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第4話 衝突

 次の日の朝。


 昨日抱えたモヤモヤが胸にこびりつき、色々考えてしまい――もしかして、ディラスが言いかけたのは、わたしの騎士をやめたいだとか、そんな話かもしれない。そんなようなことを考えていた――結果、気づいたら空が白んでいた。


「姫様ー!おはようございます!」


 そう言ってわたしを起こしに来たアイリスは、すでに椅子に座っているわたしの顔を見るなりギョッとした。


「姫様、いかがなさいましたか!?昨夜はあまり眠れなかったのですか……?」

「まぁそんなところね。考え事をしてたらいつの間にか朝だったのよ」

「姫様を悩ませる狼藉者はどこの誰ですか……!姫様、教えてください!サクッと()ってきますよ!」


 アイリスはそう言うが、目は本気だった。多分。


「アイリスが言うと冗談に聞こえないのだけれど……大丈夫よ、日常生活に差し障りはないわ」

「いえ、それでもです!何故姫様はそこまで思い悩んでいらっしゃるのですか?」

「……わたしの気持ちの整理がついたら、アイリスにも話すわ。それじゃダメかしら?」

「えぇ、姫様がそう仰るのでしたら、わたくしはどれだけでも待ちます」

「……ありがとう」


 わたしがどれだけアイリスの言葉に救われているか、きっとアイリスは知らない。


「……あ、そうだ。姫様、国王陛下がお呼びでしたよ。今日の昼食は国王陛下の部屋でとるようにと」

「そう、分かったわ」

「……大丈夫ですか?」


 わたしがあまりに酷い顔をしているからだろう。アイリスは心底心配そうにわたしの顔を見た。


「平気よ。……さ、準備をしましょう」

「はい!」


 わたしはアイリスの選んだ淡い桃色のドレスを着て、ドレッサーの前に座った。


「……顔、酷いわね」

「そんな寝不足感漂うお顔ですのに、何故滲み出る眩しさはいつもと変わりませんの……!」

「つまり?」

「大丈夫です。化粧をすればどうとでもなります」


 とアイリスは言い――本当にどうにかなった。というか、いつもと全く同じように見える。


「アイリス……あなたすごいわね。本当になんでもできるのね」

「ありがとうございます……!もうわたくし、多幸(キュン)死してしまうかもしれませんわ……!」

「……?」

「いえ、こちらの話です。……今日は昼から国王陛下との昼食がありますが、午前中と夕方頃からは何もありません。どうぞごゆっくりとお過ごしください」

「ありがとう。なら……図書館にでも行こうかしら」

「かしこまりました。ディラスにはそう伝えておきますね」


 ディラス、と聞いてわたしの体はこわばった。


「……姫様?」

「なんでもないわ。……さ、行きましょう。わたし、今日はあなたといたいわ。ダメ、かしら」


 もちろんアイリスと一緒にいたい気持ちは大いにあるが、そこにほんの少しだけ、ディラスと顔を合わせたくないという気持ちもあった。


「もっ、もちろんいいです!……よっしゃぁぁぁぁ!姫様とデートだぁぁぁぁぁぁっ!」


 アイリスは握った両手を天に掲げ、心底嬉しそうに叫んだ。


「もう、アイリスってば」


 わたしは笑いながら、ドアノブに手をかけて扉を開いた。

 そこには、いつものようにディラスがいた。


「おはようござ……」


 ディラスは、何故か挨拶を途中で止めた。……止まったと言った方が適切かもしれない。


「……姫様」

「なにかしら」


「そのお顔、いかがなさいましたか」


 ――息が止まるかと思った。

 アイリスが上手くやってくれたおかげで、寝不足で酷いことになっている顔は隠せているはずなのに。


 なんで、ディラスは気づくの。


「……なんでもないわ」

「なんでもなくないでしょう」

「気にしないでちょうだい」

「気にします」

「ほっといて」

「それはできかねます」


 一歩も引く気配のないディラスに、わたしは困惑した。

 いつもの彼なら、わたしが聞かれたくなさそうなことは絶対に聞かないのに。

 なんでそうまでして聞き出そうとするの。

 なんで、今日は引き下がってくれないの。


「……仕事に支障は出さないわ」

「そんなこと気にしていません」

「明日からちゃんとするわ」

「昨日なにがあったんですか」

「なにもないわ。ただ、眠れなかっただけ」

「オレはちゃんとした理由が聞きたいんです」

「だからそんなものないって!」

「ないなら何故っ、そんな……泣きそうな顔でオレを見るんですか……!」


 苦しげにディラスは言い放った。

 ……今日はもうこれ以上、ディラスと話してはいけない。ボロが出そうだ。


「……アイリス」

「あっ、わたくしのことをお忘れになったわけではなかったのですね」

「行くわよ」

「はい」

「姫様!」

「あと後ろの騎士を黙らせておいてちょうだい」

「……よろしいのですか?」

「えぇ」

「かしこまりました」

「姫様、オレはよくないです!話を…………」


 急にディラスの言葉が切れた。アイリスが黙らせてくれたのだろう。


「ありがとう、アイリス」

「……どうしたんです?姫様がそんなこと頼むだなんて。よっぽどのことがない限り実力行使はしないでしょうに」

「……ちょっとね」


 わたしは笑って誤魔化した。

次回更新は10月7日18時です!よろしくお願いします!

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