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作者: 奥野鷹弘
掲載日:2022/03/26

私の名前は【美園|みその】。


私はいま午前中の就業が終わり、昼休憩に入るところ。

しかし、お昼も肩の力を抜いてはいけない。

なぜなら私は、昼には彼の動向を知り尽くさなければならないからだーー。

  彼はあの人を見つめていた。

  私は知らなかった。彼はただ純粋に人が好きなだけであって、あの人に好意を寄せているなんて知らなかった。

  だから私は思わず吐き気をもしたーー。


  よく分からない。


  胸の内からというか、お腹のそこから異物が出てきそうで、なんなら焼き付いてしまった光景を思い出すだけで形になりそうだ。


  彼は言っていた。

  「あの人は()()気が合うだけだ」と。

  だったら…なぜ?

  なぜ、あの人にそんな優しい目線を送る?

  私は不思議でたまらない。


  彼は食事をしながらあの人を見つめていた。あの人は私とも知り合いであるが、あの人は確かに私よりスレンダーで、スタイルのよさも、頭の回転の速さもピカイチだ。だからとはいえ、彼があの人を見つめながら食事をするのが許せない。

  ……それより、なぜ私は、彼の好意を見抜けたのだろう?

  彼が私に見せる姿?声のトーン?信頼度?マスクが動く頻度?メガネを外される回数?

  考えてみれば、彼はあの人に出逢ってから何かしら行動面が変わったのを思い出した。彼は照れ臭そうに「筋トレを始めたんだ」とか「ここのブランドは『布団』が、オススメなんだ」とか……よく考えてみれば何か下心が丸見えで寒気がする。もしそうならば、彼とあの人はあんなことやこんなことをして、私が憂鬱な朝を迎えて彼に会った時にはツヤツヤな肌を見せられてしまうのだろうか。食事の時にしか見せないその口先で愛を呟き、愛を確かめ、愛を交互に分かち合い、鳥の声で目覚めて出社するのだろうか。彼の食べるブレスケアを、あの人は同じ味を体験してしまうのだろうか…………。




  気付けば、そんな創造をしていた私はお手洗いにいた。


  私は便座にすわり、上の空である。



  そう、私の過去は、あなたの想像通りの過去である。

  だからとはいえ、決して悪かったとは思わない。むしろ、この人生だったから今の私がある。

  とはいえ、この心情に口がふさがらない。


  違う部署の子が、昨日の合コンについて語りながら手を洗っているのが聴こえる。水の勢いに負けない声で楽しい会話をしている。そんな話、ここでするじゃないよ!

  誰か遠くから聞こえる蛇口のように、この想いをキツく絞めて。まだ来ぬ春の水の凍結を心配して、誰か私の蛇口を絞めて。



  いつもマスク越しだから、判らなかった。

  私はいつも人の感情を読むときには、その人の口角を見て汲み取っていた。この人は考えているとか悦んでいるとか…。

  しかしこのご時世になってからマスク越しで感情を読み取るのが難しく、はたまた声のトーンで理解しようとしつつも、なにせマスク越しなため間違いが結構ある。つい最近の出来事でいうと、社長が怒っていると想い頭を下げて書類を見直して居たところ、本当はいい出来物でジョークで褒め称えてくれいたことがあった。私的にはボソボソと聴こえるし、なんなら社会の場なのでそんなのはないと思っていた。ブレイクタイム時に社長とコーヒー飲んで始めて知った。それは、頑張りきった私への精一杯のおふざけだったらしい。

  いや、私……いきなりふざけられても気付かないタイプですから!!



  彼の異変に気付いたのはもう少し前だったかもしれない。

  彼がご飯を食べるとき、さらに言うならば、彼はあの人が隣にいてご飯を食べるとき、よく食事を口から落とす。

  私から言わせれば、好意ある人を意識し過ぎるあまり身体が思うように使えないのだ。そして普段なら開けられる口もおちょぼ口になり、箸先からポロポロと食材か落ちていく。2口3口食べた頃にはティッシュで唇を拭き、また始める。そう、私は恋したことがあるから何となく解る。

  さらにいえば彼が彼と話しているとき、くねくねと動いて落ち着きがない。あの人が誰かと喋って居るときには警察犬のようにビシッと立ち尽くし相手を見つめているのだが、ふたりの会話になると猫のようにフニャフニャになり、なにか木陰があればそこに手をイジイジさせて話をする。

  あの人に彼のコートについたゴミをとって貰うときには、口元を手の甲で隠し、相手から視線を外し取ってもらったことがある。


  変な話……ある雑談であの人から彼について『いい匂いがしましてね』と聴いたことがある。

  相手の気を引こうと柔軟剤を変えることもあるかもしれないが、彼が相手にフェラモンを出している可能性もある。



  あれ、私、いつの間にか彼を応援している??



  彼に差し上げたバレンタインも映画のチケットの代金も、似合うと勝手に選んで着せた服も……返事はないけれど私待っていたけれど、彼が幸せなら…彼が私に見せない笑顔をあの人を通して見させて貰おう!





  あれ私、私、何をしているの?


  お手洗いの便座で、私は、便座の上で立ち上がっていたーー



『コンコンコンッ!!』

「美園さーーーんっ!お身体調子悪いんですかーーー?」





「え?!彼じゃん」

「あの、美園さん。

もし宜しければ、夜にでもお茶をしながら相談に乗って貰うことって出来ませんかねーー?」

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