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陰キャな私のヒロインみたいな逆ハー生活  作者: 完菜


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010 深まる謎

 星志君に頼まれた家事を片づけると、戸締りをして家を出る。鍵は、ポストに入れておくように言われたのでそのようにする。本当は、合鍵を下さいと言いたかったのだけれど……。思い切れない清香は、口にすることができなかった。

 出会って二日で合鍵下さいって言うのは、かなりハードルが高い……。とりあえず、今度会ったら言おうと後回しにしてしまった。


 意気地のない自分に呆れながら、一度103号室に戻って来た。買って来た食材を持って、奏さん宅に向かう。玄関の前に立つと、今日はインターホンに気付いてもらえるだろうか? とちょっと心配だ。

 昨日の感じからいくと、恐らく今日も何か部屋で仕事をしている気がする。清香は、気づいてくれますようにと祈りながらインターホンを押した。「ピンポーン」と鳴るが、返答がない。


「やっぱり奏さん、気づかない……」


 仕方がないと昨日と同じように、何度も鳴らす。すると、何回目かのタイミングでやっと応答があった。


「今、開ける」


 良かったと清香は、胸をなでおろす。暫く待つと、ガチャっとドアがあいた。玄関から顔を覗かせた奏さんは、起き抜けだったのかちょっと髪が跳ねている。近寄りがたい美男子だったけれど、それだけで親近感がわいてしまうので不思議だ。


「ごめん、寝てた」

「いえっ。こちらこそ、寝ているところ申し訳ありません」

「入って」


 奏さんが招き入れてくれたので、清香は素直に室内に入る。部屋の中は、昨日と変わらずに生活感が感じられず寒々しい。成瀬さんの部屋と真逆で、なんだかおかしな気分だった。

 奏さんは、ダイニングテーブルに腰かけると頬杖をついて清香に訊ねる。


「何作るの?」

「和食希望だったので、お味噌汁と肉じゃがとほうれん草の胡麻和え。それとご飯っていう、定番にしてみました」

「じゃあ、早くして」

「あっ、はい」


 今日も奏さんは、無表情で言葉が淡々としている。怒っている訳じゃないみたいだけど、何となく冷たさを感じてしまう。昨日の笑顔が、見られるように頑張ろうとさっそく動き出す。

 清香は買って来た食材を、作業台に出す。奏さんの家には、お米が無かったのでとりあえず3キロだけ買ってきた。食材とお米両方を持って歩いて帰るのは、流石に三キロが限界だった。できれば、自転車が欲しい。

 自分の家から乗ってこられるだろうか? と考えながら手を動かす。先にお米を研いで炊飯器にセットだけした。

 ふと、奏さんの方を見ると眠たそうな顔で清香のことを見ていた。


「何か、気になることでもありますか?」


 清香は、自分の格好を見て訝しる。何か変なものでもついていただろうか?


「いや。なんか、新鮮だなと思った」

「えっ? そうですか……」

「清香みたいな子が、ここで料理するって初めてだから」


 清香みたいな子って一体なんだ? と頭の中は疑問だらけ。地味で田舎臭いと思われているのかと不安だ。聞いてみたいけれど、奏さんとは見えない壁がある気がして気軽に訊ねられない。

 清香は、手を動かしつつもチラチラと奏さんを見るとスマホを見て盛大な溜息をついている。

(駄目だ、なんか機嫌悪い。余計なことは聞かないでおこう……)


「お待たせしました」


 清香は、できた食事をダイニングテーブルに並べる。結局、奏さんは料理をしている間中ずっと清香の行動を見ていた。

 ずっと見られていて緊張感があったが、なんとか無難に作れたと思う。その反面、今日はちゃんと食材を買いそろえてからの料理なので、味が口にあうか心配だった。


「いただきます」


 奏さんは、お箸を持つとまずは肉じゃがに手を付けた。何も言うことなく、もくもくと食べつつける。何か感想はないの? と清香は心の中で叫ぶけれど、それを強制するのは違うと思ったので大人しくキッチンに戻って後片付けを始めた。

 でもやっぱり様子が気になってしまうので、奏さんを盗み見ると、さっきまので無表情から少しだけ頬が緩んでいる。美味しそうに食べてくれているのを見て「やった」と小さくガッツポーズだ。視線を流しに戻して、嬉しさを噛み締めながら片づけを続けた。


「清香」


 奏さんに呼ばれて、清香はハッと顔を上げた。


「美味しかった」


 奏さんが、昨日と同じように嬉しそうな笑顔を零す。ずっと無表情な人が笑うと、感情がダイレクトに伝わってくるので清香の胸にときめきが襲う。自分の料理に喜んでくれることが、凄く嬉しい。


「奏さんのお口に合って良かったです。他に今日は、何か仕事ありますか?」


 清香は、濡れた手をタオルで拭きながら訊ねた。奏さんは、ちょっと考えてから口を開く。


「今日は、もう用事ないの?」

「えーっと。もしかしたら成瀬さんから連絡が来るかもしれないですけど、今のところ何も用はないですね。あっ、でも夕方にガスの開栓の立会があるんですが」

「清香、ここに住むの?」

「そうなんです。いちさんが、一部屋空いているから住んでいいって言ってくれて」

「ふーん」


 二人で話をしていると、奏さんのスマホが鳴り出した。テーブルに置いてあったスマホに一瞬視線を送るも、電話に出ることなく無言で奏さんはサイレントモードにしてしまう。清香は、そんな奏さんの一連の動作を見て疑問に思う。

(何で、電話に出らんのよ? 謎過ぎる……)


「じゃーさ。洗濯して」

「あっ。はい」


 清香の返事を聞くと、奏さんは二階に上ろうとする。清香は、思い出したことがあり奏さんを引き留める。


「奏さん、買い物してきた残りのお金、返しますね」


 バタバタと自分の財布を取りに、キッチンに戻っていると……。


「返さなくていいよ。清香が使って」

「えっ? そんな、駄目です」


 清香はびっくりして、大きな声を出してしまった。少ない金額だったけれど、そのままもらうなんて申し訳ない。それなのに、清香の意見は聞かないとばかりに、奏さんはそのまま二階に上ってしまった。


「ええー。駄目でしょう」


 清香の空しい独り言が、広いリビングに響き渡った。その後は、お金どうしようとずっと頭に抱えながら洗濯物を洗濯機に入れていた。奏さんのランドリー室も立派だったけど、やっぱりこの部屋も白で統一されている。どんだけ白が好きなのかとちょっと引いてしまう清香。

 そこに、「ピンポーン」とインターホンが鳴り響く。お客さんかな? と清香はインターホンのカメラの場所に走って行った。

 インターホンのカメラに写っているのは、目がぎょろっとしていて眼鏡をかけている男の人だった。


『はい』

『ドラマ制作会社の新道と言うものです。カナデさんはご在宅でしょうか?』

『えっと、少々お待ち下さい』


 つい、普通に出てしまったけれど、良かったのだろうかと変な動機がしてくる。電話に出ない奏さんなので、もしかしたら来客なんて以ての外なのかもしれない……。怒られるのを覚悟で、二階に上がった。


読んで頂き、ありがとうございます。

楽しんでもらえていたら嬉しいです。

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