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異世界相場 ~人生ごと強制ロスカットされた俺、シルバーカードで経済無双~  作者: 星島新吾


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10/10

アベン爺ズ───葬儀遊戯

ルドヴィーコ中央広場。


 燦々と降り注ぐ太陽の光は、皮肉にも両陣営の「格差」を残酷なまでに照らし出していた。

 シュヴァイン陣営、精鋭騎士団『ゴールデン・タスク』。


 纏うのは、最高級の魔力を付与された黄金のフルプレートだ。一糸乱れぬ足並みで整列するその姿は、まさに完璧な資産価値を誇る「超優良銘柄」。


 対する幸雄のゲートから現れたのは、人生の底溜まりから掬い上げられた、文字通りの『ゴミ株(ジャンク)』たちだった。


「おいおい、見ろよあのジジイの震える足! 立ってるだけで精一杯じゃねえか!」


「車椅子の騎士に、泥酔した魔導師だと? 海洋新報も落ちたもんだな!」


 観客席から投げつけられるのは、石礫にも等しい嘲笑と罵声。

 だが、幸雄はそれら全てを「市場のノイズ」として切り捨て、冷徹な視線で敵の陣形を分析していた。


「ガハハハハ! おい記者の男! これが貴様の『軍隊』か!? 介護士でも雇った方がいいんじゃないか?」


 特設席でワインを煽るシュヴァインが、腹を抱えて笑い転げる。

 幸雄は動じない。隣で指先を白くして震えるユノの肩を軽く叩き、低く囁いた。


「ユノ、見ておけ。市場(マーケット)が最もパニックに陥るのは、常に『絶対に安全だと思われていた優良株』が暴落する瞬間だ」


「第一回戦、陣形展開!!」


 審判の号令と共に、黄金の騎士たちが動く。

 彼らが組んだのは、一点突破の突撃陣形『(くさび)の陣』。重厚な装甲と爆発的な加速力を活かし、一撃で敵を粉砕する、教科書通りの必勝パターンだ。


 対するアベン爺ズ。


「ガン・ロック、中央固定! 膝を地につけろ! 後ろの連中は姿勢を低く保て!」


 幸雄の鋭い指示――だが、老人たちの耳にはほとんど届いていない。


 しかし、巨漢の老人ガン・ロックは、壊れた膝を軋ませながら地面に沈み込んだ。その手に握られたのは、錆びついた巨大なタワーシールド。彼は動かない。いや、動けないのだ。


 だが、その「動けなさ」こそが、幸雄が買い付けた絶対的な価値だった。


「これより、商法第十七条に基づく決闘裁判を開始する!!」


「はじめぇぇぇっ!!!」


 咆哮と共に、黄金の津波が押し寄せる。

 地響きが闘意場を揺らし、観客は老人が肉塊に変わる瞬間を予想して目を背けた。


「挨拶代わりだ。──老骨(おいぼれ)売り浴びせろ(エントリー)!!」


 幸雄の合図など、彼らには聞こえない。

 だが、歴戦の勘によって育まれた「戦場の呼吸」は、幸雄が引いたシナリオ通りに彼らの体を動かした。


 ミリア婆さんが震える手で古びた杖を突き出す。


「ハァいやぁー! 力が溢れてくるさね!!」


 彼女が事前に呷ったのは、幸雄が寿命を削って換金した、一本で一軒家が建つほどの超高濃度魔力ポーション。燃費最悪の彼女が、人生で一度も経験したことのないほどの魔力を強制的に充填(チャージ)された瞬間だった。


「ヒャーッハッハッハ! 若いのは燃えるのが一番だよぉぉ!!」


 放たれたのは、単なる火炎ではない。

 制御を捨て、指向性を無視し、ただ純粋な破壊エネルギーを一点に凝縮した超極大爆裂魔法。


 ドォォォォォォォンッ!!!


 爆音というより、世界の鼓膜が破れるような衝撃。

 闘技場の中心に小さな太陽が出現したかのような白光が、黄金の騎士たちの視界を焼き、その突撃エネルギーを真正面から相殺(バッティング)させた。


「な、なんだと……!?」


 シュヴァインの驚愕の声が、爆風にかき消される。


「次だ。──流動性を奪え!」


 爆煙の中から、影が飛び出す。耳の遠いベテラン盗賊、ヴィラ婆さんだ。

 彼女は腰の曲がった体からは想像もつかない速度で地面を這い、混乱する騎士たちの足元に、見えない『魔糸』のトラップを張り巡らせる。爆発の衝撃で足並みが乱れたエリート騎士たちは、次々と自分たちの重厚な鎧に振り回され、絡まり、無様に転倒した。


「右翼、狙撃(ショート)!」


 幸雄の鋭い号令も、エルフの爺さんには届かない。


 しかし、弱った獲物を取り逃がすことは、どれだけ老いぼれになろうとも彼の誇りが許さなかった。


 背後で腰痛に顔を歪めていたエルフの老射手ゾロが、腰を逸らせながら独特のフォームで弓を引き絞る。


 放たれた矢は、風を切り裂き、倒れようとする騎士の『首の隙間』や『脇の下』といった、黄金の装甲が守り切れない急所をピンポイントで貫いていく。


「ぐあああっ!?」


「どこからだ! 煙で前が見えん!」


 完璧なはずの『ゴールデン・タスク』の陣形が、見る影もなく崩壊クラッシュしていく。

 そしてその中心。爆風と火炎を真正面から浴びたはずのガン・ロックが、煤だらけになりながらも、鉄の杭のようにその場に座り込んでいた。


「……動かざること、山のごとし、だ」


 彼が構える盾は、幸雄の指示で『防御魔石』を過剰に埋め込まれた特注品。動けない彼を「動かない防壁」という固定資産に変えた幸雄の采配が、敵の突撃を完璧に受け流したのだ。


 観客席の嘲笑は消え、静まり返る。


 ただ一人、幸雄だけが、この惨状を「予定通りの値動き」であるかのように眺めていた。


「いいか、シュヴァイン。お前の騎士団は確かに高価だ。だがな、高すぎる株価は、たった一つの悪材料でパニック売りに変わるんだよ。それに引き換え、この老人どもは違う。この戦い続きの世界で生き抜いた『歴戦の猛者』たちだぞ? 耳が遠い? 足が悪い? そんなことが、こいつらを侮る理由にすらなってないんだよ」


 幸雄は不敵に笑い、無様に倒れ伏す黄金の騎士たちを指さした。


「買い気配ゼロ、成行売りが殺到中だ。……お前たちの『無敵神話』、ここで強制決済(ロスカット)してやるよ」

他にもあと4つ小説平行して書いてるので、また失踪します。

リアクションされるとまた書きます。

それではまた。

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