第三話 とびっきり面白い物語は?
神江女子高等学校地下深く。そこには、神江任三郎、そして神江吏理の二人の姿があった。二人は、やはり真っ暗闇の世界の中で語り合っている
「アイドルユニットか……」
「えぇ、私も驚きました。けど……」
と言うと、リリはクスリと笑って妖艶な笑みとともに言う。
「あのライクの本性からしてみれば、有り得そうな話……でしたね。だからこそ不良グループのリーダーが務まった、と言ってもいいですし」
予想外。いや違う。予想の範囲内の話だったのだ。ライクの言い出したことは。いや、それも違うか。
正しくは、ライクの発想に限りなんてない。例えそれがどれだけ滑稽だと言われても、たとえどれだけ無謀でも、たとえどれだけ常人に理解できないことであったとしても、彼女は必ず何らかの行動を起こす。
それが、福宿来求と言う人間なのだから。だからこそ、自分は彼女の事が好きなのだ。精神的にも、そして身体的にも。恐らく、彼女ほど刺激的な人生を送っている人間なんていない。そう断言できるし、これからも現れない。
決して手放すには惜しい存在。むしろコレは彼女にとって、いや彼女たちにとって好都合と言ってもいいのかもしれない。民衆が求める※※を狙っている彼らからしてみれば。
「確かにな。いいだろう許可する」
「ありがとうございます。おじいさま……」
学校内の生徒が行うことに関しては全て任三郎の許可が必要となって来る。任三郎は、リリに対して三人のアイドルユニット結成に許可を出した。
「フム、念の為にわしの方から圧力をかけておいた方がいいか?」
のとついでに、芸能界に圧力をかけて彼女たちを最初からトップアイドルに仕掛ける手もある、そうリリに進言した任三郎であったが、リリは首を横に振って言う。
「いえ、ライクから言われましたわ。私たちは、実力でのし上がって見せるって」
「フッ面白い」
実力、か。それもまた結構。
女性として最大の武器を喪った人間が、いったいどうやって芸能界と言う魑魅魍魎跋扈する世界をなんのツテもなく歩んでいくのか、見ものである。
「それにしても、まさか死ぬことによって種が排出するなんて、思っても見ませんでしたわ」
と、次の話は自分たちの、ある意味で仕事と言ってもいい内容の事だった。リリの言葉を受けた任三郎は言う。
「確かに……これは今後の懸念事項になるな」
「えぇ……けど」
「なんだ?」
任三郎の言葉を受けたリリは、何か思うところがあったようで、少しだけ考えるそぶりを見せる。
この時、彼女の頭に巡っていたのはララの事だ。確かに≪種≫はライクたちの様子から言って死ぬことによって排出されるのかもしれない。でも、もしそうだとしたら、どうしてララからは―――。
「いえ、まだ確定ではないので……」
リリはそう言うとまた別の話題に話を移行させる。
「ところで、不良グループが解散したことによる影響は?」
「まぁ、微々たるところ、と言ったところだな。だがそのリーダーとナンバーツーを失ったのは大きい」
「そうですか……」
不良グループの解散。このライクの宣言によりそこに所属していた人間からも≪種≫の気配が薄まった。きっと不良グループイコール≪アレ≫と言うのが彼女たちの中に根付いていたせいなのだろう。結果、不良グループに所属していた人間たちもまた、ライクやホコリのように簡単にあの場所に誘う事ができなくなってしまった。
まぁ、任三郎は他にも数々の事業を展開している投資家でもある。例の事業の一番手、二番手を失ったところでそんなに痛手でもないのかもしれない。
表面的には、であるが。
「果たして辿り着けると思うか? あの子らが、我々の下に」
「……さぁ、それはどうかと。けど、あの子≪たち≫も人ならざる力を持ってしまった。それを考えると、あるいは……」
来るのかもしない。自分たちの所に。将来的には、でも決して届くことがないはずのこの地下深くに来るかもしれない。そう、リリが呟くと、任三郎は少し考え気味に言う。
「……そういえば、まだお前に見せていないものがあったな」
「見せていないモノ、ですか?」
と言うと、任三郎は上空にモニターのようなものを出現させる。その、先にいた物は―――。
「……これ、特撮番組、じゃないですね」
「うむ。ワシの圧力で公にはなっていないが、現実に起こっていることだ」
この町よりも、ずっと、ずっと遠くの町で実際に起こっている戦い。一体のロボットと、そして自分たちの知らない怪物による戦いだった。
その地域がかなりの田舎であるという事もあって報道規制を行うのは容易の事だった。故に、この情報が世間一般、メディアにも知れ渡ることはない。だが、問題はそこではない。
「この騒動、私たちに関係が?」
「……ないと言えばない。だが、あの女の近くで起こったことだ」
「!?」
その一瞬、リリの顔つきが変わった。あの女、そう自分たちのもう一人の仲間である女性のすぐ近くで、こんな奇怪なる事件が発生しているのだ。ソレに、この間あの女が見せたあの映像。
「なるほど、となると彼女、いえ、彼らにも関係してると」
「その通り」
と言うと、任三郎はそのモニターを消すと言った。
「あの娘がワシらの前に姿を表すのはごく稀のこと。次にその姿を見せた時、問いただすべきだろう。あの、ロボットと、そしてここに写っているモノたちの正体を」
「その権力で知れないのですが?」
「全く……おそらく、個人で作り上げた組織……その財力は、権力に縛られないところで作り上げられたモノ……このワシですら感知できない場所で……な」
そんな組織が、この世界にあると言うのか。本当に、リリは驚愕した。いや違う。面白がっていたのかもしれない。その、表情からしてみるに。
「ふふ、面白いじゃないですか……」
そう言いながらリリが出したのは、ライク、ホコリ、そしてララの映像。
「私たちに反旗を翻した女の子たち」
次に見せたのは、先日≪あの女≫が見せた高校生たちの映像。
「あのヒトが引き起こした物語」
次に、任三郎を見たリリは呟く。
「あの映像に映る謎のロボット」
そして―――。
「そして、私達に敵対する小娘たち」
様々な勢力入り乱れるこの世界。ライクといいホコリといいララといい、そしてエンジェルと言う存在と言い、全くと言っていいほどに自分達の想像を超えて来る者たちがこの世界に集まっている。
果たして、その中で自分たちのいる場所に来るものは誰なのか。任三郎は、ある種リリと同じような思考を持っていた。そう、楽しんでいたのだ、この状況に、喜びを覚えているのだ。平凡な生活に活力を見出せる状況に、願うのはただ一つ。
「どれも、面白い物語になりそうですわね……」
「あぁ、それも、とびっきりにな……フフフ、フハハハハハハ!!!!」
この、奇怪なる世界をさらに奇怪にさせる存在、ただ一つ。




