もうじき滅びる国の話
あら殿下、珍しいですわね。わざわざ屋敷にまで足を運ぶだなんて。
え? 私の仕業だろう? 何がでしょうか?
愛するマリーナ?
あぁ、殿下が最近連れていらした方ですか。それを? 私が?
まさか、しませんわ。面倒ですもの。
えっ? 何故そこで驚かれるのです?
あの殿下、思い出して下さい。私と殿下の婚約は王命。殿下は私との婚約を望んでいないと言葉や態度で示しておりましたが、それは私も同じ事。
えっ? 何故驚かれるのです……?
王命だから逆らえないのでしぶしぶ婚約者の立場になっておりますが、私は、というか我が家は三度婚約の話を持ち掛けられた時に断っておりましてよ。
だって旨味なんてどこにもありませんもの。
他の家だって断っていたでしょう?
あら、ご存じない?
ともあれ、婚約をなかったことにできるならそれこそしてもらいたいくらいですの。
むしろ婚約破棄を殿下が宣言して下されば、こちらも諸手を挙げての大喜びですわ。
不敬?
そう言われましても。
我が公爵家一門、この国を愛し忠誠を誓ってはおりますけれど、殿下個人に対して忠誠心は持ち合わせておりませんし。陛下に対しても同様です。
いざとなれば独立して新たな国を興す事も考えましたが、やはりこの国に愛着があるものですから……
当然でしょう。
陛下が若い頃にやらかした醜聞だって未だに語り継がれているのですから。
更に殿下も若かりし頃の陛下と同じような事を……となれば今はまだ見限られずとも、いずれそうなるのは目に見えているではございませんか。
陛下もご自分でしでかした事を棚にあげて、殿下に厳重に注意をしていたようですが、殿下がそれに従おうなんて思わなくて当然ですわよねぇ……だって説得力がありませんもの。
けれど、多くの貴族たちから国に忠誠は誓っても王家に忠誠はちょっと……と思われている現状、言ってしまえば王家に後がないのです。
殿下の真実の愛も二番煎じなんですよね。既に陛下がやらかしたので。
ともあれ、望んでもいない婚約なので、私が殿下に関心を持つ事もありません。
確かに耳には噂として届いておりましたよ? 殿下と親しい女性がいる事は。
けれどそれだけです。
身分違いの恋。
それさえなければ結ばれたであろう二人。
あぁ、なんて麗しくも悲しい真実の愛……!
と、劇であればそのように語られたでしょうけれど、そこも既に陛下がやらかしているので。
多くの貴族や平民たちからすればあぁまたか、となってしまうのです。
というか、親子そろってやらかしているのですから、気付くと思ったのですが。
何を? ですか?
だって、既に陛下がやらかしたせいで王家の支持率は下がっているわけですよね?
そこに殿下も同じような事をしているのですから、次にやらかせば本当に後がないわけです。
だからこそ、王家は何がなんでも私と殿下との結婚をさせなければならない。
正当な血を残さねばならない。
殿下の生みの親でもある陛下にとっての真実の愛だった方は、不貞現場を目撃されて早々に殺されましたが、だからといって育ての親となった新たな王妃様との子は存在しない。まぁ、今の王妃殿下は仕事の手伝いはしても夫婦としての営みはしないと宣言した上でそうなっているので当然ですが。
殿下も本当に陛下の子か疑われた時期がありましたが、見た目も中身もそっくりなので疑いは早々に晴れましたものね。
でもだからこそ、同じ過ちを繰り返すわけにはいかないのが王家です。
ですので、その殿下にとっての愛しの君に関しては、私がどうにかするよりも、まず疑うべきはご自身の身内ではないかと。
私との婚約がなくなれば、本当に後がなくなりますもの。私が何かをしなくても、余計な虫を始末するために動く者はいくらでもおりましてよ。特に、後のない王家には。
そういう意味で愛しのマリーナとやらに何かがあったというのなら。
元凶は王家でございます。
そうですか、お帰りになりますのね。
えぇ、お気をつけて。
どうせなら帰って親子で殺し合ってくれればよろしいのに。
あら? 失礼。心の声がうっかりと出てしまいましたわ。
でもまぁ、皆さまそう思ってるのだから、今更ですわね。
(◜◡◝)
ねっ、滅亡までもうちょっとでしょう?
次回短編予告
とある乙女ゲームの世界に転生したモブは、しかし原作が始まる様子がなかった事でもしかしてヒロインやそのライバルも転生者なのかも……? と当然のように疑問を抱いた。
だからこそ調べた結果は――
次回 原作は、始まらなかった
転生して原作知識があるからって有利になるとは限らないっていう安定のテンプレストーリーです。