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「天使のシャワー」効かないじゃん

優花の住む世界で

「そこ、立ち入り禁止ですよ」


そう言われてシルマが振り返ると、そこには学生らしい一人の女性が立っていた。


シルマは彼女を一目見るなりそれが優花だとわかった。

ペテルギウスが輝く夜、聖地の庭で別れた時より少しだけ背が伸びていた。

そして、顔だちもずっと大人っぽくなり落ち着いた服装をした、上品な感じの女の子になっていた。


やっと会えた。

あまりにも呆然と優花を眺めるシルマ。

その姿を不審に思いながらも、優花が近づく。


「あの、大丈夫ですか?」

そう言いながら


「優花」

そう呟いて近付くシルマ。

当然優花は不振に思い、後ずさりした。


「あなた、私を知ってるの?」

そう言いながら逃げて行こうとする優花。


「待っ」

シルマがそう言いかけた時、

床の色がいきなり変化した。


シルマが立っていたのは、白い床の広場のような場所だった。

その白い床がいきなり七色に変わり、辺りから水が噴き出した。


水の勢いはさほど強くはないけれど、たくさんの水柱があちこちで上がっている。

しかも、水柱はリズムを刻むように強弱をつけていた。


ここは、噴水の広場だったのだ。


あっという間にシルマも優花もずぶ濡れになっていた。


優花に促されるよに噴水広場から離れるシルマ。


「だから立ち入り禁止って言ったのに」

髪の毛からポタポタ水滴を垂らしながら優花が言う。


「こんなに濡れちゃって、どうしよう。着替えないし、これじゃ電車にも乗れない」

優花が独り言のように言った。


同じく頭から水がしたたり落ちているシルマが、優花を人影のない物陰に連れて行った。

そこで、


「ちょっと目をつぶってて」


シルマがそう言うと、優花にそっと魔法をかけた。

「衣類がパパっと乾く」魔法だ。


それから、天使のルクからもらった「天使のシャワー」

これを優花に振りかける。

これで優花は、かつての交流大使だったころのことを思い出す、はず。


「え、すごい、服が乾いてる。あなた、何をしたの?」

眼を開けた優花が驚いて叫んだ。


「俺だ」

優花にそう言うシルマだが、優花の眼は相変わらず「知らない人」を見る目だった。


「あの、何だかわからないけど、服乾いたみたい。

あなたがやったの?」

頷くシルマ。


「とりあえず、ありがとう。私授業があるからもう行くね。

あそこの噴水広場、30分毎に水が出るんだよ、いきなりだから濡れちゃう人多いんだ」

そう言いながら、走り去っていった。


その時、

「せっかくだから名前教えてよ、名前だけでいいから」

と聞いてきた。


「シルマ」


「珍しい名前だね。どんな字書くの?」

と言われて、

「どんな字?」

と首をかしげるシルマ。シルマの世界にはそう言う概念は存在しないのだ。


「もしかしたら、外国の人?

シルマ君、じゃあね」

そう言うと優花は、先にある建物に向かって走って行った。


その場に取り残されるシルマ。


「優花に会えたのに」


せっかく優花に会えて、「天使のシャワー」を使ったのに、

優花は自分の事が分からないらしい。


「どういうことだ」

シルマは途方に暮れいた。


ここにいられるのは、夕方までだ。

とりあえず、元気でいる優花に会うことは出来た。

これは達成だ。


しかし、やはり少しだけでいいから、優花と話がしたい。

そう思った。


しばらく周囲を歩き回った。

あちらこちらに建物が点在しており、「文学部」とか「経済学部」とか言う表示があった。


そして、敷地内のはずれに店があるのが見えた。

ちょうど小腹も減ったことだし、何か食べ物を買おう。

そう思い、

「リーソン」という看板のあるその店に入った。

そこは食料品、雑貨、書籍類、多岐にわたる商品がコンパクトに並べられていた。


こちらの世界で使える金は、かつての交流大使が置いて行って財布から拝借した。


「いつか、こっち来ることが会ったら、使っていいよ」

とその交流大使はシルマに言っていた。


「おにぎり」と書かれた三角の食べ物と、プラスチックの小瓶に入った飲料を持って、

レジに向かう。

すると、レジ付近から大きな声がした。


「あれ、スマホ電源切れちゃった。どうしよう。充電器貸してもらえますか?」

そう言っている。


「充電しても電源入らない、困ったな、今日は現金持ってないのに」

焦ったように叫ぶ声。


シルマが覗いてみると、その声の主は優花だった。


優花がレジで何か揉めている。


「でも、これもうお湯いれちゃったでしょ、返品できないんだけど。どうしますか?」

レジの定員は無表情で優花に迫っていた。


優花のはお湯をなみなみ注いだカップ麺を手に持っていた。


「あ、これ俺が払います」

そう言って、カップ麺の代金を支払うシルマ。


定員は相変わらず無表情で会計をする。

優花のカップ麺とシルマのおにぎりと飲料。それをバーコードを通して、


「680円、レジ袋、いりますか?」

と続けた。


レジ袋、なんだそれ。

知らない用語が出てきたら自動的に変換する魔法を使っているが、変換が必要な言葉が多すぎる。

とてもさばききれない。


「レジ袋はいりません」

優花が代わりに答えた。


レシートと品物を受け取ると、優花が手招きをした。

その店の隅にある、イートインのコーナーだ。


二人で座ると、

「ありがとう、助かっちゃった。

もうお腹すいちゃって、先にお湯入れちゃったんだよ。そうしたらスマホの不具合。

無銭飲食で突き出されるところだったよ」

先ほどのカップ麺をすすりながら優花が言った。


優花のシルマを見る目は相変わらず、「知らない人」を見る目で、

「天使のシャワー」は未だに効力を発揮していないようだ。


シルマも買ったばかりのおにぎりを食べてみる。

しかし、外装フィルムをはがして、海苔をまく?なんだこの複雑な工程は。


手間取っていると、見かねた優花が代わりにやってくれた。

海苔がパリッとした昆布のおにぎりだ。


それを食べながら、海苔に包まれた白いご飯を眺めるシルマ。


優花は、白いご飯が美味しく食べられるよになりたい。

そう言っていたっけ。


横を見ると優花が、うまそうにカップ麺をすすっている。


「メシが旨いって思えるようになったんだな」


シルマが優花をちらちら眺めていると、


「ここで会うなんて偶然だね。

シルマ君だっけ。留学生なんだよね」

そう言う優花。


すると思いついたようにシルマが、

「そうだよ、俺はファンワールドからの留学生だ。今日の夕方には国に帰る。

それまで、俺と付き合ってくれないか?」


今、このチャンスを逃したら、もう優花には会えないかもしれない、

シルマは咄嗟に思いついた提案をした。


「そうなんだ、夕方帰っちゃうんだ。それまで暇なの?

じゃ、仕方ないな、付き合うよ」

と優花。


こうして、シルマと優花、久しぶりの二人の時間が始まったのだった。














夕方まで、優花と過ごせるシルマ。

天使のシャワーは効力を発揮しないままなのかな。

応援していただけると感激します。

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