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陰キャな私のヒロインみたいな逆ハー生活  作者: 完菜


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018 帰宅途中の道で

 大学のある駅から、同じ方向の電車に乗って二人で帰る。先に、涼太の降りる駅があるので途中で別れることになる。


「もう、暗いから家まで送って行こうか?」

「えっ!? まだそんな遅い時間じゃないし、明るい道だから大丈夫だよ」


 次が、涼太の降りる駅だというところまでくると、気を遣ってそう言ってくれた。でも、清香はアパートに帰ることなくそのままアレースに行きたかったので、できるだけ自然に断りをいれる。怪しまれたら最後、涼太はしつこく聞いてくるだろう。


「そうか?」

「うん」


 涼太は、心配そうな顔をしたけれど清香は笑顔で乗り切る。


「ほら、涼太が持たせてくれている、防犯ブザーも持ってるし」


 清香は、心配性の涼太から無理やり持たせられている防犯ブザーを見せる。清香が持っているトートバックに付けているのだ。大人の女性が持っていてもおかしくない、マカロン型のお洒落なチャームになっている。まさか、これをいい訳に使うことになるなんて……。


「じゃー気を付けて帰れよ」

「うん。今日は、本当にありがとう」


 電車がガタンと停車して、涼太の降りる駅に停車する。プシューと言う音と共に扉が開く。


「また、連絡する。またな」

「ばいばい」


 清香は、笑顔で手を振って電車から降りていく涼太を目で追う。駅に降りた涼太は、電車を見送ってくれるようで立ち止まっていた。

 発車メロディが鳴ると、電車の扉が閉まりゆっくりと走り出す。こちらを見ている涼太に向かって、小さく手を振ると、彼も手を振り返してくれた。走り出してしまうと、すぐに涼太の前を通り姿も見えなくなる。


 涼太には本当に申し訳ないけれど、家政婦の件がバレなくて本当に良かったと胸を撫でおろした。そして清香は、次の駅で降りるともう一度乗って来た方向の電車に乗り換えて、アレースに向かった。

 ありがたいことに、清香が暮らす駅からでもアレースの最寄り駅まで四十分くらい。ドアツードアで一時間といったところ。凄く遠いと言う訳ではないけれど、往復するとそれなりだ。

 涼太に会ってしまった清香は、彼が東京にいない間に引っ越してしまった方がよさそうだと判断する。本当は、節約のために自分だけで終わらせようと思っていたけれど、業者に頼んで素早く終わらせることに決めた。

 折角、いちさんが準備金としてお金を振り込んでくれたので、今回は甘えることにした。善は急げだと、スマホを使って引っ越し業者を検索しながら、電車の中の時間を過ごしていた。アレースの最寄り駅に着くまでには、引っ越し業者にアタリをつけられて、明日にでも見積もりをお願いできそうだ。


 最寄り駅に着いた清香は、駅前のスーパーで少しだけ食材の材料を買って星志君の家に向かう。

 星志君からは、夜ごはん大丈夫ですとメッセージを送った後に、よろしくと一言だけ返信があった。時計を見ると、二十時をちょっと過ぎた時間だった。

 アレース近辺を歩いていると、見覚えのある後ろ姿が目に入る。奏さんは、コンビニにでも行って来たのか白いビニール袋を提げて清香の前を歩いていた。


「奏さん!」


 清香が声を掛けると、奏さんが止まってくれて振り返る。


「清香」


 いつもの無表情な奏さんだ。清香は、小走りで近づいて隣を歩く。


「奏さんって、外に出ることあるんですね」

「なんだそれ」

「だって、部屋から出るイメージないですもん」


 清香は、笑いながら話をする。奏さんは、肌が白くて顔も血行がいいとは言い難い。ぱっと見、太陽に当たっているようには見えず常に不健康そうだ。


「夜は、コンビニくらいには行く」

「ふふっ。でも、やっぱり夜しか出ないんですね」


 奏さんが、日中に外に出ている想像がつかないので予想通りだったのがなんだか面白い。彼の横顔をチラッとみるも、もうしゃべってくれそうもない。

 無理に会話する必要もないだろうと、清香は黙って隣を歩く。駅からアレースまでの道は、大通りから一本横道にそれると細い路地になる。車一台が通れるくらいの道幅なので、すれ違うとなると曲道などに寄せなくてはならない。

 丁度、向こうから清香たちに向かって車が走って来ていた。清香は、車が通るから避けようとちょっとだけ奏さんの方に寄った。

 車が、清香の横を通り抜ける少し前に奏さんに腕を引かれて抱き寄せられる。奏さんの胸の位置に、清香の頭が振れ突然の至近距離に、彼の爽やかでフルーティーないい匂いが香る。清香の腰に奏さんの手があり照れくさい。清香の鼓動が、ドキドキと音を立てて煩い。

 車が通り過ぎたのを確認すると、清香は奏さんの胸から抜け出して距離をとる。


「すっ、すみません」

「危ないから、もっと端歩いて」

「はっ、はい」


 清香は、赤くなってしまった顔を見られたくなくて俯いてしまう。すると、自分が下げているエコバックが目に入り中身を思い出す。これから夕飯を作るけれど、奏さんも食べるだろうか……。動揺している自分を悟られたくなくて、無理やりに話題を上げた。


「奏さん、これから星志君に頼まれて、夕ご飯作るのですが一緒に食べますか?」

「メニューは?」


 清香は、考えていたメニューを奏さんに伝える。すると、興味を持ったようで奏さんが考えている。段々と自分の鼓動が落ち着いてくると、一緒にとは言ったけれど星志君の許可を取っていないことに気付く。


「あっ、でも、星志君にも許可取らないと駄目ですよね。アレースに住んでいる三人って、お知り合いなんですか?」

「知ってはいる」

「そうなんですね。では、ちょっと星志君に聞いて見ます」


 奏さんが、嫌がらなかったので清香は星志君にメッセージを送る。すると、すぐに返事が返って来て『もちろんOK。清香やるじゃん』と書いてある。

 やるじゃんってどういうこと? と考えなくもないが、とりあえず良かったと奏さんに伝える。


「奏さん、星志君いいですって。準備できたら呼びますね。多分、一時間くらいです」

「わかった」

「電話しますので、出て下さいね?」

「清香の電話は、ちゃんと出る」


 いつも、電話を無視しがちな奏さんが、当然のようにそう言ったのでちょっと嬉しい。清香の口が、にやけてしまうのを止められない。


「じゃあ、いつも以上に美味しくなるように作ります」


 清香は、満面の笑みを浮かべて高々と宣言した。 


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