表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/18

第7話 私が先輩とデートをするまでの話➁

「――というわけで、レポート、おかげさまでA評価でした!」

 

 一週間後の夕食時。結城先輩は、自分で作ったハンバーグを頬張りながら、満面の笑みでそう報告してくれた。

 大人っぽい雰囲気の先輩が、子どものような振る舞いをすると、ギャップが目立って魅力的に見える。

 

 いや、もう私の目には、何がどうなっても、先輩が魅力的に見えるんだろうな……初恋って怖いや。


 先輩への好意を自覚した私は、自嘲気味にそんなことを思ってしまった。

 これまで、『人を好きになる』という経験がなかった私は、突然訪れた初めての感情を持て余していた。

 

「良かったですね。先輩のお役に立てたなら、私も手伝った甲斐がありました」

「本当に、東雲先生のおかげだよ。感謝しても、しきれないや」

「先生は、もうやめてください……」

 

 からかうような呼び方に、少しだけむず痒くなる。

 先輩は「えー」と口を尖らせた後、何かを思い出したように、ぱんと手を叩いた。

 

「それで、レポートのお礼、まだちゃんとできてないからさ――」

「先輩! 何度も言ってますけど、私はずっと貰いっぱなしなんですから、気にしないで下さい!」

「ダメだよ。何度も言ってるけど、()()、お礼したいの」

 

 きっぱりとした声で言いきられてしまった。こんな言い方をされたら、私からそれ以上は何も言えない。

 

 先輩はズルいです……。

 

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、先輩は私の目を見て小さく微笑んだ。

 

「今度の日曜日、駅前の新しいケーキ屋さんに行かない? もちろん、私にご馳走させてね。それがお礼ってことで、良い?」

 

 ケーキ屋さん? 二人で? 日曜日に?


 先輩の言葉が、1つ1つ、スローモーションのように頭の中で再生される。

 そして――。


 それって……デートでは?

 

 その言葉が頭に浮かんだ瞬間、頭の中で、鐘がけたたましく鳴り響いた。


 で、でーと、の、お誘い……⁉ い、いや、先輩はあくまでもレポートのお礼だって言っているけど……。

 でも、これって、デートなのでは……⁇

 

 休日を好きな人と2人きりで過ごす。それは、世間一般で言うところの。


 デートだよね?


 顔に一気に熱が集まり、思考がショートする。何か返事をしなければいけないのに、口から出てくるのは「あ、う、」という、意味をなさない音だけだった。

 

「……東雲さん?」

 

 不思議そうに首を傾げる先輩に、私はブンブンと首を縦に振った。

 

「は、はぃ。行きたい……です」

 

 蚊の鳴くような声でそう答えるのが、私の精一杯だった――。

 

 その夜、私は全く寝付けなかった。

 眠ろうにも、私の心臓は激しいリズムを刻み続けて私の安眠を妨害する。頭の中もぐちゃぐちゃで全く眠れる状態ではなかった。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう……!

 デートって、何を着ていけばいいんだ……⁉

 

 ガバッと、勢いよく体を起こす。

 クローゼットに吊るされた、数少ない服たちを思い浮かべる。

 いつも大学に着ていくのは、古着のTシャツに、ボーイッシュなパンツスタイル。楽だし、それが自分らしいと思っていた。

 でも、あの綺麗な先輩の隣を歩くのに、それでいいのだろうか。

 

 なんか、ダメな気がする……。

 それに……少しでも、ほんの少しでもいい。私を、()()()()()()()

 

 そんな、今まで考えたこともなかったような欲望が、胸の奥から湧き上がってくるのを感じた――。


「こっちのチェックのシャツは、カジュアルすぎる……。こっちのパーカーは、部屋着にしか見えない……」


 寝ることを諦めた私の部屋のベッドの上には、数少ない手持ちの服が全て広げられていた。

 一枚一枚手に取っては、鏡の前で体に当て、そして、深いため息と共にベッドに放り投げる。その繰り返し。

 結局、私の手元に残ったのは、クローゼットの奥から引っ張り出してきた服だけ。高校の卒業式の後に、母親に買ってもらった白いブラウスと黒いロングスカートだ。

 

「これなら……女の子、っぽい、かな」

 

 恐る恐る袖を通してみる。

 いつもと違う、ふわりとしたブラウスの感触。足を締め付けない、スカートの解放感。


 やっぱり、なんだか、落ち着かないな……。

 

 大学生らしい大人っぽい服が欲しい。そう思って買ってもらったは良いものの、普段の自分とはかけ離れたイメージの服を着ることに抵抗があって、今まで放置していたものだ。

 鏡に映る自分は、まるで借り物の服を着ているみたいで、ひどく頼りなく見えた。

 

「……ダメだ、似合わない」

 

 やっぱりいつもの格好で行こう。そう思ってブラウスを脱ぎ捨てようとした。

 だけど――。


「この格好を見たら、先輩、なんて言ってくれるのかな……」

 

 普段とは違う私の姿。だからこそ、先輩に私を意識してもらうには、都合がいいのかもしれない。

 

「……よし」

 

 私は、もう一度鏡の中の自分と向き合った。


「この服で行こう」


 ――そして迎える、運命の日曜日の朝。


 私は、鏡の中の自分と向き合う。髪をいつもより丁寧にブラシでかけて、少しだけワックスで整える。

 準備を終え、玄関のドアの前に立ったところで、約束の時間の5分前だった。

 心臓が、うるさいくらいに鳴っている。それは、緊張と、わずかな期待。


「――いざ、出陣」

 

 私は小さく呟くと、震える手で、ゆっくりとドアノブを回した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ