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第16話 私が先輩と百合な関係になるまでの話⑤

 朝起きたら、すやすや寝息を立てる琴声さんの顔が目の前にあった。

 美人は寝顔まで素敵なものなんだな、なんて感心してから、彼女の首筋にできた小さな(あざ)が目に入った。


「~~~~っ」


 自分のやらかした(あと)が今さらになって恥ずかしくなり、声にならない音が口から漏れ出る。

 しかし、目線を下ろせば自分の胸元にも琴声さんが付けたであろう痕が残っていた。


「くぅっ」


 なんかもう、多幸感と恥ずかしさの板挟みで押しつぶされそうになっていると、私の頭は突然琴声さんの胸に抱き寄せられた。


「ん~……おはよ」


 もにょもにょした寝起きの声が頭上から聞こえてくる。

 私は顔に触れる柔らかい感触にドギマギしながら返事をするので精一杯だった。

 

「お、おはよう、ございます」

「おやすみ……」

「あ、あれ? 琴声さん?」


 琴声さんは私を抱き枕に二度寝を始めようとしていた。

 私はもぞもぞと彼女の腕の中から抜け出そうとしたが、思いの外がっしりホールドされていて逃げることができない。


「こ、琴声さん、今日、私、大学…………」


 何故かカタコトになった言葉で彼女を起こそうとするが、既にスース―と気持ちよさそうな寝息を立てている。

 結局、私は逃げることを諦めた。

 次に目が覚めたのは、正午を過ぎた頃だった――。


「ごめん透……講義サボらせちゃって……」

「い、いえ、出席は足りてますし……私も、あっさり抵抗を諦めたので……」


 昨日、あの後の私たちは、それまで離れていた距離を埋め合わせるように一日中2人で過ごした。

 昼食を外で食べて。夕飯の食材を買って琴声さんの家に戻り、2人で映画を見たり、なんてことない雑談をしたり。

 それから、琴声さんが作ってくれた夕飯を食べて……。

 いつもなら、それで私は自宅へ戻るのだけど、昨日は違った。


『もうちょっと、一緒に居たいな……』


 甘い声でそんなことを言われたら、断れるはずもない。私は、ほいほいと彼女の甘言に誘われて玄関から部屋に引き戻された。

 あとは……何と言うか、そういう流れになって…………うん。

 好きだと伝えたその日のうちに、()()()()()になるとは思っていなかった。思っていなかったけど、じゃあいつになったら良いとか、そんな基準も良く分からないし。

 ちょっと早いんじゃないか、とか思いつつも、気づいていたら一緒のベッドに納まっていた。


 昨日は凄かった……何がというか全部…………。

 ヤバイ、思い出したら恥ずかしさがぶり返してきちゃった……。

 ダメだ。もう昨日の事は考えないようにしよう。


 とにかく、そんなわけで、盛大な二度寝をかました私は、始めて大学の講義をサボった。

 

「午後はどうする?」

「講義は午前中だけだったので、今日はもう大学には行かないです。14時くらいからバイトですけど、夕方には帰ってきます」

「そっか。私は15時から1コマだけ講義。夜は一緒でいい?」

「はい。4限の終わりなら、たぶん私のバイトの終わりと同じくらいになると思うので、どこかで待ち合わせて夕飯の買い物も一緒にしましょう」

「おっけー。じゃあ、適当にお昼だけ食べに行こうか」


 つい昨日まで断ち切れかけていた私たちの関係は、あっさりと修復されていた。修復されたというか、鍛錬(たんれん)されたというべきだろうか。

 とにかく、私と琴声さんの間には、もうわだかまりはない。

 あるとすれば、ちょっとした恥ずかしさくらいだろうか……それは意識しないようにしている。琴声さんの方は何とも思っていなそうなのが、ちょっと悔しいけど。

 とにかく、私は以前にも増して強く琴声さんとの繋がりを実感できている。

 

「お昼どうしようね」

「パスタとかどうですか?」

「良いねぇ。たしかここから歩きで5分くらいの場所にイタリアンのお店があるんだよね」

「え? そんなの全然知らなかったです」

「ほほう。あの名店を知らんとな? では、私が連れて行ってしんぜよう」


 相も変わらず、したり顔が可愛い。

 私たちは顔を見合わせて小さく笑うと、どちらからともなく手を握り、2人で部屋を出た。

 こうして、私たちの新しい日常が始まった。

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