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お手柄犬

作者: 梅野飴

 犬は、今朝も六時にパチリと目が覚めた。

 昨晩は大変な騒ぎで、犬の主人は各局のカメラに向かって何度も同じ応対をする羽目になった。犬はそんな主人を見て「そんなことよりそろそろゴハンが食べたい」などと思っていた。その日はいつも貰える歯磨き骨よりも上等な乾燥肉をたっぷりと貰っていたが、だからといって犬の「ゴハンが食べたい」という思いには、なんの関係もないことだった。

 ベッドに前肢を乗っけて、ねぼすけの主人に散歩をせがむ。とかく散歩に行く。犬にとってはそれに勝るものは他になかった。強いていうならゴハンを食べるくらいのものだった。

 外に出ると、隣の爺にも、斜向かいの婆にも声を掛けられた。主人はテレビカメラに向けたそれとほぼ変わらぬ言葉を繰り返していた。犬はそんなことより、先にある電柱に小便を引っ掛けたかった。今朝は妙に声をかけられて、そのたび散歩が中断させられ、大変に煩わしい思いをした。しかし、道ゆく人たちがおやつを沢山くれたので犬はそれが嬉しかった。

 同時刻、一人の少女が隣町の病院のベッドで目を覚ました。目にクマを拵えた母親が、その顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら少女に抱きついて何度も頭を撫でた。その吉報はマスコミによって瞬く間に日本中に広がり、また、SNSによって世界中へと拡散された。

 その日のうちに、電子の波に乗って地球の裏側まで顔写真がばらまかれたお手柄犬は、そんなことよりも、先ほど見つけたこのフェイバリットな木の枝をどうにか咥えたまま家まで帰ることはできないものか、と苦心するばかり。それが今の全てだった。

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