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003 ハプニングは突然に

 清香の必死さが伝わったのか、男性は家の中に招き入れてくれた。建物の外観を見るだけで高級さが伺えるので、室内もさぞ立派なのだろうと恐々と足を踏み入れる。

 足元は黒いタイルで統一され、シックな照明がアクセントになり全体的にスタイリッシュなデザインになっている。玄関の入り口には、大きなシューズクロークも完備され中をチラッと覗いてみると、たくさんの靴が綺麗に並べられていた。

  

 清香は、田舎から出てきた娘なのでドラマで見るような素敵な住居を見るのは初めて。ついつい、周りをキョロキョロしながら進む。

 あまりの高級感に、床を汚してしまわないか心配になり自分が歩いて来た廊下を振り返る。大丈夫そうだとホッとしていると、声がかかった。


「ほら、こっち」


 目的の部屋に着いたのか、ドアの前で男性が手招きしている。いけないと立ち止まっていた足を動かして、男性の元に急いだ。


「ここが、リビングとダイニングとキッチン。大体の時間はここで過ごしているから。あとは、上に個室が三部屋あって、二部屋を自分の部屋として使っているくらい」


 部屋の中に足を踏み入れた清香は、自分の目に映る空間の素晴らしさに目を奪われる。リビングの天井は高く吹き抜けで、正面の壁は一面がガラス窓になっていて太陽の光が部屋中に差し込んでいる。窓の反対側には、オープン型階段があって格好いい。部屋全体に解放感があり明るい室内だった。


「うわぁー素敵なお部屋ですねー」


 清香は感動して、つい声が出てしまう。


「あんた、清香って言ったっけ?」


 聞き慣れているのか、清香の言葉は完全に無視され名前が呼ばれた。突然の呼び捨てに、ちょっとドキンッとしてしまったが平静を装いながら返事を返す。


「はい。土田清香です。あの、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 清香は、とりあえず最低限の情報を訊ねる。いちさんのメールには、住人の情報は一切書かれておらず、名前がわからないので何て呼べばいいのかわからない。


「なんだよ……あんた、知らないのかよ……」


 男性は、清香を残念そうな顔で見る。そんなこと言われたって初対面なのだから、知っているはずがないだろうと心の中でつぶやくが、そんなことを言えるはずもなく仕方ないので苦笑いで誤魔化す。


平川星志(ひらかわせいじ)だよ」


 どことなく、どうだと言わんばかりの表情だけど清香は全くわからない。


「平川様ですね。これからどうぞよろしくお願いします」


 清香は、にこりと笑顔を向けると深く頭を下げる。そして、頭を上げてもう一度、平川さんの顔をみると微妙な顔でこちらを見ている。


「あの、何か?」

「清香さ、テレビとか見ないの?」


 思ってもみない質問に頭を傾げるが、素直な回答を口にする。


「えーっと……。家にテレビが無くてですね……。実家にいた時も、ほとんど見てなくて……。テレビ見てないと何かまずいですか?」


 清香は質問の意図するところがわからずに、純粋にテレビを見てないことで何か不都合があるのだろうかと考えてしまったのだ。


「いや、いるよなーそういうやつ。でもさ、人気アイドルとかさチェックするだろ?」

「人気アイドルですか? ごめんなさい。私、歌もよくわからないです」


 平川さんは、手を頭にあてて溜息を零す。清香は、自分の何が悪かったのかさっぱりわからずに動揺してしまう。


「あの……何か失礼なことでしたら、ごめんなさい」

「いや、いいわ。呼び方は星志でいい。とりあえず、全部屋掃除機かけて、俺の部屋のベッドのリネンも綺麗なのに変えて」

「えっと……はい、かしこまりました。星志さん、触ったらいけない物とか、入ったらいけない部屋とかありますか?」

「呼び捨てでいいよ。さんとか呼ばれないから。クローゼットとかの扉は、勝手に開けないで。片づけて欲しい時はその都度言うから。部屋は、全部屋入って問題ない」

「はい……星志……くん」


 初対面の男性を、呼び捨てで呼ぶことに抵抗を感じた清香は、せめて君で呼ばせてもらう。それにはもう、何も言わなかったので了承と受け取った。

 星志君が「来て」と言うと、リビングの端っこにあるクローゼットの前に連れてきて扉をあけた。


「ここに掃除道具が入っているから、好きに使って」

「はい。かしこまりました」


 清香は、クローゼットの中を見て掃除機を探す。一番手前に立てかけてあったのですぐにわかる。見つけた掃除機は、お値段が高くて有名な吸引力が自慢のサイクロン式だった。

 もちろん清香が使うのは初めて。一体どれほどの吸引力なのだろうと、ちょっとワクワクしてしまう。


「俺は、部屋にいるからよろしく」


 星志君は、格好いいオープン階段を上って二階に行ってしまった。部屋に一人きりになった清香は、へなへなとその場に座り込む。ずっと緊張していたので、力が抜けてしまったのだ。とにかく、仕事をさせてもらえることになって良かった。

 後は、信頼してもらえるように頑張るのみだと腕をまくる。掃除機を手に取ると、コードレスタイプでテンションが上がる。これだったら、コードを気にせずに、どこでもかけられるので使い勝手が良さそうだ。

 早速、電源ボタンを押してみると「キュイイイイイイン」と言い結構大きな音が出た。掃除機のヘッドを床に付けて吸ってみる。確かに、しっかりと床に吸い付く手ごたえを感じた。


「音が大きいけど、よくゴミを吸ってくれそー」


 清香は、掃除機の使い勝手に手ごたえを感じながらどんどん掃除機をかけていく。リビング、ダイニング、キッチン、洗面所、廊下、玄関、一階を終えると次は階段に進んだ。

 足元の蹴込板が抜けているタイプのオープン型階段は、使い慣れていないのでちょっと怖い。それでも、掃除機をかけながらゆっくりと上に上っていく。


 二階につくと、星志君が言ったように三つの扉があった。清香は、一番奥の扉からノックをして開けていった。

 最初に開けた部屋は、トレーニングの為の部屋でダンベルやマットといった筋トレ用のマシンが置かれている。どれも高価そうで、傷を付けたり壊したりしないかとひやひやする。

 真ん中の部屋は、さっきとは違い何もなくガランとしている。使っていない部屋だと察しササっと掃除機をかける。本当に何もないので掃除するのも簡単で助かる。


 最後の部屋は、星志君の部屋のはずなのでノックする手に力が入る。「入って」と中から声がしたので、ゆっくりとドアを開けた。

 そこは、三部屋の中で一番広くキングサイズのベッドが部屋の真ん中に存在感を放っていた。窓のない壁には、木目調の壁面収納が一面にありそこには本やCDや雑誌などが置かれていた。


「ここが最後?」


 星志君は、本棚の前で雑誌を手に持ち立っていた。


「はい。コードレス式の掃除機なので、使いやすくていいですね」


 清香は、コードを気にすることなくどこにでも持っていけるこの掃除機がすっかり気に入っていた。自分の家でも使いたいくらいだけど、恐らく高すぎて無理。


「それは良かった。じゃー、俺は下に降りるから。リネンは、ベッドの引き出しに入っているからよろしく。汚れたほうのシーツは、洗濯機に入れといて」

「かしこまりました」


 清香は、すっかり家政婦が板についている。とりあえず、星志君がいるうちにリネンの場所を確認しておこうと、扉の横に掃除機を立てかけてベッドの方に向かいっていった。


「!っいった!!」


 清香は、床に落ちていた何かを踏んでしまい余りの痛さに体制を崩す。そこには丁度、部屋を出ようとしていた星志君が通り過ぎようとしていて、彼にもたれ込んでしまった。

 星志君は清香に巻き込まれ、二人でそのままベッドに倒れ込んでしまう。気付いた時には、星志君に清香が押し倒されたような恰好になっていた。

 清香の目の前に、格好いい男性の顔があり突然のことに動揺してしまう。


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