アベン爺ズ───葬儀遊戯
ルドヴィーコ中央広場。
燦々と降り注ぐ太陽の光は、皮肉にも両陣営の「格差」を残酷なまでに照らし出していた。
シュヴァイン陣営、精鋭騎士団『ゴールデン・タスク』。
纏うのは、最高級の魔力を付与された黄金のフルプレートだ。一糸乱れぬ足並みで整列するその姿は、まさに完璧な資産価値を誇る「超優良銘柄」。
対する幸雄のゲートから現れたのは、人生の底溜まりから掬い上げられた、文字通りの『ゴミ株』たちだった。
「おいおい、見ろよあのジジイの震える足! 立ってるだけで精一杯じゃねえか!」
「車椅子の騎士に、泥酔した魔導師だと? 海洋新報も落ちたもんだな!」
観客席から投げつけられるのは、石礫にも等しい嘲笑と罵声。
だが、幸雄はそれら全てを「市場のノイズ」として切り捨て、冷徹な視線で敵の陣形を分析していた。
「ガハハハハ! おい記者の男! これが貴様の『軍隊』か!? 介護士でも雇った方がいいんじゃないか?」
特設席でワインを煽るシュヴァインが、腹を抱えて笑い転げる。
幸雄は動じない。隣で指先を白くして震えるユノの肩を軽く叩き、低く囁いた。
「ユノ、見ておけ。市場が最もパニックに陥るのは、常に『絶対に安全だと思われていた優良株』が暴落する瞬間だ」
「第一回戦、陣形展開!!」
審判の号令と共に、黄金の騎士たちが動く。
彼らが組んだのは、一点突破の突撃陣形『楔の陣』。重厚な装甲と爆発的な加速力を活かし、一撃で敵を粉砕する、教科書通りの必勝パターンだ。
対するアベン爺ズ。
「ガン・ロック、中央固定! 膝を地につけろ! 後ろの連中は姿勢を低く保て!」
幸雄の鋭い指示――だが、老人たちの耳にはほとんど届いていない。
しかし、巨漢の老人ガン・ロックは、壊れた膝を軋ませながら地面に沈み込んだ。その手に握られたのは、錆びついた巨大なタワーシールド。彼は動かない。いや、動けないのだ。
だが、その「動けなさ」こそが、幸雄が買い付けた絶対的な価値だった。
「これより、商法第十七条に基づく決闘裁判を開始する!!」
「はじめぇぇぇっ!!!」
咆哮と共に、黄金の津波が押し寄せる。
地響きが闘意場を揺らし、観客は老人が肉塊に変わる瞬間を予想して目を背けた。
「挨拶代わりだ。──老骨売り浴びせろ!!」
幸雄の合図など、彼らには聞こえない。
だが、歴戦の勘によって育まれた「戦場の呼吸」は、幸雄が引いたシナリオ通りに彼らの体を動かした。
ミリア婆さんが震える手で古びた杖を突き出す。
「ハァいやぁー! 力が溢れてくるさね!!」
彼女が事前に呷ったのは、幸雄が寿命を削って換金した、一本で一軒家が建つほどの超高濃度魔力ポーション。燃費最悪の彼女が、人生で一度も経験したことのないほどの魔力を強制的に充填された瞬間だった。
「ヒャーッハッハッハ! 若いのは燃えるのが一番だよぉぉ!!」
放たれたのは、単なる火炎ではない。
制御を捨て、指向性を無視し、ただ純粋な破壊エネルギーを一点に凝縮した超極大爆裂魔法。
ドォォォォォォォンッ!!!
爆音というより、世界の鼓膜が破れるような衝撃。
闘技場の中心に小さな太陽が出現したかのような白光が、黄金の騎士たちの視界を焼き、その突撃エネルギーを真正面から相殺させた。
「な、なんだと……!?」
シュヴァインの驚愕の声が、爆風にかき消される。
「次だ。──流動性を奪え!」
爆煙の中から、影が飛び出す。耳の遠いベテラン盗賊、ヴィラ婆さんだ。
彼女は腰の曲がった体からは想像もつかない速度で地面を這い、混乱する騎士たちの足元に、見えない『魔糸』のトラップを張り巡らせる。爆発の衝撃で足並みが乱れたエリート騎士たちは、次々と自分たちの重厚な鎧に振り回され、絡まり、無様に転倒した。
「右翼、狙撃!」
幸雄の鋭い号令も、エルフの爺さんには届かない。
しかし、弱った獲物を取り逃がすことは、どれだけ老いぼれになろうとも彼の誇りが許さなかった。
背後で腰痛に顔を歪めていたエルフの老射手ゾロが、腰を逸らせながら独特のフォームで弓を引き絞る。
放たれた矢は、風を切り裂き、倒れようとする騎士の『首の隙間』や『脇の下』といった、黄金の装甲が守り切れない急所をピンポイントで貫いていく。
「ぐあああっ!?」
「どこからだ! 煙で前が見えん!」
完璧なはずの『ゴールデン・タスク』の陣形が、見る影もなく崩壊していく。
そしてその中心。爆風と火炎を真正面から浴びたはずのガン・ロックが、煤だらけになりながらも、鉄の杭のようにその場に座り込んでいた。
「……動かざること、山のごとし、だ」
彼が構える盾は、幸雄の指示で『防御魔石』を過剰に埋め込まれた特注品。動けない彼を「動かない防壁」という固定資産に変えた幸雄の采配が、敵の突撃を完璧に受け流したのだ。
観客席の嘲笑は消え、静まり返る。
ただ一人、幸雄だけが、この惨状を「予定通りの値動き」であるかのように眺めていた。
「いいか、シュヴァイン。お前の騎士団は確かに高価だ。だがな、高すぎる株価は、たった一つの悪材料でパニック売りに変わるんだよ。それに引き換え、この老人どもは違う。この戦い続きの世界で生き抜いた『歴戦の猛者』たちだぞ? 耳が遠い? 足が悪い? そんなことが、こいつらを侮る理由にすらなってないんだよ」
幸雄は不敵に笑い、無様に倒れ伏す黄金の騎士たちを指さした。
「買い気配ゼロ、成行売りが殺到中だ。……お前たちの『無敵神話』、ここで強制決済してやるよ」
他にもあと4つ小説平行して書いてるので、また失踪します。
リアクションされるとまた書きます。
それではまた。




