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DGエンジェルズ あなたは、天国を目指せますか? ー地獄から脱獄した咎人と戦う魔法少女の生を追い求めるための戦いー  作者: 瀬名川匠
四章 バイバイ、ありがとう、さようなら! コンセクレーション・レインボー!!

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第七話 カラダ、与えられる時

 朝日に照らされる住宅街、つい先ほどまでの騒ぎにより殆どの人間が逃げ出し、警察があちらこちらを捜査している中、一人の少女が堂々と歩いて行く。


「まったく、あの子たちったら、私はそう簡単に追えないのに……」


 と言うよりも歩くしかなかった少女。リリ。彼女は、トガニンとの戦いが始まる直前まで、ライクやホコリとともにビルの屋上に居た。

 だが、ララが帰ってきて、エンジェルとなり戦いに赴く姿を確認した後そこから降りたのだ。

 ララが帰ってくることはわかっていた、そしてその勝ち筋も。リリは、ソレを確認すると彼女たちがいるであろうトガニンがいた場所に向けて歩を進めたのだ。

 全く、自由に空を飛べる人間と言うのはうらやましいものだ。何物にも配慮することなく、何物にもさえぎられることなく飛べる空。果たしてどれだけ気持ちのいい者なのだろうか。

 いや、彼女たちは幽霊。人間ではない。ソレに聞くところによると、幽霊は人間の持っているはずの五感と言う物が一切ないため、空を飛ぶときの爽快感なんて物は感じることができないであろう。

 とにもかくにも、リリはライクたちを出迎えるべく、朝焼けに包まれた町の、大きな迷路のようになった住宅街を歩く。

 その時だった。


「ッ!」


 後ろから、気配を感じた。

 彼女がいる場所は、住宅街の中にある緩い勾配の坂の途中。下っている自分からすれば、上の方から何者かの気配を感じるのだ。

 この気配、人間じゃない。まさか、トガニン。だとすれば厄介だ。自分は、エンジェルであるライクたちと違いトガニンに対抗する手段をまだ持ち合わせていない。今ここでトガニンに襲われでもしたら―――。

 とにかく、正体不明の気配を背中に背負ったまま歩くのには、まだ世界は明るすぎた。リリは、一度深呼吸をすると、手に力を入れる。そして―――。


「生徒会、長ぉぉぉぉ!!!???」

「え?」


 素っ頓狂な叫び声を上げながら、一人の少女が自分の目の前を転がっていき、その地域に設置されている燃えるゴミの収集場所に大きな音を立てて突っ込んでいった。リリは、手に宿した力を戻すと、その少女に近づく。

 今の声、まさか。いや、しかしだとしたらおかしなところが山のようにある。そのおかしなところ、上げればきりがないのだが、しかし最もおかしなところとはなんなのかと問われれば、こう答えるしかない。

 ≪福宿来求≫が、あんな変な声を上げながら転がり落ちていくなんて、断じてあり得ないという事だ。

 こんな、何でもない坂で、彼女が転ぶだろうか。ありえない。

 何かが、おかしい。そう感じながら、彼女は急いでライクと思われる少女の下に行く。

 すると、そこにはやはりいた自分が知っている福宿来求の姿。桃色の髪をして、祖父が理事長をしている学校指定の服を着た、自分のよく知っている女性の姿。しかし―――。


「こ、この身体扱いが難しすぎます……」


 全然違った、見知らぬ女性の口調。いや違う。自分は知っているのだ。彼女の、その口調。少しだけだが、しかし、その言葉を発しそうな人間を知っているではないか。

 その証拠に、彼女の≪魂≫からは―――。

 とにかく、だ。リリはその女性に手を伸ばしながら言った。


「大丈夫? ララちゃん?」

「あ、えっと……はい」


 と、ライクの格好をした女性、ララは、その手を取るとゆっくりと立ち上がった。ところが。


「う、うわ、うわわわ!」


 と、立ったすぐそばからバランスを崩して再びごみ集積場の上に倒れこんでしまった。色々とツッコミどころ満載の状態なのだが、果たしてどこから聞けばいいのだろうか。そう、リリが考えていた時だった。


“や、やっぱり私にはまだ、ライクさんの身体は早かったかもしれません……”


 と言いながら、ライクの身体からララの霊体が昇ってきたのだ。一方のライクの身体の方は、その背格好はそのままに、目だけが生気を失った、まるで死者のような姿となってそこに鎮座していた。はたから見れば、成人男性がよくそういった嗜好のために楽しむ人形を捨てているように見える。

 いや、それはともかく、だ。


「一体どういうことなの? ララちゃん?」

“うぅ……驚かせてすみません……”

「別に驚いてなんてないわ。ただ、説明して。このライクそっくりの人形は何? どうして貴方がそこから出てきたの? 生き返れるのって、トガニンを百八体地獄に送り返してからじゃなかったの?」

“えっと、それはですね……”


 と矢継ぎ早に飛んでくる質問に、まずはどれから答えるべきかと苦悩するララの下に、二人の霊体と三体の天使が現れた。


“あっちゃぁ、やっぱりララにはまだアタシのカラダを操るのは無理だったか”

“まぁ、当然の事ね。貴方の身体能力、普通の人間の何倍もあるから”

『それに、このカラダは私たち天使と違って感覚もまるでない』

『慣れるまで、時間がかかるかもしれましぇんね』

「……はぁ」


 リリは、少しだけ罪悪感を感じれてしまった自分を恥じる。

 自分は先ほどララに対して、矢継ぎ早にあらゆる質問を仕掛けた。だが、今思えばそれがいかに酷な事であったのか、こうして幽霊と天使の会話を聞いていると分かると言う物だ。

 次々に耳に入る情報の整理をするために頭を巡らせていると、ホコリが言った。


“それじゃ、次は私ね”


 と。そして、ホコリは、ララと変わるようにライクのカラダにその霊体を密着させた。その瞬間である。

 スゥゥ……という音が聞こえるかのように静かに、そしてさりげなく彼女の霊体はライクのカラダに吸い寄せられ、そしてスクッ、と起き上がり、手を二度、三度と握った。


「手足は動かせる。でも、握りしめた感覚はやっぱりないわね。運動能力は……」


 と言いながら、ホコリはその場で小さなジャンプを繰り返す。それもまた二度三度と行ってから呟いた。


「なるほどね、足の感覚がないから地面までの距離感が図れないわね……これは歩くのも苦労しそうだわ」

“で、ですよねホコリン先輩!”

「まぁ、それも最初の内でしょうけどね……」


 と、言いながらホコリはその長い桃色の髪を、クシで整えるようにスッと指ででなびかせた。


「長い髪もいいわね」

“でしょでしょ? ホコリンも、生き返ったら一つ長髪にしてみるのもどう?”

「でも、戦うのに向いてない」

“それとこれとは話が別”


 なんて、幽霊と天使たちは自分とは全く違う世界観の話をし始めて蚊帳の外に置かれている感があるリリ。もういっそのことこのままどこかに身をくらませた方がいいのではないだろうかと思うほどに話について行けてなかった。


『あ、あの』

「?」


 と、その時である。天使の一人、と思わしき女の子がリリに話しかけてきたのは。


『初めまして、ララお姉さんのお友達さんですよね。私、天使になったカナ、です……あの、見えてますか?』

「えぇ、見えてるわよ、ばっちりとね」


 と、リリは優しい微笑みを浮かべながらその目線をかなに合わせて言った。


「そう、貴方があの河川敷の被害者の子供のかなちゃんね」

『はい。よろしくお願いします』


 と言いながら、カナは深々とお辞儀をした。なんとも礼儀正しい女の子だ。他の四人、いやララ以外とは大違いの礼儀の良さだ。

 とにかく、この子だったらこの状況の説明ができるかもしれない。そう考えたリリは言う。


「それで、あのライクの形をした人形は何なの?」

『人形、ですか。閻魔大王さんは、限りなく人間に近づけたって、言ってますけど……』

「限りなく人間に近づけた?」


 それはつまり、あの体は人間ではないと、そう言う事なのか。果たして、リリの考えは当たっていた。


『はい、あの身体、いえ……≪殻堕≫はただの肉体じゃないんです。霊体をその内部にとどませるだけの……肉の人形、で、いいんですよね? ダーツェ先輩?』

『! そ、そうでしゅ! この殻堕は、いわば疑似的に人間のカラダを再構成したもので……』


 と、ダーツェは心なしか目を輝かせて言う。恐らく、カナに先輩呼ばわりされたことがとても嬉しかったのだろう。

 なんだか、少しだけダーツェが不憫に思えて仕方がないのだが、気のせいにしておこう。

 とにもかくにも、彼女は語り始める。今ホコリが中に入っているライクの身体。いや、≪殻堕≫の事について。

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