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DGエンジェルズ あなたは、天国を目指せますか? ー地獄から脱獄した咎人と戦う魔法少女の生を追い求めるための戦いー  作者: 瀬名川匠
二章 死の恐怖! ジャッジカル・ハンキング!!

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第九話 また一人、被害者が

 その学生は、よく言えば自由人。悪く言えば、不良だった。

 学校指定の真っ黒な制服に身を包んでいるとはいえ、前のボタンは全部開け、中は学校指定のカッターシャツではなく、血のように真っ赤なTシャツに身を包んだ男子高校生。

 ズボンのすそは一切直さず、引きずっているためボロボロで、現代日本には全く似合わないような前時代的な髪型をしているその姿には、どこかノスタルジーすらも感じてしまう。

 その日は平日。先日の騒ぎがあったために神江女子高等学校は休校となっているが、小学校や中学校はともかく、ほかの高校ではいつも通りの授業が開かれていた。いや、それを当然としていいのだろうか。

 そもそも、現実的に考えれば、まだ連続殺人鬼の行方が分かっていないのにもかかわらず、普通に授業をしている他の学校の方がおかしいような気もする。しかし、一日一日の学業の遅れが将来に影響をする。歪んだ教育競争の犠牲の果て、子供たちは犠牲になる。たとえ、その命を危険にさらすことになっても。

 しかし、彼はそんな授業もほっぽりだして、一人大きな河川を歩いていた。ある意味で、まともな思考を持っているかもしれない。

 その両脇に大きな歩道で舗装された道がある大きな川。彼は、なにか辛いことがあったらいつもこの川に来てたそがれていた。

 昨日もひどいものだった。たまの気まぐれで学校に行ってみたはいい物の、やれその格好はなんだとか、やれ授業は真面目に受けろだとか、そんなんじゃ将来ろくな大人にならないぞとか。そんな綺麗ごとばかりを言ってくる。

 冗談じゃない。俺は、そんな綺麗ごとばかりを教えてくるようなところにいちゃいけない人間なのだ。

 分かっているのだ自分の頭の悪さも。素行の悪さも。そして、自分自身の行動が模範的な物じゃないことも皆知っている。でも、それでも彼はそれを直そうとはしなかった。

 だって、自分の心を変えることなんて、できないのだから。

 そんな彼に対し、父親も毎日のように怒鳴り散らして、そんなことでいい会社に就職できるのか、そんな調子で卒業なんてできっこないとなんとかして他人の心を操ろうとしてくる。

 そんな大人に反発した結果、こうなったというのに。

 もう自分は後戻りできない。今更勉強しなおしたところで、同級生たちに追いつくことなんてできるわけがない。かといって自分のようなはずれ物を受け入れてくれるような私塾の様な特別な場所に巡り合えるわけがない。

 自分が、これからどんな大人になるのか、そんな想像すらもできない。一度反発した人間が元の真人間になんて、戻れるはずがない。

 否。

 それは、彼の勘違いだ。

 人はいつだってやり直すことができる、生きてさえいれば、どうとだって人生を変えることができる。たとえ、一度道から外れてもいい。その別の道で輝ける方法を見つければいいだけなのだから。

 一体、自分はどうすればいいのか。そう考えていた時だ。

 突然自分の中学生時代の知り合いから連絡をもらった。


「今日は学校があるんじゃないのか」


 何て携帯越しに言うと、彼女は


『それ、あんたもでしょ』


 と返してくる。ごもっともの反応だ。

 自分と彼女は、いわゆる不良仲間だった。

 中学の時はよく一緒に学校をズル休みして、一緒にゲームセンター巡りをしたりと遊んでいた物だ。

 そんな彼女の事だから、きっと今も学校をズル休みしているんだろうなと思った彼はしかし、意外な話を聞いた。


『そんなことしないよ。この学校、不良だった私のことを受け入れてくれて、それでいい。それが私らしいって言ってくれたの』


 今日は、色々あって学校自体休校になっているけど。と言っていた彼女。

 なんともうらやましい限りだ。そんな学校がこの世に存在しているなんて。そんな、不良といわれる人間を受け入れてくれる学校があるなんて、想像もしたことがなかった。

 聞くに、その学校は女子校、つまり女性しか入ることのできない学校だったらしい。なるほど、学校の事なんて何も調べずに適当に高校を選んだ、男の自分には全く知る由もなかった学校だ。

 その学校で彼女は受け入れられた。不良である自分。そのままの自分が、自分らしいといえる自分を保つことが何よりも大切なのだと。

 そんな夢みたいな学校があるなんて、自分も女だったらなんて、性別を理由にするという考えてはならないことを妄想していたときに彼女の言った言葉に、彼は、希望を見た。

 そうか、それなら自分だってもう一度やり直せるかもしれない。もう一度、未来を見れるかもしれない。曖昧だったやりたいことが、夢が、見つかるかもしれない。そう思えるくらいに。

 彼は、生きる希望を見つけた気がした。


「鳴、よかったらその……」


 そう、彼が言おうとした時だった。

 突然背後から殴られたのは。


「ッ!」


 頭に思い激痛が走った。まるで、鉄バットででどつかれたような痛みだ。いや、比喩じゃない。自分は間違いなくバットの様な棒状のもので殴られたのだ。


「痛ってぇ……」


 頭に触れた彼。手をみると、そこには血がたっぷりと付着していた。これが、自分の血なのか、場違いな考えをしていた時だった。


「なッ!」


 突如として、その身体が持ち上げられた。まるで、赤子が大人に拾い上げられるかのように簡単に。彼の身体は宙を舞い、そして―――。


「ゴブッ!?」


 川の中心部へと着水した。

 かなりの勢いで川の中に入ったためか、その身体がどんどんと沈み始める。

 痛い。痛い。痛い。苦しい。

 頭を殴られたときにできた傷から、川の水が入り込んで自身の身体から血を抜きだそうとしているのだ。

 それだけじゃない。自分はあまりも突然川の中の放り込まれたことによって空気を吸う間もなかった。故に、今自分の肺の中にはほとんど空気がたまっていない状態だ。

 このままだと最悪、いや間違いなく自分は溺死してしまう。はやく、水面に上がらなければ。彼は、太陽が輝く空に向けて身体を翻した。その時だった。


「ッ!?」


 突如として、黒い影が自分の上に乗っかったのだ。

 重い。水の中であるというのに、全然浮遊力のない身体に困惑しながら、彼は沈む。

 早くこの身体をどかさないと、抵抗しないと、そう考え、手を必死に動かす。でも、その影は一切動くことなく彼の身体を沈めていくだけ。


「ゴバッ!」


 その内、限界が来た彼の肺からごくわずかの二酸化炭素を含んだ空気が漏れだした。まずい、もう息が持たない。

 早く、空気を、吸わないと。

 死。

 その、一文字が彼の頭をかすめた。

 嫌だ、死にたくない。せっかく、自分の人生をやり直せるかもしれない場所を見つけたのに。

 こんな形で死ぬなんて。

 こんなことなら、もっと自由に、生きとけば―――。

 そうか、俺は、ただ誰かに縛られたくなかった。のか。

 自由になりたいんじゃない。誰かに、反抗、したかった。だけ、な、のか。

 そう、か。

 その考えを最後に、彼の頭は思考を止め、目が閉じられる。

 その眼が開かれることは二度となかった。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……カイ……」


 それから、一時間が経った頃だろうか。彼の中学時代の友達が、電話をしたであろう場所から見て川下にある橋にたどり着いた。

 彼女、鳴は男友達の姿を探す。いったい彼に何があったのだろうかと、考えながら。

 先ほど電話をかけた時、確かに電話の向こう、携帯のすぐそば何かを殴る音がした。とても硬いもので、柔らかい物を殴りつけた、そんな音が。その後に聞こえた、倒れる音。なんだか、妙な胸騒ぎをして、彼女はこの河川にまでたどり着いた。

 彼は、この河川敷が好きだった。なにか落ち込むようなこと、気がめいることがあったらいつもここに来てて、それを私が見つけて、それは中学校三年間ずっと変わらなかった。

 だから、きっと彼はこの辺にいるはず。分かるのだ。彼と一緒に連れ添った自分だったら。彼の行動が、すべて把握できる。

 電話越しにだって、彼が今の生き方、将来の生き方について悩んでいることを察した。だから、彼女自身が変わることができた件の場所を紹介しようとしたのだ。

 自分自身を変えてくれた、あの場所なら。彼女たちなら、きっと彼も変えてくれるはず。彼の未来を切り開いてくれるはずだと。そう信じて。

 自分たちはまだ高校一年生。未来の事なんてまだなにもわからなかった。そんな自分に、未来を教えてくれたあの場所なら。


「え?」


 けど、彼女の願いはかなうことはない。見つけてしまったからだ。フッ、と何気ない気持ちで見た川上から流れてくるその影を。

 彼女の見知った髪型の、制服を着た人間が、≪顔を水につけたまま≫流れてくるのを。


「ッ……」


 息をのんだ彼女は、その場に座り込むと、立ち上がることができなかった。たまたま通りすがった女性に声をかけられるまで、そしてその女性が川に浮かぶ≪彼≫の姿を見つけて叫び声をあげるまで、彼女はただただ虚ろな目で彼のことを見ているだけだ。


“ゴメンな、鳴……”


 彼女の後ろにいる男の言葉が、届くことはもうなかった。


「イヤァァァァァァ!!!!!」

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