超レンタルロボ カリテンダー
時は20XX年。
地球は未曾有の危機を迎えた。
宇宙の彼方より惑星侵略軍団ノットルが襲来したのだ。
彼らは巨大機動兵器を地球の周回軌道上に展開し、無条件降伏を要求した。
しかし、以前から侵略者襲来を予見していた宇宙科学研究所の天才科学者、宇狩博士はひとりの若者をスーパーロボットのパイロットとして養成していたのである。
「宇狩博士! いよいよこの時が来たのですね!」
スーパーロボットのパイロット亜月千獅雄が拳を握りしめて叫んだ。
千獅雄はノットル襲来の1ヶ月前から血の滲むような特訓を繰り返してきたのだ。1体のスーパーロボット、カリテンダーと共に。
「うむ⋯⋯そうじゃな」
宇狩博士は綺麗に整えた白いヒゲを撫でながら眉間にシワを寄せ、不安そうに答えた。
「どうかしましたか博士?」
「千獅雄よ⋯⋯。お前に話して開くことがある」
「何でしょう? 何か問題でも⋯⋯」
いつも威風堂々としている博士が神妙な面持ちである事に千獅雄は一抹の不安を覚えた。
「うん。あのな⋯⋯、カリテンダーなんじゃが⋯⋯、今日が返却期限なんだ。すっかり忘れていたわい⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい?」
「いや、だからさ。アレ、レンタル品なんだわ⋯⋯」
宇狩博士はものすごく気まずそうに小さく呟いた。
(いや、待って? 俺、スカウトされて研究所に案内された時に博士から直接、「ワシが造ったんじゃ、スゴいじゃろ?」って聞いたんだけど⋯⋯)
「⋯⋯博士がお一人で全てを手掛けたのでは?」
「⋯⋯無理に決まってるじゃんこんなデカイの。30メートルあるんじゃぞ? それにワシ、仲間いないし⋯⋯」
宇狩博士は偉そうな性格が災いし、世界中の学会からことごとくお断りされている、孤独な科学者でもあった。
でも誰かに偉そうにしていたい。そんなつまらない見栄のために、つい話を盛ってしまったのだ。
「だからなお前、あと35分以内に奴らを全滅させて来い。いいな?」
「⋯⋯延長とかはできないんですか?」
「スペースロボットレンタル社の料金、高いじゃん? 払えないって」
「いや、知りませんけど? と言うかそんな会社初めて聞きましたけど」
「ごめんな⋯⋯」
これ以上の問答は時間の無駄だと悟った千獅雄は仕方なく出撃した。
返却予定まであと30分。
一方その頃、惑星侵略軍団ノットル旗艦司令室。
「司令! 地上から機動兵器らしき物体が接近してきます!」
「地球人め、無駄な足掻きを」
オペレーターの緊張した言葉に、司令官モラウデは慌てる事なく淡々と指示を出す。
「ゲットー将軍に伝えろ。 5分で片付けろとな」
「すでに出撃していますが、5秒で撃墜されました!」
「はあ!?」
素っ頓狂な声を上げ、座席からズリ落ちたモラウデは信じられないという顔。
「ば、馬鹿な! そうだ、他の連中は何をして⋯⋯、うわあああ!」
突如襲った強い揺れ。
遠くから爆発音と兵士たちの悲鳴が上がる。
「どけどけー! こちとら急いでるんだよお!」
千獅雄が操るカリテンダーは旗艦に突入し、ビームキャノンとマイクロミサイルを乱射していた。
「くそおっ! 総員脱出ポッドに急げ! こんな危険な惑星から一刻も早く離れるんだ!」
モラウデは混乱のさなか的確に指示を出した。
もう半泣きである。
無事に逃げおおせたモラウデはのちに月刊雑誌『宇宙の友』のインタビューでこう語った。
「もう恐怖でしたね。まさかあんな辺境の惑星にアレほどの機動兵器があるとは⋯⋯」
しかし、モラウデは知らない。
その機動兵器がのちに宇宙最大のロボットレンタルショップとなる会社の最初期の商品であったことを。
カリテンダーは無事返却され、地球と宇狩博士のお財布は守られた。
しかし、あまりにも速い決着であったため、亜月千獅雄たちの活躍は地球上の記録に一切残らず、よく分からないまま撤退した事になっている。
そのため、ヒーローのはずの千獅雄は人々から称賛を浴びたりすることもなく無名のままであった⋯⋯。
だが、千獅雄はそれで十分だと思った。
いいじゃないか。みんな無事なのだから、と。
⋯⋯ちなみに宇狩博士はこの闘いを自分だけの手柄にしようとアピールを頑張ったが、そもそもスーパーロボットを所持していた事すら誰にも知られていなかったので、嘘つき呼ばわりされてどこにも居場所がなくなってしまったそうな。