第6話 国王
結構短いです。
「ベルぅぅ……我輩、ベルがいない間寂しかったんじゃぞぉぉぉ……」
アイリスを廊下で待たせ、国王陛下――もといお父様の部屋に入るなり、お父様はわたしに勢いよく抱きついてきた。
国王たる威厳の欠片も感じられない。
「はいはい。で、用事はなんですの?」
「相変わらず冷たいのぉ……じゃがそれもベルの可愛さというもんじゃけどな」
「で?」
「ちと無駄話くらいさせてくれてもよかろうに……ほれ、その椅子に座ってよいぞ。それで、ベルをここに呼んだのは他でもない。ベルに婚約の申し込みがあったからじゃ」
「婚約……相手は誰ですの?」
「ノーラット王国の第二王子、カッツヴァルドじゃ」
「ノーラット王国……」
ノーラット王国。
ここ最近になって急に力をつけ始めた国で、噂によると他国との繋がりを強固にし、更に力をつけようとしているそうだ。
「完璧にこれは政略結婚ね」
「八割方そういうことじゃろう。この話がきた時、臣下たちも言うておうたわい。ベルベット様を政略結婚相手に据えるつもりだろう、とな」
「そうでしょうね。なんてったって、わたしはリエール王国で唯一の次期国王候補だもの」
そう、わたしは唯一お父様とお母様の間に生まれた子なのだ。
それ故、お父様はわたしのことを必要以上に溺愛するのだ。
「返事はいつまでなのかしら」
「返事はまだじゃ。が、明日カッツヴァルドと臣下らが訪問兼顔合わせに来るから、3日後くらいまでには返事が欲しいと言うておうた」
「明日って随分急ね。……お父様はどう思うのかしら、この婚約について」
そう訪ねると、お父様は「むぅ……」と唸った。
「我輩としては別に良いものでも悪いものでも思うとらんのじゃ。リエールは既に他国の助けが必要ないくらいには繁栄した。まぁ味方が多くて困ることはないんじゃけどな。じゃから、我輩は政略結婚をしろと強要するつもりはない」
「そう」
「ただ」
そう区切り、お父様は言った。幾分か、真剣な表情で。
「ベルはこの国で唯一、絶対的な王位継承権を持っておる。そのことは気に留めてもらいたい」
そう言うと、お父様は笑った。
「ま、そうは言うてもこれはベルの人生じゃ。我輩はベルの人生を邪魔するつもりはない。好きな相手と結婚するがよかろう」
これは、わたしの人生。
その一言は、わたしに重く響いた。
◇◆◇
その後はアイリスと城内をぶらぶらと歩き、一緒に夕食をとってから部屋に帰った。
部屋に帰るなり、わたしはベッドに飛び込み、もう一度例の本を開いた。
「……結ばれない恋の糸、ね」
パラパラとページをめくる。
……わたしも、いつかこんなふうに。
「……こんなふうに、なによ」
今、わたしは何を考えていた?
「……馬鹿みたい」
ありえない未来を描き、わたしはどうしたいというのだ。
わたしは叶うはずのない相手に恋をしている。
そう自覚しているのに、何故わたしはこの期に及んでそんな想像をするの?
「……ダメね、寝ましょう」
昨夜と同じような、眠れぬ夜になりそうだ。
次回更新は10月11日18時です!よろしくお願いします!