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陰キャな私のヒロインみたいな逆ハー生活  作者: 完菜


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024 おしゃれなブティック

 車の助手席に乗る機会がほとんどない清香は、何だかちょっと居心地が悪い。スムーズに走り始めた車は、東京のど真ん中を走っている。

 窓から見える景色は、田舎とは違って沢山のお洒落な建物が立ち並び、多くの人が歩く。隣を見ると、すました顔の奏さんがハンドルを手に車を運転している。その姿が、すごく絵になっていて格好いい。

 アレースで働き始めてからというもの、男性のかっこいいシチュレーションばかり体験していて、得ばかりしている気がする。清香の人生になかったことが、この二週間ばかりで起こり過ぎていて夢を見ているよう。


「奏さんって運転もできるんですね」

「運転くらい、誰でもできる」

「でも、私、免許持ってないですもん」

「必要なら言えばいいよ」


 奏さんは、真っ直ぐに進行方向を見ながら考える風でもなく当り前に言った。お願いしたらまた助手席に乗せてくれるということ? そんな都合がいい解釈で、怒られないだろうか……。


「また、乗せてくれるんですか?」

「清香ならいいよ」


 奏さんが、淡々と答える。清香は嬉しいけれど、どういう反応をしていいのかわからなくて、恥ずかしそうにはにかむ。


「えっと、どこに行くんですか?」

「姉の店」

「奏さんのお姉さんのお店……?」


 思いもよらぬ、奏さんのお姉さんというワードに驚く。奏さんの横顔を見ると、運転を楽しんでいるような気がして。それ以上聞くのは憚られる。

 楽しんでいるところを邪魔したら悪い。着いたらわかることだと、清香は車の外の風景を見ていた。


 車で走ること十分。どこかの駐車場に車を止めて外に出る。車で行くからには、もっと遠いのかと思っていたけれど、あっという間に着いてしまった。

 奏さんのお姉さんお店って何だろう? と清香はワクワクする。


「こっち」


 奏さんが、行く方向を指し示してくれたので彼の横を歩いて行く。奏さんが止めた駐車場が、大通りから路地を入ったところにあったので周りはとても静かだ。

 どうやら、大通りに向かって歩いているようで段々と街の雑踏が聞こえてくる。やがて、奏さんが立ち止まった場所は、大通りに面したブティックだった。ウィンドーには、高級そうな女性服が並んでいる。

 奏さんは、何も言わずにそのお店に入っていく。清香は「ここなの?」と動揺が隠せない。今日の清香は、お化粧だけは完璧だったけれど洋服はいつも着ているものだ。場違い感にもほどがあり、店の中に入るのを戸惑っていると、奏さんが出てきて「早く」と呼ばれてしまう。仕方なく渋々お店に入ると、綺麗なお姉さんが待ち構えていた。


「いらしゃい。待ってたのよ」


 お姉さんは、清香をみてにっこり笑ってくれる。その女性は、髪がロングの真っ直ぐストレートで、背が高くてスラっとした色気漂う素敵な人だった。


「こ、こんにちは」


 清香は、何て言っていいのかわからずに挨拶を返す。


「ふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫よ。奏が、お世話になったんですってね」


 お姉さんは、清香の反応に可笑しそうに笑う。その笑った顔が魅力的で、清香は見惚れてしまうほど。


「いえ、あの……えっと……。奏さん、お世話ってなんですか?」


 清香は、心当たりがなくて奏さんに助けを求めてしまう。普段しているのは、お仕事だからお礼を言われることではないし……。


「この前の曲のやつ」


 奏さんが、ボソッと言った。


「えっ? だって、あれは別に……」


 清香は、その話が出ると思ってなかったので面食らう。


「もう、二人して面白い。全然、話かみ合ってないじゃない」


 お姉さんが可笑しそうに笑ってくれるので、気分を害したわけではなさそうだと清香は安堵する。


「さっ、では早速、服を着て見ましょう。昨日、電話で言われたから、清香ちゃん似合いそうな服、見繕っておいたんだから」


 お姉さんはそう言うと、清香を引っ張って試着室の方に連れて行く。清香は、一体何事? と目が点になる。お姉さんは、奏さんとは真逆の性格のようで押しが強い。清香が断る隙を一切持たせてくれない。気が付いたら、言われるままに洋服を着替えていた。

 フェミニンなピンク色の可愛いワンピース。デニム地のショートパンツにカジュアルなトップス。袖口が、レースになっているノースリーブに黒のパンツ。どれもこれも、清香が絶対に選ばないような服ばかり。露出度が高いし、服に付いているタグを見たら桁が一桁違う。これは一体何をしているのだろうと、戦々恐々だった。

 最後の服なのか、着替えて奏さんの前に立つとお姉さんが声をかける。


「どう? 奏。好きなのあった?」

「これがいい」

「うんうん。私も、これ可愛いと思ったわ。流石、我が弟」


 清香は、二人の会話を聞いていて頭が痛くなる。だってこの服、ノースリーブで腕が丸見えだから落ち着かない。着心地は凄くいいのだけど、お値段も凄いのだ。


「あの、えっと?」


 清香は、話が見えなくて戸惑っていると、お姉さんが教えてくれる。


「もう、何も説明してないんだから。なんかね、奏がお礼にお洋服を、プレゼントしたいんだって。プレゼントなんて初だから、受け取ってやって。凄く可愛いし」


 お姉さんは、にこにこしている。「無理です」なんて言える雰囲気はない。お姉さんに、そんなこと言われたら受け取るしかないじゃないか……。それに、もちろん清香だって奏さんの気持ちは嬉しい。


「奏さん、いいんですか?」

「うん。だって、困ってるんでしょ?」


 この前、奏さんと星志君の前で話していたことを覚えていてくれたのにも驚いた。それにまさか、奏さんが協力してくれるなんて思ってなくて、気を抜いたら嬉しくて泣いてしまいそうだ。


「ありがとうございます。嬉しいです」


 清香は、感謝の気持ちを込めて笑顔を零す。そんな二人の姿に、お姉さんも満足げだ。


「おしゃれ、勉強中なんだって? ネットの情報も大切だけど、やっぱり服は着て見た方がいいわよ。他に何か困ってることある?」


 お姉さんが、気を遣って聞いてくれたので清香は思い切って訊ねてみることにした。こんな機会はそうそうないし、アドバイスを聞けるなら今しかないと思ったのだ。


「あのっ。この服はとっても嬉しいんですが……。仕事中に着る服は、どういうのがいいのか教えてもらってもいいですか?」

「ふふ。そうね、その服で家事はもったいないか……。仕事中は、普通にファストファッションで良いと思うけど? カーゴパンツとTシャツとか。動きやすいしね」

「カーゴパンツ……」


 清香がわかっていないのを察して、お姉さんは自分のスマホを持って来てくれて色々とコーディネイトを教えてくれる。それを清香は、写真に撮らせてもらって今後の参考にさせてもらおうと意気込む。

 夢中になってお姉さんと話し込んでいたら、お店のドアが開いた。


「いらっしゃいませー。あら、今度は成瀬じゃない。珍しい」


 清香は、成瀬と聞いて顔を上げお店の入り口を見た。そしたら、清香が知る成瀬さんだった。


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― 新着の感想 ―
家族公認な奏が一歩リードて感じですね。 奏の姉が慎也の寝ぼけて言った「ゆいか」さんでしょうか?
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