エリオット・イーストベルグ討伐戦
エリオット・イーストベルグ公爵は、整った男らしい顔。美しい銀の髪、綺麗な碧い瞳、鍛え抜かれた身体。仕事も教養も剣技も全て秀でた魅力的な男性である。
だから、異性に非常にモテた。
モテる事を良い事に結婚前は女性関係にだらしのないどうしようもない男性だった。
しかし、大恋愛の末、隣国の王女サリアと結婚した後は、己の行いを反省し、
良き夫となった。
可愛い双子の男の子と女の子を授かってからは、子煩悩な良き父となって、
子供達を可愛がった。
公爵としての領地経営も、有能さを発揮して、幸せの絶頂にあったのだが。
とある日の事である。
妻のサリアが、エリオットに。
「一週間ばかり、私は里帰りする。子供達を頼む。」
「え?今まで一度も里帰りをしなかったじゃないか。」
エリオットの膝の上で、遊ぶ3歳の可愛い盛りの子供達をあやしながら、疑問を口にすれば、サリアは頬を染めて。
「初恋の相手が、兄上の所へ外遊に来るのだ。だから、私も会いに行きたい。」
「初恋の相手だと???」
「マディニア王国のディオン皇太子だ。あれはイイ男だぞ。お前と同等位のな。」
ディオン皇太子、確か破天荒の勇者として、黒竜の魔王を100名近くの人数を投入して倒した英雄だ。
そいつが妻サリアの初恋の相手で、その男に会いに、嫁ぎ元の国へ帰るのだという。
内心面白くないエリオットであったが。
「ああ、行っておいで。たまには故郷に帰るのもいいであろう。子供達は連れていかないでいいのか?孫に会えれば義父上や義母上が喜ぶのではないのか?」
サリアは考え込んでいるようだった。
「いや、今回は、子供達はまだ幼い。またの機会にしよう。」
「それならば、任しておけ。この機会にゆっくりしてくるといい。」
エリオットは内心、サリアが初恋の男に会いにいくのなら、自分もちょっと位、浮気をしてもいいのではないか?
サリアは男勝りで武芸にも秀でており、輝くばかりの金髪のこの美女は、最高の女性だとエリオットは思ってはいるが、最高級の食事ばかり食べていると、飽きるのである。
たまには趣向の違った物も食べてみたい。まぁそんな感じの事を思っていた。
サリアの事は愛してはいるが、完璧な女性が妻だと疲れるのである。
自分も完璧な夫でなくてはならないのだから。
そこで、エリオットはサリアが留守中に浮気をすることにした。
相手は、リュシエール伯爵未亡人マリーネである。
この女性は男性関係が多々あり、エリオットが結婚前に大人の関係であった相手である。
他の女性達と比べて、関係を持ったとしても執着される心配もなく、浮気にはもってこいの相手だった。
二日後サリアが颯爽と馬に乗って、出かけるのを見送った後、子供達を乳母に任せて、エリオットはリュシエール伯爵家のマリーネに会いに行った。
昼間なので、他の男とかち合う事もないだろうと踏んで、門の呼び鈴を鳴らしてみれば、
使用人が出て来て、
「エリオット・イーストベルグだ。女主人のマリーネはご在宅かね?」
「これはエリオット様、随分と久しぶりで。少々お待ちください。」
顔見知りだった使用人が取り次いでくれた。
しばらくして、中に入ってよいとの許可が下りたので、
久しぶりにマリーネに会った。
マリーネは流れるような金髪の美しいグラマラスな女性で、衰えないその美貌に、
エリオットは思わず見惚れる。
「マリーネ。変わらないな。君は。」
「あら、エリオット。奥様が怖くて、私との関係を終わらせたはずなのに、何の用かしら?」
「妻は旅行中なんだ。久しぶりに君の身体を堪能したくてね。」
「あら、貴方なら大歓迎よ。最高の男ですもの。地位も顔も身体も全て…。いいわ。
さっそく楽しみましょう。」
エリオットはマリーネを引き寄せて、舌を絡める熱い口づけをする。
そのまま、マリーネの私室へ移動し、ベットで、イチャイチャを楽しむのであった。
エリオットは、翌日もマリーネの屋敷に居座り、それはもうイチャイチャして過ごして、久しぶりのマリーネとの逢瀬を楽しんでいた。
「今宵も泊まっていっていいか?」
素っ裸でベットでマリーネを抱き寄せれば、マリーネはチュっとエリオットの唇にキスを落として。
「ええ、いいわよ。奥様はまだ帰らないんでしょう。」
「一週間は留守にすると言っていた。だが、さすがに明日は戻ろうと思う。
妻は怒らせると怖いからな。」
「残念だわ。まぁ、エリオットに執着する奥様の気持ちも解るけれども、貴方って最高の男…銀の髪にその碧い瞳、美しい顔。逞しい身体。全て私の好みよ。」
「そういうマリーネも、本当に美しい。妻は固い所があってね。君となら奔放に愛を交える事が出来る。」
「それなら今宵も奔放に愛し合いましょう。」
そして二日目の夜も、それはもうイチャイチャして。
二人はさすがに疲れて、ぐったりと寝入った翌日の朝だった。
外の騒がしさで、エリオットは目が覚める。
「ん?なんだ?大勢の人の話し声がする。」
素っ裸のまま、ベットから降りて、窓を開けて外を見て見れば、
大勢の騎士達が集まっており、その中央にいるのは妻サリア、そして王太子ファルト、騎士団長のジオルドであった。
サリアはエリオットを見つけると、叫ぶ。
「浮気をしたお前を討伐に来た。覚悟をするといい。」
エリオットは唖然とした。一週間は帰ってこないと思っていたのだが、
白銀の鎧を着て、金の髪をなびかせ、白馬に跨る妻サリアは美しい以上に恐ろしかった。
ジオルド騎士団長が叫ぶ。
「王太子命により、我が騎士団200名がお相手する。覚悟するんだな。エリオット。」
王太子ファルトはそれはもう、楽しそうにニヤニヤしている。
エリオットは慌てて服を着ると、
マリーネに。
「剣はないか?妻と騎士団に討伐されそうだ。何とか隣国へ逃げて、(勿論、妻の嫁ぎ元ではない)ほとぼりを覚まさないと、俺は殺される。」
「あら…それなら夫の遺品があるわ。差し上げるから頑張って逃げて頂戴。」
「お前は大丈夫なのか?」
「私は無理やり貴方に押しかけられて居座られたと言って被害者面するから、大丈夫よ。」
そう言うと、マリーネは剣を持ってきてくれた。
「悪いな。大事な遺品を。それじゃ、又な。楽しかった。」
エリオットは剣を手に走り出す。
幸い、ここは国境に近い。騎士団200名を蹴散らして、国境を越えればなんとかなるはずだ。
エリオットが走り出すと、一斉に騎士達が襲い掛かって来た。
自分の浮気が原因で、騎士達を殺しては余計に大変な事になってしまう。
騎士達は鎧兜を着用しているので、襲い掛かってくる騎士達の剣を剣で弾いて、鳩尾を叩いて倒していくことに専念した。
エリオットが走り抜けた後は、痛みに呻く騎士達が、次々と転がって行く。
いきなり目の前に馬でサリアが現れて、剣で斬り付けて来たので、慌てて避けて、
「サリアっ。誤解だっ。」
「何が誤解だ。この浮気者がっーー。」
「いや浮気はしていたが、本気はお前だけだ。」
「言い訳は聞かん。覚悟しろ。」
騎士達が捕獲網を投げつけてくる。
転がってそれを避けて、更に国境へ向かってエリオットは走り出す。
騎士団長ジオルドが目の前に現れて、
「久々に相手をしろ。エリオット。」
「背後には妻、目の前にはお前か。くそっ。」
ジオルドに斬り付けた。
それを受け止められて、エリオットとジオルドはすさまじい勢いで、互いに向かって剣を振るって打ち合った。
お互いに何度か手合わせをし、実力は互角だと解っているからこそ、
こういう時でなければ、手合わせは楽しくて仕方ないのだが。
今は逃げないと、サリアに追いつかれる。
思いっきり回し蹴りをし、ジオルドを転ばせて、その上を飛び越え、エリオットは走り出す。
ジオルドは叫んだ。
「卑怯だぞ。エリオット。」
「俺は命が惜しい。悪いな。ジオルド。」
さらに襲い掛かかってくる騎士達を蹴散らしていく。
坂を下って行くと、茂みから皇太子ファルトが叫ぶ。
「矢を打て。」
確実に殺されるっ。
騎士達が矢を雨あられのようにエリオットに打って来た。
降り注ぐ矢を剣で払いながら、国境へ向かう。
もうすぐで国境である。あの橋を渡れば、隣国だ。
隣国は小国で、関所の役人も少数だ。あそこを突破するのは訳はないが。
橋の中央で一人の人物が立っていた。
凄い覇気を感じる黒髪の男で、緑の剣を持っていた。
「お前が、エリオット・イーストベルグか。」
「待ち伏せしてたみたいだな。悪いが通して貰おうか。」
「そういう訳にはいかん。頼まれているんでな。まさか、魔王に使った拘束を使う事になるとは。」
男が緑の剣を構えれば剣が光り輝く。
あの輝きは聖剣ではないのか?
橋の下から、ドドンっと音がして、エリオットが逃げる間も無く、植物の太いツルに巻き付かれて身体を拘束された。
追いかけて来たサリアやジオルド、そして、王太子ファルトがその男に近づいて。
「さすが、ディオン、見事に捕まえてくれたな。礼を言う。」
「この男、極悪人と聞いたんだが。」
サリアがにっこり笑って。
「私の夫だ。浮気をした極悪人だ。これから、どうしてくれようか。」
相手が破天荒の勇者ならあっけなく捕まったのも納得した。
エリオットは身動きが取れないまま観念する。これはもう、自分の命が無くなるか、よくてサリアから離縁されるだろう。
サリアはエリオットの傍に来ると、思いっきりエリオットの頬を殴りつけた。
「離縁はしてやらん。お前程の男はいないからな。お前は公爵家を出て、例え身一つになったとしても、その実力といい容姿といい、どこにいっても重宝されて何一つ不自由しない人生を送るだろう。女だって選び放題。お前の性格は最低で能力は最高の男だ。
だれが離してやるものか。」
そう言うと、サリアは涙を流して、抱き着いて来た。
貪るような口づけをされる。
さすがにエリオットは反省をした。
「申し訳なかった。サリア。」
「本当に反省しているんだろうな。本当に私を愛しているのか?」
「愛している。サリア。お前だけだ。」
「それなら良い。もう一度、信じてやろう。」
何とかサリアに許して貰い、自分の屋敷へ帰る事が出来たエリオット。
今日もソファで可愛い子供達をあやしているエリオットであったが、
「こらこら、その玉を触っては駄目だ。怪我をするぞ。」
右足首に1mの鎖に繋がれた大きな鉄球が着けられており、息子と娘が興味を持ってそれを玩具にしている。
油断すると、床の鉄球に触り出す子供達を抱っこして、再びソファに座るエリオット。
目の前ではサリアが優雅に紅茶を啜りながら。
「半年後には外してやろう。これは罰だ。いいな。エリオット。」
「ああ、不便で仕方がない。」
だが自業自得なのだから。離縁されなかっただけ、命があっただけでも感謝するしかない。
妻サリアは本当に怖い女なのだ。しかし、エリオットは反省した。
何よりも妻が愛しくて、子供達とこうして暮らせる幸せが、大切だと解ったから。
今度こそは、妻と子供達を大事に、真面目に生きようと誓うエリオットであった。




