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002 新しいお仕事

 意味がわからずに、呆然と通話の切れたスマホを見ていると「ティコンッ」とメール音が鳴った。いちさんから? とすぐさまメールを確認する。見ると、思った通りいちさんからで、どこかの地図が添付されたメールだった。文章を読んでみると、びっくりする内容だ。


 いちさんからのメールには、自分が運営している家政婦付のテラスハウスで、雇っていた家政婦が急遽辞めなくてはいけなくなり代わりの人材を探していたと書いてある。丁度いいから清香が行けと書かれ、その変わり絶対に家主を好きになるなと、また釘を刺してある。

 月給は30万。労働時間は最高8時間。勤務時間は、家主との相談になるが自分の都合のいい時間で構わない。しかも、4世帯のテラスハウスなのだが、今は一室空室になっているからそこをタダで貸してやると記載がある。かっこ書きで、「無事に本採用された場合だけどな」ともある。とりあえず、一週間のお試しだからしっかりやれと締めくくられていた。


 最後まで読んだ清香は、月給のくだりを何度も見てしまう。月に三十万ももらえたら、今までのようにギリギリの生活ではなくなるし、将来のために貯金もできるかもしれない。

 見ていたスマホをギュッと胸に抱いて、いちさんありがとう! と心の中で呟く。この時は、お金のことしか考えておらずと、にかく良かったと胸を撫でおろした。



『おい、聞いてんのかよ? もしもし?』


 スマホ越しに、いちさんの声が聞こえ我に返る。今は、いちさんと電話していたんだった。


『いちさん、一番手前のお家のインターホン鳴らしたら男性が出て来たんだけど、すぐにドア閉められちゃった』

『はぁー? ちゃんと新しい家政婦ですって言ったのかよ?』


 いちさんにそう言われて、清香はハッとする。確かに何も説明しなかった。「田舎臭い女」と言われた衝撃が大き過ぎて、頭が真っ白になってしまったのだ。


『ごめん、言ってない……。ってか、いちさん、住んでる人に説明してくれているの?』

『何やってんだよ。不審者だと思われて当たり前だろうが。急いで新しい人見つけるから待ってくれって言ってあるから、言えばわかるだろ。証拠見せろって言われたら、俺が送ったメールを見せろ』

『わかった。もう一回、インターホン鳴らしてみる』


 清香は、さっき鳴らしたインターホンに視線を向けた。


『あと、清香が暮らす部屋だけど。前の住人が、家具はそのまま置いていったから好きに使って。鍵はポストに入っているから。暗証番号言うから覚えろよ』


 暗証番号と言われて、清香は慌ててメモを取ろうとトートバッグの中を漁った。


『5865な』


 清香は、5865とレシートの裏にメモる。


『わかった。ありがとう。ありがたく使わせでもらうね』


 電話をしながら、自然と清香は頭を下げていた。


『それと、研修期間なんだけど、三人の内の誰か一人から合鍵をもらえたら合格な。俺、こっから電話通じないから頑張れよ』


 清香が返事をしようと声を出す前には、もうすでに電話は切られた後だった。いつもいちさんは、プツンと電話を切ってしまう。でも、最後に頑張れって言ってくれたから、泣きそうになっていたけれど頑張れそうだ。

 スマホを胸に抱き、勇気を出してもう一度インターホンを鳴らした。今度は、インターホン越しに応答があった。


『また、あんたなの? なんの用? しつこくするなら警察呼ぶよ』


 警察と言う言葉に、清香は慌てふためく。何もしてないのに、警察なんて呼ばれたら困る。


『ちょ、ちょっと待って下さい。違うんです。私、いちさんから新しく派遣された家政婦です』

『はぁー? 若い女は雇わないって言ってたんだけど? あんた嘘言ってんじゃないの?』


 清香は、急いでスマホのメール画面を開きインターホンに向かって見せる。


『見て下さい。いちさんからの依頼メールです。今回は急遽だったので、私になってしまったのですが、精一杯頑張りますので働かせて下さい』


 清香は、もう必死だった。こんなに条件のいいバイトなんて絶対に自分で見つけるのなんて無理だ。住むところだってタダになったら、お金もかなり浮くしその分を勉強するための費用に充てられる。


『なんなんだよ……画面じゃ良く見えないし……。出るからちょっと待って』


 どうやら家主さんは、信用してくれたのか出て来てくれるみたいだ。さっきみたいに、問答無用で切られてしまったらどうしようかと思っていた。

 清香は、彼が出てくるまで少しでもよく見られるために身なりを整える。

 ガチャリと音がして、先ほどの格好いい男性が現れる。さっきは一瞬だったからわからなかったけれど、同年代ぐらいに感じる。それに、何となくどっかで見たことがある気がする。初対面のはずで、そんな訳ないのだけど……。


「はじめまして。土田清香と申します。いちさんのご紹介で、家政婦として働くことになりました。証拠はこれです」


 清香は、男性の顔の前にスマホをドンッと持っていった。彼が、素直にスマホに写し出されているメール内容を読んでくれる。


「ふーん。一応本当なんだ」


 男性は、まだ信じられないといった顔で清香の顔を見るも、わかってはくれたようだった。


「はい。一週間はお試しってことなんですが……。仕事内容と勤務時間はどうしたらいいですか? 明日からとか、何かご希望があれば言って下さい」


 清香は、必死に食らいつく。早く仕事を始めさせてもらって、なんとか信用してもらわなくてはいけない。信用なくして合鍵なんて渡してくれるはずがない。男性は、ちょっと考えているようだった。


「まっいいか。原さんが辞めて困っていたのは本当だし。これから彼女来るから、部屋掃除してくれると助かるんだけど、いい?」

「もちろんです! よろしくお願いします」


 清香は、前のめりになって答えたのだった。



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