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第8話 告白

「……もう無理よ」


 部屋に戻るなり、わたしはドレスを着たまま床にへたりこんだ。

 涙がとめどなく流れる。


「あんな顔されて、期待しないほうがおかしいわよ……」


 わたしが婚約するかもしれないと言った時のあの顔が。そして。


 ――オレ、姫様のことが……っ!


「……っ」


 顔に熱が集まる。……頬が熱い。


「そんなこと言われて、どうしろって言うの……わたしは姫、ディラスは騎士。そう分かってるじゃない。わたしが婚約するべきなのはカッツヴァルド様。それも分かってる。なのに……」


 なのに、なんで。


「姫様!」


 わたしを、笑って送り出してくれないの、ディラス。


「姫様、ここを開けてください!」


 ディラスは、扉を荒く叩く。


「…………嫌」

「姫!」

「嫌よ!顔合わせまでは時間があるわ。それまでにちゃんとするから、それまでほっといて!」

「できません!姫様にあんな顔されて、ほっとけるわけないでしょう!?オレは、姫様をひとりで泣かせたくないんです!」


 そんなこと言ったって、わたしに一体どうしろっていうの。

 あぁ、つい最近こんなようなやり取りをしたな。そう現実逃避したくなった。

 だが、ディラスはそれを許してはくれなかった。


「泣くなら、オレの腕の中で泣いてください!」


(好きな人にそう言われて、わたしに一体どうしろって言うのよ。……分かってる、わたしはこれを無視するべきだって分かってる。でも……こんなこと言われて無視するなんて……そんなこと、できない!)


「……ディラスっ!」


 勢いよく立ち上がり、扉を開ける。


「うわっ……とと、急に開けないでくださ……」


 ディラスは、急に扉が開いて驚いている。

 でも、そんなこと知らない。

 わたしはそんなディラスに、思いっきり抱きついた。


「…………ひめ、さま?」

「わたしっ、この国の姫だからっ、カッツヴァルド様と結婚しなくちゃって思って!」


 急に飛び出し、大声で叫び出したわたしを、ディラスは戸惑いながらも抱きとめてくれた。


「……はい」

「でも、わたしはディラスのことが好きで好きで、大好きでっ!」

「……え、っと?」

「好きな人に婚約おめでとうって、結婚おめでとうって、言われたくなくって!」

「ちょ、ひめさ」

「でもこんな恋叶うわけないって分かってた!だから婚約しようって決めて、なのにっ……!」


 さっきから言葉は支離死滅で、自分でももう何を言っているか分からない。

 でも、ディラスの温もりに触れた途端、防波堤が壊れたように言葉の波が押し寄せた。

 そんなわたしを、ディラスは優しく抱きしめ、子供をあやすように頭を撫でた。……温かい。

 しばらくそのままでいてくれたが、わたしが少し落ち着いたのを感じ取ったのか、ディラスは口を開いた。


「オレの話も、聞いてくれますか」


 ぽつりと、ディラスは言った。

 小さく頷くと、「ありがとうございます」と、わたしの頭を撫でながらディラスは話し出した。


「……オレも、絶対叶わない恋だって思ってました。そもそも、最初アイリスちゃんに告白して、そのあと姫様に恋するなんて、節操ないし最低だって自分でも分かってました。だから絶対姫様にこの気持ちは伝えるもんかって決めてたんです。でも」


 一度言葉を切り、深呼吸をして再び話し出した。


「姫様が他国の王子と婚約するかもしれないって聞いて、気づいたら気持ち全部吐き出しかけました。ぽっと出の奴に、姫様は渡したくないって。でも最後の理性で、なんとか全部は言いませんでした。……多分、それがよくなかった。結果、オレは姫様を泣かせた。そのことが許せなくて、腹立たしくて。……でも、それより姫様がひとりで泣いてることのほうが、もっと嫌で」


 ディラスはさらにわたしを強く強く抱きしめた。


「……好きです、姫様。健気で、真っ直ぐで、なんでもひとりで抱え込もうとして、抱えきれずに崩壊して、結局夜ひとりで泣いて」

「……ちょっと」

「でも」


 わたしを抱く腕が、痛いくらいわたしを締めつける。


「オレは、そんな姫様のことが好きです。大好きです。愛しています」


 そう告げられ、わたしはディラスをぎゅっと抱きしめ返す。


「わたしもっ、ディラスのことが大好き……!」


 それからしばらく、わたしたちはそのままでいた。

次回更新は10月15日18時です!よろしくお願いします!

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