、幸雄はしばらくエントランスの端で待ちながら内観をぐるりと見渡す。中は様々な魔道具が壁に掛けられ、それに目を通すギルド職員が目につく。
「あれはなんだ? 板みたいな」
「あれはモノリスっていう魔道具」
「モノリス? 」
黒板のような見た目の魔道具に興味を示した幸雄は、人だかりの少ないモノリスの前に立って触れてみる。ひんやりとしていて、機械が動いているようには思えなかった。
「これは各ギルドや市場に置かれた他のモノリスと繋がっているの。緊急の市況情報を共有するために設置されたホットラインで、書けばその情報が転写されるってわけ。簡単でしょ? 」
「へぇ、遠隔で繋がる黒板か……」
「ふふっ。そうだね、いいえて妙かも」
モノリス専用のペンが紐に繋がれて置かれている。幸雄はユノに「書いてもいいか? 」と聞いて、ユノがクスクス笑う。
「それ街の掲示板だけど。まあ、誰も見てないと思うし良いんじゃない? 」
幸雄は試しに〈小麦の値上がりにご用心。投資家の皆さまは今が空売りの仕込み時〉と書き込む。
そんなことをしながら時間を潰していると、ユノの名前が呼ばれる。
ユノにつられて幸雄はエスカレーターを上がっていくと、階の途中で電話越しに熱心に取引をしている部署を見つける。日夜スクープを探しているのか、それとも異世界四季報を書く会社だから、色々インタビューなどをしているのかも知れない。
妄想を膨らませながら、三階奥の部屋に人事部の応接室に足を運んだ。
面接には二人、ユノの上司と人事部部長が席に座った。
ユノの上司は白金髪のショートボブで、知的でクールな印象を与えるおばあちゃんで、眼つきは猛禽類のように鋭い。近い例えがディズニー映画に出てくる白黒髪の悪女と言ったら初対面の女性に申し訳ないが、そう言う冷酷さの片鱗が垣間見える。
そしてもう一人の男は厳格さを着た男と言う印象を抱かせる、黒と白の斑色の髪色をサイドパートに分けた黒いウェリントン眼鏡の男。目に光はなく、顔は笑うように設計されていないのではないかと思わせる。長方形顔で表情は読めないが、妙な威圧感が風格となってそこに鎮座していた。
初めに口を開いたのは、ユノの上司からだ。
「原稿は出来たの? 」
開口一番にそれを聞くのかと、幸雄は少しおばあさんが怖くなったが、成り行きに身を任せることにした。
「はいガオンさん。いつも以上にいいものを作れたと思います」
「そう、それは結構。それで? そちらの方はどなた? 」
「コチラは───」
ユノが答えようとしたところに被せて、ガオンと言われたお婆さんの眼光が幸雄に光った。
「貴方に訊いているのよ? 」
「私は波止場幸雄と申します。ユノに目利きを買われココに来ました」
幸雄がそう言うと、男の方が眉間に眼鏡をクイッと上げて、幸雄の表情を見た。
顔を見ればその人間が分かるとでも言いたげに、男は幸雄の顔を精密検査にかけるように観察する。
そして口を開いた。
「ハトバ・ユキオ……変わった名だな。どちらがファミリーネームなのかね」
「波止場家の幸雄です」
「採用だ」
男の突飛な発言にその場の全員がズッコケそうになる。姓名判断士も裸足で逃げ出す即決ぶりだ。
それかどんな名前であろうと、人材不足で猫の手も借りたいかのどちらかだ。
「よろしいのですか? 」
ガオンがそう訊くと、男は頷いた。
「目を見れば十分だ。だが、君が不安ならば一つテストをしてやったらどうかね。それで決めてもいい」
「分かりました。では目利きに自信があるという話しですから」
気を取り直して、ガオンは自分で事前に用意しておいた資料を幸雄に見せる。
ユノに見せられた時のような商会やギルドの決算書の写しだ。
そしてそこには、今朝見かけた古い粉を市場に流した製粉工場の名前もあった。
「あぁ。ココがいい。私に言わせれば、これほどいい獲物はない」
幸雄が指さしたのは、もちろん今朝見かけた『古びた小麦粉』を卸していた製粉工場だ。
ガオンは試すような視線を細め、赤い唇を歪める。
「……ふうん? その工場はここ数期、増収増益の優良物件よ。財務諸表も綺麗で、ウチの若手アナリストたちも『強気』の評価を下しているわ」
「へぇ、でも『今』買うのはちょっと待った方が良いかも知れないですね。それで買った投資家から苦情が止まなくなりますよ」
ベアの牙がギラりと光る。
「なんですって?」
ピクリと眉を跳ね上げるガオンに、幸雄は決算書をテーブルに放り投げた。
「数字は嘘をつかないが、数字を作る人間は嘘をつく。……アンタ、現場の『匂い』を嗅いだことはあるか?」
「匂いですって? 」
「ああ。俺は今朝、この工場の小麦粉を見た。袋の日付は先月製造だったよ」
その場に沈黙が落ちた。ユノだけが「ああっ! 」と声を上げそうになり、慌てて口を押える。
ガオンは数瞬、思考を巡らせた後、ハッとした顔つきになった。
「……回転率が落ちている? いえ違う、それが本当なら───」
ガオンは一瞬の間に答えを導き出したようだった。
(流石、ユノの上司)
幸雄は同業に合えた喜びでいつもより少しお喋りになる。
「在庫処分だ。新しい麦が入ってこないから、倉庫の奥底に眠っていた古い粉を吐き出してるのさ。……いうなればこの決算書の数字は断末魔の輝き。今頃、市場じゃ悲鳴が上がってる頃じゃないですかね」
幸雄がそう言い切った、その時だった。
コンコンコン! と激しいノックと共に、顔色の悪い職員が部屋に飛び込んできた。
「ぶ、部長! 大変です! 先ほど市場から速報が! 小麦価格が急騰しています!」
絶対に安全と言われた小麦神話が崩壊する音が幸雄の耳にも聞こえてくる。
「なんですって!?」
ガオンが椅子を蹴る勢いで立ち上がった。
「東の海路で商船団が足止めを食らっているとの情報が……それと、おかしな噂が流れているんです。当社のエントランスの掲示板に、この高騰を言い当てた『予言』が書かれていると!」
「……予言?」
ガオンと、そして無言だった眼鏡の男の視線が、ゆっくりと幸雄に向けられる。
幸雄は悪びれもせず、肩をすくめてみせた。
「予言じゃない。予測だ。……で、どうします? このネタ、一面記事にしますか? 」
眼鏡の男は、初めて口元に微かな笑みを浮かべた。
「……ガオン君。彼の採用手続きを。給与は言い値で構わん」
男は立ち上がるとそう言い残して去っていった。
「編集長! ……承知いたしました」
嵐のように去っていった編集長の背中を見送ると、ガオンは大きな溜息をついて、ギロリと幸雄を睨んだ。
「……はぁ。で? いくら欲しいの? 足元見たら承知しないわよ」
「金の話は後だ。それよりガオンさん、契約成立ってことで『前借り』させてくれませんかね」
「は? 今決まったばかりで何を……」
「一刻を争うんだよ。──おいユノ! お前の全財産と俺の前借金、合わせて今すぐあの製粉工場に『空売り』仕掛けるぞ!」
「ええっ!? 私の貯金も!? 」
「当たり前だろ! あと数分でニュースが広まる。暴落する前の今が、最後のチャンスだ! 」
「こ、この……金の亡者ぁぁぁ!! 私が貸すワケ無いでしょうが! 」
編集長セヴェロ、一代にしてこの海洋新報を立ち上げた稀代の相場師、彼の眼に幸雄は一体どのように映っていたのか。それは誰にも分からない。
幸雄君はこうして海洋新報ギルドに入ることになりました。
そして現在作者は、シルバーカード(チートアイテム)の使いどころさんに悩んでいます。
異種族とかはいても戦わないので……。
今のところたぶん……たぶんですけど、チートが無くても面白いという……でもこれじゃあタイトル詐欺ですからね。
面白さを損なわないチートアイテムを用意しようと思います。
リアクションされると喜びます。(サムズアップとか意味もなくしてください)
それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




