表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰キャな私のヒロインみたいな逆ハー生活  作者: 完菜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/33

033 自分だけの居場所

「星志君は、今日のお仕事は大丈夫なんですか?」

「今日は、たまたま早く終わったんだよ」

「そうなんですか……。では、お言葉に甘えさせてもらってもいいですか?」

「おう。行くぞ」


 何だか、今日は星志君がやけに優しい。いつもと違うと何だか怪しく感じる。だけど、忙しい星志君が、そんなまだるっこしいことする訳ないか……。

 清香は、素直に隣のお家に上らせてもらう。仕事に関係なく、星志君の家にお邪魔するのは初めてだ。


「お邪魔します」と一声かえて、中に入る。星志君は、どんどん先に行ってしまうのでその後ろを付いていく。リビングに通された清香は「えっ?!」っと声が出てしまう。


「誕生日おめでとう」


 三人から出迎えられて、クラッカーがパンッパンッと鳴り、清香の頭に紙テープや紙吹雪が舞い散る。清香は、目をまん丸にして言葉が出ない。


「おい、清香大丈夫か?」


 星志君が、心配そうに清香の顔を伺う。


「突然だったら、びっくりしちゃったかな?」


 成瀬さんが、笑顔で問いかける。


「星志が、驚かせようなんて言うから」


 奏さんが、ボソッと呟く。三人の言葉を聞いた清香は、頭が動き出してじわじわと熱い気持ちが湧き上がる。


「びっくりしたけど、嬉しいです。何で、私の誕生日って知っているんですか?」


 誰にも誕生日の話はしていなかった筈なのに……。でも、こんな風にお祝いしてもらえるなんて、とんでもなく嬉しい。こんな誕生日は初めてだ。


「いちが、連絡よこしたんだよ。ぼっちだったら、祝ってやれって」


 成瀬さんが教えてくれた。


「いちさんが……」


 確かに、いちさんには履歴書を送ったので、誕生日を知っていてもおかしくない。こんな風に気にかけてくれるなんて嬉しくて心が躍る。


「今日で、二十歳なんだって? さすがに、ぼっちはかわいそうだからな。ほら座って。たくさん、ご馳走用意したんだぞ」


 星志君が、ダイニングテーブルの方に視線を移した。そこには、テーブル一杯にご馳走が並べられている。ピザやパスタやローストビーフ。それに色鮮やかなサラダもあるし、唐揚げやポテトなどの定番料理もある。

 一番目を引いたのは、テーブルの真ん中に置いてある大きなホールのケーキだった。フルーツがふんだんに飾り付けられていて、真ん中にでかでかと「happy birthday清香」と書いてある。ホールの誕生日ケーキなんて初めてで、目が輝いてしまうのを抑えられない。


「すっごい。誕生日のホールケーキだ! すっごく可愛いし美味しそう」


 清香は、胸を高鳴らせ満面の笑みになる。


「凄い喜んでる。奏君良かったね」

「喜んでるし、早く食べよう」


 成瀬さんが、奏さんに話しかけるも照れ隠しなのかそそくさと席につく。清香は、星志君の隣に座り、向かい側に成瀬さんと奏さんが座った。


「じゃあ、記念すべき二十歳のお祝いだから、一口だけシャンパンで乾杯しよう」


 成瀬さんが、シャンパンのコルクを抜いてくれた。清香は見慣れない光景に、ドキドキする。シャンパンで乾杯だなんて、ドラマとか漫画とかの中だけで清香の身近にはないものだ。

 シャンパングラスに成瀬さんが、シャンパンを注ぐ。華やかな金色の液体が注がれたシャンパングラスは、それだけでおしゃれだ。


「星志は、サイダーな」


 成瀬さんはどこから持ってきたのか、グラスの一つに透明のサイダーを注ぐ。


「俺だけ、サイダーって……」

「あと二年、我慢だな」


 残念そうに星志君は、サイダーの入ったグラスを受け取っている。ボソッとしゃべる奏さんの前に、成瀬さんがシャンパングラスを置いた。


「はい。清香ちゃん。清香ちゃんは、病み上がりだから一口だけね。味見してごらん。初心者用に甘口にしたからね」


 どこまでも気の利く成瀬さんは、いちいち格好よい。「ありがとうございます」とグラスを受け取った清香は、どんな味なのだろうとウキウキしていた。


「では、清香ちゃんの二十歳の誕生日を祝って乾杯!」


 四つのグラスが、カチンッと合わさる。清香は、ゆっくりとグラスを口に運び一口だけ口にする。冷たい炭酸が喉を通過すると、なんとも言えない複雑な味を感じる。

 アルコールの刺激が口の中に広がり、ちょっと顔をしかめる。


「どう、清香ちゃん?」


 成瀬さんが、清香の感想を心待ちにしている。


「正直に言ってもいいですか?」

「いいよ」

「美味しいのか、わかりません」

「あっはっはっは。素直でよろしい」


 成瀬さんは声を出して笑い、奏さんはすでにシャンパンを飲みほしている。


「やっぱり清香は、お子ちゃまだな」


 星志君は、サイダーの癖に偉そうに言う。


「また、そう言う意地悪言わない。さー食べよう。清香ちゃんが何が好きかわからなかったからさ、とりあえずパーティーと言えばな定番にしてみました」

「嫌いなものないので大丈夫です! どれも美味しそうで、どれから食べたらいいか、迷っちゃいますね!」


 成瀬さんは、お兄さんみたいに星志君を窘めてくれる。二人のそんな関係性も、なんだか面白くて微笑ましい。こうやって四人で集まるのも初めてだから、なんだかとても新鮮だ。

 みんなと一緒の空間が嬉しくて、清香の口角はずっと上がりっぱなしだ。


 ――――「ティロリロリン。ティロリロリン」


 料理を食べ始めたところで、清香のポケットの中にあるスマホが鳴った。画面表示には、「一理」と書いてあった。


「あっ、いちさんだ。ちょっと出てもいいですか?」

「どうぞ」


 奏さんが、返事をしてくれて二人も頷いている。


「食べてて下さいね。ちょっとだけ話してきます」


 清香は席を立って、リビングを出ると玄関に続く廊下で電話に出た。


『もしもし、いちさん?』

『ぼっち、誕生日してんの?』


 いつもの、いちさんの適当な返事が返ってくる。


『もう、一人じゃないよ! いちさんが、教えてくれたから、みんながお祝いしてくれてるよ。本当にありがとう』

『なら、良かったな』


 いちさんが、ふーと息を吐く。今日も変わらず煙草休憩だ。


『うん。本当に嬉しい』


 清香は、心を込めてそう言った。もうさっきから、胸が一杯で油断したら泣いてしまいそうなのだ。

 家族から、あんな風に盛大にお祝いしてもらったことがない。清香の家族の中心は父親で、彼の言うことが全てだ。父親が、清香の誕生日祝いをよしとしないから、毎年ちょっと豪華な食事だけだった。

 プレゼントなんてなかったし、ケーキを買って来てくれることもなかった。その癖、自分や兄の誕生日は盛大にお祝いするから質が悪い。思えば、母親の誕生日もお祝いしたことがなかった。なんであんなに、男ばかりを敬いたがるのかさっぱり理解できなかった。


『なあ』

『うん』

『じゃー、今度は俺を祝ってくれよ』

『えっ?』


 いちさんの突然の要求に、意味がわからなくて訊ね返してしまう。


『俺もさ、今日、誕生日なのよ。九月二十五日。三十歳の誕生日』

『嘘?』


 にわかには信じられなくて、清香の声は大きくなってしまう。


『嘘じゃねーし。信じないなら別にいいわ』

『ちょっちょっと。ごめんなさい、信じます。でも、こんなことってあるんだ……』


 誕生日が同じ人なんて、初めて会った。驚き過ぎて、若干放心している。


『ほら、歌って』

『えっ? 歌?』

『誕生日を祝うと言えば、歌しかないだろ。ほら早く』


 いちさんが、急かして来るから歌わざる得ない。何でいきなり歌? って思わなくもないけれど、今自分ができることはそれしかないので腹をくくる。

 清香は、リビングを気にしながらも「ハッピ、バースデイ」と歌い始める。いちさんは、清香の歌を黙って聞いていて時折、たばこを吸っている。


『いちさん、三十歳のお誕生日おめでとう。同じ誕生日だなんて嬉しい』


 清香は、最後まで歌い終わると祝福の言葉を述べる。


『おう。俺もさ、履歴書見た時に驚いたんだよね。だから、今日も覚えてたんだよ。お前、熱出したって聞いたからさ。まさかぼっち誕生日か? って』


 いちさんが、ちょっと笑っている。


『いちさん、笑ってるでしょ。相変わらず、運悪いやつだなって』

『よくわかったな』


 いちさんが、クスクス笑っている。清香は、酷いと口を尖らせるけれど……。


『でもさ、俺が清香の誕生日、覚えててやるからいいだろ? 多分この先ずっと、縁が切れたとしても、同じ誕生日の清香は忘れないな』


 いちさんの言葉に、深い意味なんてきっとない。だけど、それでも、清香の心のど真ん中にいちさんの言葉が突き刺さる。こんなこと言われて、嬉しくない訳がないし、さっきからずっと抑えている感情が溢れ出てきそうだ。


『うん。私も、いちさんの誕生日、忘れないと思う。ねえ、いちさん』

『なんだよ?』

『色々ありがとう。私どうやって、いちさんにお礼したらいいんだろう……』

『別に、お礼なんていらねーし。また、楽しい話を聞かせてくれれば』


 いちさんの声が、楽しそうだ。ちょっと複雑さはあるけれど、でもいちさんには感謝しかない。東京での生活に耐えられたのは、いつも話を聞いてくれたいちさんがいたからだ。


「清香ちゃーん! ケーキ切るよー」


 リビングの方から、成瀬さんの大きな声がする。


『ケーキだってよ。もう切るぞ』

『あっ待って。いちさん、お誕生日おめでとう。三十歳が、素敵な一年になりますように。また、電話待ってます!』

『ああ。清香も、もう風邪引くなよ』


 いちさんの優しい言葉が聞けたと思ったら、すぐにプツンッと切れてしまった。清香は、嬉しくて感情が高まり目頭が熱い。

 今にも涙が零れそうだったけど、グッと堪える。みんなの元に戻るなら、折角なら笑顔でいたい。


 温かなリビングの明かりが、ちょっとだけ空いている扉から漏れている。清香は、その光り輝く空間に向かって大きな声で返事をする。


「はーい! 今、行きます!」


 人生で一番幸せな誕生日を迎えた清香は、嬉しさに胸を弾ませながら、はち切れんばかりの笑顔になる。扉の中の三人が、自分を待っていてくれていることが凄く嬉しい。

 ちょっと意地悪ないちさん。自分勝手だけど憎めない星志君。マイペースだけど真剣な奏さん。そして、とても優しい理想のお兄ちゃんな成瀬さん。彼らと過ごす今を大切にしたい。

 ここアレースは、清香がずっと欲しかった自分だけの居場所になった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

☆☆☆☆☆の評価をいただけると、嬉しいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
清香が自分の居場所を見つけるまでの全33話、読ませていただきました。 各者各様の四人との交流で居場所だけでなくしっかりとした自分を持つことが出来ましたね。 いちさんには会えずじまいのままでしたので連載…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ