理不尽に追放された子は強くなるそうなので伸び悩んでいる愛弟子を追放してみました~ざまぁされる日を楽しみに待っていたけどもう遅い。成長した弟子に真意を暴かれ求婚されました~
新年一発目の投稿です。
元々連載用に書き始めましたけどもうあと二週間くらい手が付けられなそうなので急遽短編として仕上げました。
「テティア、あなたにはこのパーティから出ていって貰います」
「えっ……?」
突然そう告げられて、私はポカンと口を開けて固まってしまった。
私の正面に座る女性は、私の師匠であるフレイ。《爆炎の魔女》と呼ばれるAランクの凄腕魔法使いだ。
二年前に弟子入りしてからずっと優しく指導を続けてくれた、私にとって女神みたいな人。
銀色の髪に女性らしい抜群のプロポーションを誇り、困っている人がいればいつでも手を差し伸べる温かな心を持った師匠が、今は極寒の氷魔法よりも尚冷たい視線を私に向けている。
「聞こえなかった? テティアはもうこのパーティにいらないって言ったの」
「そんな……何でですか師匠!! 私、これまでずっと頑張って来たのに!!」
私が一向に反応しないからか、同じ言葉を繰り返されたことで、ようやく固まっていた喉が意味のある言葉を吐き出した。
ずっと私にとって憧れだった師匠が、何の理由もなく突然そんなことを言うはずがない。
周りにいる他の冒険者達の目も気にせず、テーブルの椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がりながら叫ぶ私に、けれど師匠はどこまでも淡々と言葉を重ねた。
「でも、戦闘の役には立ててないよね?」
「それは……そうですけど……」
一気に気勢を削がれ、私は顔を俯かせる。
そう、私は師匠みたいなかっこいい魔法使いになりたくてこのパーティに入ったけど……残念ながら、私には魔法の才能がこれっぽっちも備わっていなかったのだ。
魔力はそこそこ程度、魔法適性にも乏しくて、初歩の魔法が精一杯。どれだけ頑張っても、魔物相手の戦闘に耐えられるような魔法を使えるようにはなれなかった。
だから……役に立たないというその理由も、決して間違いだとは言い張れない。
「フレイに憧れるのはいいけどな、お前に魔法使いは向いてねえよ。とっとと辞めちまった方が身のためだぜ」
そんな私に追い討ちをかけるのは、パーティで前衛を勤める戦士のグランツさん。
厳つい顔と大柄な体格が特徴的な大男で、少し粗雑な部分はあれど気のいい人だった。
そんな彼も師匠と同じく、私に諦めろと促してくる。
これまでの修行を否定されたように感じて、視界がどんどん涙で滲んでいく。
「確かに、君が頑張っているのは知っているさ。だが……冒険者は遊びじゃない、頑張っているというだけで評価するわけにはいかないんだよ」
黙り込む私に正論をぶつけるのは、斥候役を勤める優男、トーラスさん。
いつもクールであまり感情を表に出さないタイプだけど、今日ばかりは少し苛立たしげな表情を浮かべているように見える。
「でも……でも! 最近は私のサポートに頼りきりじゃないですか! 私がいなくて、このパーティでやっていけるんですか!?」
私以外のメンバー全員から否定された私は、それでも諦めきれずにそんなことを口にする。
まともに戦闘が出来ない私は、依頼の受注や移動用の足の手配、荷物持ちにアイテム管理と、そうした細々とした雑用を必死にやることで、パーティに貢献してきた。
いつも助かってるって、ずっとそう言ってくれてたのに……あれは嘘だったんですか……!?
「自衛も出来ないサポート役などデメリットの方が大きいと言っているんだ。俺達が次に狙っているのはドラゴンの討伐……いくらフレイが最強の魔女と言ったところで、足手纏いを連れてどうにかなる相手じゃないんだ」
「っ……!!」
そんな私の問い掛けを、トーラスさんにバッサリと切り捨てられてしまう。
ショックのあまり顔を上げることも出来ないまま、私は最後に二人が話している間ずっと沈黙を保っていた師匠へと縋るように声をかける。
「師匠……本当に、もう……?」
「私はもう、テティアの師匠じゃないよ」
「っ!!」
ポタポタと、涙が溢れ落ちる。
尊敬する師匠にここまで言われたら、私に返せる言葉なんて、もう、何もない……
よろよろと立ち上がった私は、力の抜けた足取りで冒険者ギルドの出口へと向かう。
「師匠……いえ、フレイさん……グランツさんにトーラスさんも……これまで、お世話になりました……」
ペコリと頭を下げ、私は逃げるようにその場から立ち去った。
もうこれ以上、師匠達の顔を見たくない――
だから、私は気付かなかった。
私を見送る師匠の目が、どこか悲しげに歪んでいたことに。
◆◆◆
去っていくテティアを見送り、しばしの時間を無言で過ごした私は、そのまま勢いよくテーブルに頭を打ち付けた。
「うわぁぁぁぁん!! 私もう絶対テティアに嫌われたぁぁぁぁ!!」
「だから言ったじゃねーかよフレイ、素直に全部話した方がいいんじゃね? ってさぁ」
突然子供みたいに泣きじゃくり始めた私に、グランツが呆れ顔で溢す。
だって、だってぇ!
「私だってもう何度も言ったよ? テティアは他の道に進んだ方がいいってそれとなく。でも、あのキラキラした目でもっと頑張りたいなんて言われたらさ、もうそれ以上何も言えないじゃん!!」
テティアは確かに、魔法の才能がなくて戦闘の場面ではあまりパーティに貢献出来ていなかった。
でも、だから無能かと言われたら、絶対に違うと断言出来る。
持ち前の器用さと勉強熱心な性格もあって、アイテム作りにかけては天才的な素質を持っていたし、パーティ全体を見て適宜そのアイテムでサポートする能力は間違いなく一流だ。代わりなんて、この王都中を探したところでそうそう見つからないだろう。
でも、テティアはあくまで私みたいな魔女になりたがっていた。
憧れて、遠い道のりだろうと歩み続ける覚悟が固まっているならそれもいい。
でもあの子の場合、私の指導さえ受けていればいずれ必ず大成すると、盲目的に信じてしまっているきらいがあった。
それじゃあ良くない。ちゃんと自分の才能や適性と向き合った上で、改めて自分の道を自分で見つけ出して欲しい。
そんなことを願いながら、さりとてどう伝えたものかと悩んでいた時、ふとこんな噂を耳にした。
――パーティを追放された冒険者は、新たな出会いを経て自らの才能に気付き、大きく成長するという噂を。
所詮噂と切り捨てても良かったけど、私の傍にいたらテティアがこれ以上成長出来ないと感じていたのも事実。そこでグランツやトーラスに協力を仰ぎ、テティアを追放することにしたのだ。
嫌だったけど。心底嫌だったけど!!
「うぅ、テティアぁ……」
魔法を披露すればキラキラとした瞳ですごいすごいと囃し立て、私が行くところ行くところちょろちょろと子犬みたいについて回るテティアの姿を思い出す。
いくらテティアのためとはいえ、あの無邪気な信頼の目を二度と向けてくれないだろうと思うと死ぬほど寂しい。
「全くフレイは……自分で決めたことでしょう? 腐っても師匠なのですから、いずれ成長した彼女が思い切り見返しに来るまで、どっしりと構えているべきでしょう」
「うぅ……そうだよね。私が聞いた話でも、追放された子は元気に再起して、最後には古巣だったパーティが落ちぶれた様を思いっきり『ざまぁ!!』ってするらしいし、ここまで来たからにはその役回りまできっちりやりきるのが私の役目だよね!」
「テティアがざまぁなんて言うかぁ……? つか、俺達落ちぶれんの? こえぇなおい」
ぐっと拳を握り締める私に、グランツが半目でそう溢す。
いやまぁ、別に落ちぶれる必要はないと思うけどね。あくまで越えるべき最後の壁ってことで。
「それでは、テティアの代わりを探しますか……そういないとは思いますが」
「見付からなかったらどうするよ?」
「その時はその時です。ドラゴン討伐の依頼は失敗ということになるでしょうが……今からそれを考えても仕方ないでしょう」
「ごめんね二人とも、私の我儘に付き合わせちゃって」
「気にする必要はありません。パーティに欠員が出るなどよくある話です」
「俺らだって、もうこのパーティじゃなきゃ戦えないなんて言うほど子供じゃねーしな。いざとなれば他のパーティに参加して稼ぐさ」
笑いながらそう語ってくれる二人の仲間には、もう感謝の気持ちしかない。
これから先どうなるか分からないけど……この二人のことは、何があっても一生忘れないだろう。
「ありがとう、二人とも!」
私が笑顔でそう返すと、二人とも照れ臭そうな表情を浮かべる。
でもそれはそれとして、テティアは大丈夫かな? あんなに酷いこと言って追放しちゃったし、そのまま塞ぎこんでないといいけど。
……ちょ、ちょっとだけ、様子を見に行ってみようかな?
私の心配とは裏腹に、パーティから離れたテティアはその後、目覚ましい成長を遂げた。
偶然居合わせた王女様を救ったのを皮切りに、錬金術の才能を開花。高い効能を誇る魔法薬や魔道具を作り上げ、多くの人を救ったのだ。
探索の中で怪我をした冒険者達にポーションを販売し、疫病に苦しむスラムの人達に薬を作り、寒さに震える冬を暖める魔導暖炉に加え、夜の町を照らす照明魔道具などなど。
この一年で大きく発展した王都の町並みを窓の外に眺めながら、一方の私はというと……
「お、お腹空いた……」
ものの見事に落ちぶれていた。
……いやうん、言いたいことは分かる。でも言い訳させて?
まず初めに、テティアを追放するに至った直後、ドラゴン討伐は失敗した。
テティアの代わりになる子が見付からなかったから辞退したんだけど、失敗は失敗。違約金を払うことに(ドラゴン自体は後日テティアの新しいパーティが討伐したらしい。すごい)
その後、また新しい依頼を探さなきゃならなくなったんだけど……とある理由から私があまり冒険者としての活動に時間を割けなくなったこともあって、活動実績が激減。
グランツやトーラスはそれぞれ別のパーティを見付けてそちらを主として活動するようになり、私達のパーティは自然消滅。今でも連絡を取り合う仲だけど、一緒に冒険に行くことはなくなった。
そして一人になった私は、当然ソロ活動しなきゃならないんだけど……これがまた大変。
消耗品の補充や準備、移動の手筈や狩った獲物の素材剥ぎ取り、周辺警戒に持ち運び……やらなきゃならないことが一気に増えて、当然その分リスクも上昇。大物なんて狙えなくなる。
そんな状態で……テティアがいない寂しさを紛らわそうと連日連夜酒場で飲み明かしてたもんだから、一年で貯金を全部食い潰してしまったのだ。
「うぅ……今日で一週間連続ニガニガ草……そろそろまともなご飯が食べたい……」
ニガニガ草は、割とどこにでも生えてるハーブの一種。噛むと甘味のある汁が出てくる。
……ただし、未調理だと甘味なんて一切感じ取れないくらい苦味の方が強い。
貧乏を拗らせた人間が、苦味を堪えて必死に齧って飢えを凌ぐことからこんな名前がつけられたらしいけど、まさか私自身がそれを実証することになるとは。
いやー、これでも前は18歳でAランクまで登りつめた才媛だなんだ言われたりもしたんだけど、人間堕ちる時はあっという間だね!
「仕事……行かなきゃ……」
ご飯にありつくためにはお金が必要で、お金を手に入れるためには依頼をこなすしかない。
そういうわけで、今日も今日とてフラフラの体に鞭打ってお仕事へ向かうのだった。
やって来たのは王都近郊の森の中。狙うは薬草採取だ。
……どう考えても駆け出し冒険者がやるような仕事だけど、今の私の体力で魔物討伐なんて無理だし仕方ない。
「おい、あれ見ろよ、フレイだぜ」
「あら本当、あまりにもみすぼらしい格好だから気付かなかったわ。Aランク冒険者が惨めなものね」
ニガニガ草を齧りながらせっせと採取に励む私の耳に、森の奥地へ向かう冒険者の陰口が聞こえてきた。
今の私は、テティアの才能を見抜けず追放した無能ってことで、王都の人達から大分白い目で見られてる。
そこに、ここ最近の貧乏暮らしで痩せた体とボロのローブ、老婆みたいにくすんでしまった銀髪が合わさって、完全に嘲笑の的だ。
グランツやトーラスは庇ってくれてるみたいだけどね。別に全くの嘘を広められてるわけじゃないから、気にしないでと言ってある。
それに……追放された子は、最後に落ちぶれた元凶をざまぁすることで過去の呪縛から解き放たれ、世界に羽ばたくという話だし。
どうせ落ちぶれたんなら、最後にテティアからざまぁされて、テティアの糧になってくたばりたい!!
「だからこんなところで死ねないのぉぉぉぉ!!」
「グオォォォ!!」
というわけで現在、突然現れた魔物から逃亡中。
薬草採取が出来る場所は森の中でも浅い場所とはいえ、危険がないならそもそも冒険者への依頼なんて発生しない。
だから、採取してる最中に魔物と出くわすのはまだいい。でもそれがなんでワイバーン!? B級クラスの化け物なんですけど!! こんな駆け出しの仕事場に現れるようなレベルじゃないんですけど!!
「ぐう、逃げ切れない……討伐するしかないか……!」
当たり前だけど、相手はその名の通り空を飛ぶ魔物。人間が走って逃げ切れるような相手じゃない。
いくら落ちぶれたとはいえ、これでも元は《爆炎の魔女》なんて呼ばれた身。ワイバーンくらい一撃で……!
「あ、やば……」
杖を構えて詠唱を開始した私はしかし、すぐにくらりと視界が歪んで立っていられなくなる。ここ最近まともなご飯食べてなかったから、急に走って眩暈を起こしたらしい。
大口を開けたワイバーンは既に目の前。再詠唱は間に合わない。
まさかこんな最期になるなんて、冒険者になる前は考えもしなかったな。
ああ……せめて最後に、もう一度テティアに会っておきたかった……
「……ん?」
そんな私の頭上を飛び越し、何かのポーションのようなものがポーンとワイバーンの眼前へ投げ込まれた。
一体なんぞ? と首を傾げる私の前で――ポーションの瓶は盛大な破裂音を響かせて爆発。周囲に爆風と爆炎を撒き散らした。
「ふぎゃああああ!?」
「ギャオォォォォ!?」
爆風の余波を受けた私の体が、軽く宙を飛ぶ。
それほどの衝撃を間近で食らったワイバーンなんて、口を開けていたせいもあって体内すら焼かれ、一撃で絶命していた。
「――大丈夫ですか!?」
とんでもない大火力。それなのに、魔法じゃない。
まさか、と思いながらも、地面に転がったまま声のする方に目を向けてみると、そこには……
「良かった……無事みたいですね」
太陽の光を浴びて燦然と輝く金色の髪。
私を見つめる翠緑の瞳は宝石のような美しさを誇り、人懐っこい笑顔と合わさって天使のような可憐さを醸し出す。
「間に合って良かったです……師匠」
私のかつての愛弟子、魔法使いの少女テティア。
今は王都最高の錬金術師としてその名を轟かせる彼女が、以前と変わらない姿でそこにいた。
「テティア……? えっと、これはその……」
探索途中に元弟子に助けられるという失態を演じた私は、なんと言うべきかしばし悩み……はたと、悩む必要なんてないことに気が付いた。
そう、私の今の役目はテティアのために道化を演じ、ざまぁされて成長の糧となること。
なんやかんや、道化でも何でもなく本気で落ちぶれちゃってはいるけど、丸一年ずっと待ち続けた瞬間がやって来たんだ。最後くらいきっちり締めないと。
「ふふふ、すっかり強くなったみたいだね、テティア……うん、今のあなたなら、また前みたいに私と一緒にパーティ組むのを許してあげてもいいかもね? ありがたく思いなさい!」
助けられた手前、本当はお礼を言うべきなのは分かってる。それでも、私はあえて高慢ちきな態度でそう言った。
その方が、テティアも後腐れなく私を見限って、前に進んでいけるだろうと思って。
「何言ってるんですか、師匠……そんなこと言ってももう遅いですよ」
呆れたような目で、地面に座ったままの私をテティアが見下ろす。
一年経っても相変わらず小さなこの子からこんな風に見られるなんて、思ってもみなかったな。
でもそれでいい。さあテティア、私を思いっきりざまぁして、大きく世界に羽ばたくのです!!
「師匠が私を想って私を追放したんだってこと、もう知ってるんですから!! だから、いくら私に嫌われようとしたって無意味です!!」
…………んん?
待って、え? ざまぁされる流れじゃないのこれ?
「いやあの、えっと……テティア、な、何か勘違いしてるんじゃないかな? ほら、私はテティアの才能を見抜けなかった無能ですヨー?」
「何ですかその棒読み。しらばっくれても無駄です、大体師匠は私の素質なんてとっくに気付いてたんですよね?」
「い、一体何を根拠に!!」
「根拠も何も……私がパーティを追放されたあの日! 当てもなく町をフラフラしていた私に串焼きを奢って錬金術の基礎セットを譲ってくれたお婆さん!! あれ師匠が魔法で変身した姿ですよね!?」
「ほわっ!? なななな何を言ってるのかなテティアは!! そそそそんなことあるわけなななないじゃないないですのですわ!!」
「口調がわけわかんないことになってますよ!? 師匠は嘘が下手過ぎます!!」
いきなり核心を突かれ、私はつい動揺を口に出してしまう。
そう、確かに追放したあの日、テティアのことが心配になった私はこっそりと後を付け、お婆さんに変身して話を聞いてあげたのだ。
その流れで、以前からテティアに向いていると思っていた錬金術の道にそれとなく誘導してあげたのも確か。だけど、まさかバレてたなんて……!!
「それだけじゃないですよね? ドラゴン討伐の時、私達の見立てが甘くて危ないところまで追い詰められて……そこへタイミングを見計らったみたいにどこからともなく飛んで来た炎魔法! あれ師匠が撃ち込みましたよね!?」
「へあっ!?」
「スラムで流行った疫病の時も、私が薬を作るのに苦戦して人死にが出そうだったのに、一晩で何人も少しだけ持ち直して……後で聞いてみたら、みんな『テティアと契約している守護精霊を名乗る銀髪の女の人が枕元に立って治癒魔法をかけてくれた』とか言ってて、これ師匠ですよね!? 私に守護精霊とかいないですから!!」
「はうっ!?」
「まだ他にも、毒の沼地に行く依頼で解毒ポーションを用意できなかったと思ったらなぜか机の上に置いてあったり、作った魔道具の利権で商人と裁判沙汰になりかけてたのに突然相手の態度が軟化したり……師匠が関わってるって裏が取れてる件が山ほどあるんです!! というかこれだけやっててよくバレないと思いましたね!?」
次から次へと暴き出される、私のこの一年間の所業の数々。
そう、私はテティアを追放したはいいものの、可愛い愛弟子をそのまま完全放置出来るほど非情にはなり切れず……ずっと裏からこっそりサポートし続けていたのだ。
私が冒険者としての活動をほとんど出来なくなったのも、これが理由。
当然、グランツやトーラスにだけは事情を話してあったから、苦笑交じりに「頑張れよ」って応援して貰ったりもした。
でも、まさかテティア当人にバレてたなんて……!!
「そんなことにばっかり貴重なアイテムや時間を使って、冒険者としてのお仕事サボって、挙句夜は酔い潰れるまで飲み明かしてたんですよね!? そりゃあいくらAランク冒険者でも落ちぶれますよ、バカなんですか師匠!!」
「うぅ、か、返す言葉もございません……!!」
テティアの剣幕に、私はその場で深々と頭を下げる。
いやだって、心配だったんだもん!! テティアを追い出してはい後は頑張れなんて無責任なこと出来なかったんだもん!! だからこれは師匠としての最後の責務、最後の仕事だと思って……!!
「全く……師匠は前からそうでしたよね。不器用で、一度思い込んだら無意味に突っ走って、自分のことなんて二の次にして……こんなになるまで、私のために……」
私の前にしゃがみ込んだテティアの手が、私の顔をそっと包み、上げさせる。
以前と変わらない優しさと信頼の籠った翠玉の瞳に、確かな成長を感じさせる余裕と慈愛の心を浮かび上がらせ、にこりと微笑んだ。
「そんな師匠だから、私はあなたの弟子になろうと思ったんです。師匠みたいな、カッコよく戦う炎の魔法使いにはなれなかったですけど……形は違えど、今なら師匠の隣に立てるくらい強くなれたって、そう思ってもいいですよね?」
「……もちろん。今のテティアは、私なんかよりずっと凄いよ、自信もって」
さっきの、私とパーティを組んでもいい云々はざまぁされるために言った言葉ではあるけど、全くの嘘でもない。
今のテティアは王都中に認められる偉大な錬金術師で、立派な冒険者だ。むしろ、私の方こそ頭を下げてパーティに入れて貰いたいくらいの相手だよ。
「そう言って貰えて嬉しいです。でも、それなら……私、ずっと師匠に言いたくても言えなかったお願いがあるんです。聞いてもらえますか?」
「うん、何? こんな私に出来ることなら、なんでもするよ」
真摯に問いかけるテティアに、私は当然のようにそう答えた。
それを聞いて、テティアは「ありがとうございます」と笑顔を浮かべ、一度深呼吸すると……
「師匠……初めて見た時からずっと好きでした。私と結婚してください」
「うんいい、よ……って、え?」
そんなことを言い出した。
……いやいや待って、本当に何を言ってるのこの子は?
「ごめんちょっと私、お腹空き過ぎて耳がおかしくなったみたい。テティアから求婚される幻聴が聞こえたの」
「それは大変です! これは私が毎日手料理を作って養ってあげなきゃいけませんね、さあ行きましょう!!」
「うん幻聴じゃなかったよ!!」
軽く現実逃避する私をひょいと抱き上げるテティアを見て、思わず叫ぶ。
というかテティア力強いね!? 体格差結構あるんだけどなんでそんなにあっさり抱えられるの!?
あ、魔道具パワーですか。便利だね魔道具!
「待って待って、テティア自分が何言ってるか分かってる!?」
「分かってますよ。この一年の冒険者活動でお金たくさん貯めたので、それを元手に田舎でお店を開いて二人でまったり過ごしましょう。依頼であちこち出回っている時にいい感じの場所を見付けてあるので、下見はばっちりです」
「めちゃくちゃ具体的な構想が出来上がってる!? いや仮にそうだとしても、テティアまだ子供だし、それ以前に私達女同士だし!! あと、田舎に引っ込んだら今いるテティアのパーティメンバーはどうするの!?」
「私ももうじき15歳で成人するので大丈夫です。それと、女同士なのも問題ないですよ。パーティメンバーだった王女のプリメラが、女戦士のライザと結婚するためにちょっと法律変えて来るって息巻いてましたから」
「王女様ぁぁぁぁぁ!?」
テティアの他に二人、王女と戦士の女の子がいたのは知ってたけど、あの二人デキてたの!?
えっ、そもそも王女様は、同性婚を認めさせるための実績作りと民へのイメージアップ戦略を兼ねて冒険者してたって? 行動が大胆過ぎない!?
「なのでパーティももう解散してます。別れ際に『テティアも師匠を頑張って落としなさい、あなたが成人するまでには法律も捻じ曲げておくから』とエールを送って貰ったので、いわば私達は王家公認の仲です!」
「私の知らないところで最高クラスの権力者に外堀が埋められきってる!?」
王家公認の結婚って何!? なんで王族どころか貴族ですらない私がそんなことになってるの!? 拒否権が既に消失してない!?
「えっと、その……嫌、でしたか……?」
ここまで押せ押せだったテティアが、急に不安そうな表情で私の顔を覗き込む。
その顔が、以前泣く泣くパーティから追放した時のテティアと重なって見えて……私は苦笑交じりに首を横に振った。
「正直驚いたけど、嫌じゃないよ。私もこの一年で、テティアがいなきゃ何にも出来ないんだなぁって実感したばっかりだし。でもいいの? どんな思惑があったにせよ、あんなひどい事言った私を……」
「それこそ、今更ですよ。そういう不器用な優しさも含めて、私は師匠が好きになったんですから」
にこりと微笑むテティアの眼差しに、私は不覚にもドキリと胸が高鳴ってしまう。
一度は追い出した可愛い愛弟子。体は小さいけど誰もが認める美少女で、きっと探そうと思えばいい男だってたくさん寄って来るはずだ。
それなのに、私を選んでくれた。
正直言うと、すごく嬉しい。
「だからもう一度だけ言いますね……私と結婚してください、師匠……!」
だから、そう言って懇願するテティアの頬をそっと撫でて……私もまた微笑み返した。
「うん、いいよ。私もいつかは冒険者引退して田舎で隠居とかしたかったし、テティアと一緒ならきっと楽しく暮らせる気がする。もし本当に同性婚出来るようになったら……その時は、よろしくね?」
「師匠……!!」
「前にも言ったでしょ、もう私は師匠じゃないよ。これからはフレイって呼んで?」
「……!! はい! あ、えっと……ありがとうございます、フレイ……」
嬉しそうに、少しばかり慣れない口調で私を呼ぶテティアが何だか可笑しくて、私はつい噴き出してしまう。
「わ、笑わないでくださいよ、ずっと師匠と呼んでましたから、改めて呼び捨てだとちょっと慣れないなと思っただけです!」
「あはは、まあすぐに変えなくても、ゆっくりでいいよ」
「はい! えへへ」
自分で言っておいてなんだけど、はにかむテティアは本当に可愛くて、呼び方なんて些細なことはどうでもよくなっちゃう。
ただ、今はそんなテティアのことを愛でている場合じゃない。
「お礼を言うのは私の方だよ。ただね、テティア。一つだけいい?」
「はい、なんですか?」
「……そろそろ恥ずかしいから、降ろして貰えるかなって……!!」
抱き上げられた後、テティアは喋ってる間もずっと王都目指して突っ走っていて……現在ばっちり関所前に到着していた。
良い意味で有名人のテティアが、悪い意味で有名人な私を抱きかかえて帰って来たんだから、それはもう目立って仕方ない。
まだ距離があるからマシだけど、このまま近付いたらどれだけの視線に晒されることになるやら……考えただけで恐ろしい。
そんな私の様子を見て、テティアはにや~、と擬音が付きそうなくらい悪戯っ子の笑みを浮かべた。
ちょっ、なんか嫌な予感がするんですけど!?
「ふふふ、さっき師匠……じゃなかった、フレイ言ってましたよね? 私にひどいこと言ったって」
「う、うん、確かに言ったね?」
「反省してます?」
「してるしてる、すごくしてる」
ぶっちゃけ、こんなことになるならもう少し上手いやり方あったよなぁと思ったのは一回や二回じゃない。グランツやトーラスにだって「不器用な奴」って呆れられてたし。
ただ、それをどうして今ここで持ちだしたのかな? お姉さん気になる……いややっぱり気にならないから言わなくても。
「じゃあ反省の意味を込めて、私が借りてる家に着くまでこの状態のまま大人しく運ばれてください♪」
「いやーーーー!? 待って落ち着こう一回落ち着こう!! 確かにプロポーズには同意したけどこんな公開羞恥プレイに同意した覚えはないよ!?」
「これはちょっとした仕返しなので、同意は関係ないですよ。グランツさん達から師匠がざまぁされたがってるっていう話は聞いていたので、これがざまぁの代わりだと思ってください♪」
「あの二人裏切ったなぁぁぁぁぁ!?」
やけにテティアが自信たっぷりに私の行動の裏を取ってる風だった原因はあの二人か!!
黙ってるって約束だったのに裏切り者ぉ!!
「さて、それじゃあ行きますよー♪」
「待って本当にこのまま行くの? ちょっ、待って、許してぇぇぇぇ!?」
その後、威風堂々と関所を通過するテティアと私に無数の視線と質問が浴びせかけられ、落ちぶれた私をテティアが娶ることにしたという噂が一瞬にして王都中に広がることになるんだけど、それはまた別のお話。
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