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第11話 私が後輩への恋心を自覚するまでの話

「透、今日は、何が食べたい?」


 ある日の夕方。

 透と2人で、近所のスーパーで夕飯の買い物をしていた。

 夕飯のメニューを決めて貰おうと問いかけると、彼女は少し悩んだ顔になる。

 どんなことでも真面目に考えてから答えを出そうとする彼女の性格が、私はとても好きだ。

 

「そうですねぇ。昨日は冷やし中華だから……そうめんとか?」

「作り甲斐がないなぁ。また麺類だし」

「でも、最近暑いからあっさりしたものが食べたくなるんですよね」

「それは、分かる。でも、お姉さん的には透に凝った手料理を食べさせてあげたい」


 我ながら面倒くさい事を言っている。でも、透は嫌な顔1つせず、むしろ楽しそうに笑った。

 

「素直に嬉しいけど、ちょっと困った話ですね。う~~~ん、なんだろう?」


 透は、「う~~ん、う~~~ん」と小さく唸り、分かりやすく悩んでいる。

 小首を傾げてみた入り、顎に手を当ててみたり。彼女のそんな仕草を目で追っているだけで、私は何故だか胸がいっぱいになる。


「あ! じゃあ、ヨダレ鶏にしましょう! この前、一緒に動画で見たアレ!」

「あ~、あれかぁ。良いね。ちょっと材料が分かんないけど」

「ちょっと待ってください。今調べますから」


 テキパキとスマホを操作して、彼女はすぐに画面をこちらに向けた。


「これですこれ!」

「え~っと、ラー油、ごま油、にんにく、しょうが……盛りだくさんだね」

「改めて見ると悪魔的な味付けですね……これは不味いわけないです」

「間違いない」


 私はスマホ画面から顔を上げると、ちょうど同じタイミングで顔を上げた透と目が合う。

 だけど、なんてことない小さな偶然が、やけに嬉しく感じる。

 目が合った透も、可愛らしくパチクリと(まばた)きをすると、小さく笑った。

 

「じゃあ、今日はヨダレ鶏を作って、あとは適当にサラダと味噌汁かな」

「はい。今から楽しみです」

 

 ルンルンと、分かりやすくご機嫌な歩調で歩く透。

 そんな彼女がどうしようもなく可愛くて――(いと)おしい。


「……あれ?」


 今の、なんだ?


 降ってわいてきたような未体験の感情。

 私はその感情の正体を本能で悟った。


 心臓が、痛いくらいに脈動する。胸が苦しくて、どうにかなってしまいそうだった。

 

 ああそうか、人を好きになるって、こんなに苦しいんだ。

 苦しくて、――幸せなんだ。


 なんてことのない日常の中で、私はやっと、『恋心』を自覚した。


「どうしたんですか? 琴声さん?」

「……ううん。なんでもない。早く帰ろうか」


 不思議そうな顔をする透は、すぐに笑顔に戻る。

 それから彼女は、「はい!」と元気に返事をして、私の隣を歩き出した。

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