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陰キャな私のヒロインみたいな逆ハー生活  作者: 完菜


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30/33

030 発熱

 誕生日二日前の夜、清香はいつも通り星志君の家に夜ご飯を作りに来ていた。今日の星志君のご飯は、白滝ご飯、鮭ときのこのクリーム煮、白菜と卵のお味噌汁、サラダの四品。

 そして今日の果物は、シャインマスカットだ。清香的に奮発してしまったけれど、この前星志君が、葡萄が好きだと言っていたので買ってみた。そろそろ帰って来るかなと、時計を見ると八時過ぎていた。


 清香は、何となく体のだるさを感じて一休みしようと椅子に座る。今日は、朝起きた時から喉に違和感があって風邪っぽさを感じていた。体は強い方で、そんなに体調を崩すことがない清香は、そこまで深刻にとらえていなかった。

(疲れたのかなー。今日は早く寝よう)


 星志君が帰って来たら、今日はもう帰ろうと片づけを初めていると、玄関が開く音がして彼が帰ってきた。

 清香が「おかえりなさい」と言おうとしたら、星志君の後ろから彼女も一緒に部屋に入ってきて、言い合いをしている。


「だからさ、何で勝手に来るんだよ! 俺、今日も忙しいって言ったよな?」

「酷い……。そんな言い方しなくたっていいじゃない! ちょっと顔が見たかっただけなのに!」


 彼女は、顔を覆って泣き出してしまっている。清香は、突然のことにアワアワしてしまう。


「顔見るだけで終わらないだろ! 送ってやらないと機嫌悪くなる癖に。もう、いい加減面倒なんだけど」


 星志君が、心底うざったそうな顔で彼女を見ている。その顔を見た彼女は、さらにヒートアップしてしまった。


「前は、そんなこと言わなかったじゃない! いつも一緒にいたいって言ってくれたのに。私のこと好きだって、大切だって言ってたじゃない!」

「はぁー。そういうのがウザイって言ってんだよ。もういいよ。お前はいらない。別れよう」


 星志君が、冷めた顔をして言い放つ。彼女は、驚き、言葉を失ってしまい、部屋が一瞬静まり返る。数

 秒ののち、彼女の顔が憎しみと怒りに変わり、ツカツカと星志君の目の前に歩いて行った。


 ――――パンッ


「さいってー。あんたなんか、こっちからお断りよ! そんなんだから、グループの中で一番人気がないのよ! いらないのはあんたでしょ!」


 彼女が思いっきり、星志君の頬をひっぱたいてお返しだと酷い言葉を言い放つ。清香は、二人のやりとりを聞いていて心が張り裂けそうだった。

 清香が何もできないまま、彼女はそのままリビングを出て行き、星志君の家から飛び出して行った。それを、星志君は追かけもせずに、その場に呆然と立ち尽くしている。


 清香は、二人が言い放った「いらない」という言葉が胸に突き刺さり感情を揺さぶられる。自分の意思とは関係なく、目頭が熱くなり涙がぽたぽた流れる。

 泣いているからか、体が熱くてフラフラする。「いらない」って言葉は、実家でよく清香が言われ、体の中に塵となって降り積もっている。

 そう言われない様に、ずっとずっと頑張ってきたからその頃の気持ちが蘇ってきて辛い。


「おい。何でお前が泣くんだよ」


 星志君が、清香の存在に気付き泣いていたから驚いている。


「だって……。いらないって……」


 自分でもよくわからないが、感情が溢れ出て止められない。さすがにおかしいと思ったのか、星志君が清香の元に歩いて来た。そして。ぎゅっと抱きしめてくる。


「清香に言ってない。清香のことじゃない」


 星志君が、泣いている清香を慰めるように強く抱きしめる。清香のことじゃないって言ってくれて、それはわかっているけれど……。でも、そしたら彼女にもそんなこと言って欲しくなかった。


「じゃ、あ。か、のじょにも、言わないで……。いらない、なんて……つらいよ………」


 清香は、星志君の胸で泣きながら一生懸命言葉にする。


「……わかった」

「ちゃ、んと、あやまって」

「わかったよ……」

「やくそく、だよ……」


 そこまで言って清香は、フッと意識が遠のいてしまう。体が熱くて、立っていられなかった。


「おっおい。清香? 大丈夫か? 何か体が熱くないか? おいっ。しっかりしろ」


 星志君が、清香を抱きとめてくれたお陰で倒れることはなかった。だけど、そこから先の記憶が定かではない。


 目が覚めると、自分の部屋のベッドで寝ていた。頭にはタオルに巻かれたアイスノンがセットされ、冷たくて気持ちがいい。


「私、どうしたんだっけ?」


 状況が飲み込めずに、独り言を呟く。


「起きた? 喉乾いてない?」


 横を見ると、ヘッドホンを首にかけた奏さんがいた。床に直に座っていて、スマホをいじっていたようだ。


「奏さん? どうしてここに?」

「星志の家で、熱出して倒れたんだよ」

「熱?」


 清香は、熱と言われて思い当たる節がいくつもある。そう言われたら、喉が朝よりも痛いし、体がだるくて重い。


「さっき、熱測らせてもらったら39度もあった」

「そんなに?」


 清香は、思ったよりも高い熱で驚いて声が裏返る。


「飲み物持ってくるから、楽な格好に着替えなよ。流石に、着替えさせるのはまずいと思ったからそのままだよ」

「あっ。はい。すみません」


 清香は、自分の服を確認して確かに今日着ていた服だと確認する。着替えさせてもらっていたら、もうどんな顔していいかわからなかったので、胸を撫でおろす。


「あの……。星志君は?」


 清香は、さっきあった修羅場を思い出して心配になる。確か、星志君が倒れそうになる清香を支えてくれたはずだから。


「なんか色々焦ってたんだけど、行かなきゃいけないってどっかいった。あと、勝手に鞄あさって鍵借りたよ」

「あっ、すみません。ありがとうございます」


 清香は、横になりながらもコクリと首を倒す。奏さんは、そのまま扉を開けて部屋を出ていった。


「良かった。星志君、ちゃんと謝りに行ったんだ」


 清香は、独り言を呟きながらベッドからゆっくりと起き上がりクローゼットに着替えを取りに行く。立ち上がるとよくわかるが、熱のためか物凄く体が重い。

 こんなに熱を出したのも久しぶりで、自分が体調を崩しているのに全く気付いていなかった。下着から取り合えて、パジャマに着替える。ちょっとさっぱりして気持ちがいい。そのまま、大人しくベッドに戻ると扉をノックする音が聞こえた。


「入っていい?」

「はい。大丈夫です」


 奏さんが、スポーツドリンクのペットボトルとゼリーやヨーグルト、プリンを抱えて持って来てくれた。


「成瀬さんに連絡したら、とにかく水分補給だって。明日、朝一で帰るからって言ってた」

「あー、何か物凄く申し訳ない……」

「はい。とにかく水分。あと、食べられるなら、どれか食べたら?」


 奏さんが、ペットボトルを渡してくれたので起き上がって一口飲む。喉が渇いていたようで、続けてゴクゴクと飲み進めた。

 お腹は全く空いていなかったけれど、折角だからとゼリーをいただくことにした。


「あの、では折角なのでゼリー食べますね。頂きます」


 清香が、ゼリーの蓋を開けてスプーンですくって食べる。奏さんは、床に座ってその様子を眺めていた。


「奏さん、下から座布団でも持って来ましょうか?」

「そういうのいいから。大人しく看病されて」

「はい……」


 奏さんは、清香を見て呆れている。こんな時くらい、自分のことだけ考えろと目で訴えられる。


「ごちそうさまでした。あのっ、代金払いますので言って下さい」

「清香」


 名前を呼ばれただけなのに、奏さんの目が怖い。きっとそんなこと気にするなと言っているのだと理解する。なので「はい」と言って、もう何も言わなかった。ごそごそと布団の中に戻って横になる。


「奏さん、今日はありがとうございました。もう、後は寝ちゃうので大丈夫です」

「寝るまでいる。起きた時に何かあったら、すぐ連絡して」


 こんな風に、看病してもらったことがないから嬉しくて涙ぐんでしまう。普段はこんなに泣くことなんてないのに、体が弱っているからが感情のコントロールが上手くできない。


「何で泣く?」

「だって、奏さんが優しいこと言ってくれるから」

「子供みたいだな」


 奏さんが、微笑みながら優しく頭を撫でてくれる。それが心地よくて、目を閉じたらいつの間にか眠ってしまった。


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