2話「そして、二羽の鳥が出会った」
少年は無表情のまま武士を凝視した状態で文字通り固まっている。
少年が武士に気を取られている隙を突いて男が腰に挿してあったもう一つの刀を抜き取り少年に向かって斬りかかる。
男は少年の上から斬りかかる。
ドカッ、鈍い音がした。それは刀で人を斬った時の音とは違っていた。
「鬼ぃ。だから気をつけろと言っただろ、人の話を聞けよな」
どうやら先程の音は武士が男の腹を肘で殴った時の音みたいだ。男はうつ伏せに倒れている。
「僕は……鬼じゃ……」僕にだって本当の名前くらいある。
「嗚呼、そうだったな、鬼……じゃなくて。蒼 奏鬼、だよな? 確か」
そう、僕の本当の名前は蒼 奏鬼。だが僕は名前と違って赤に染まっている。
“血のように赤黒い髪、本心を決して見せようとしない赤い目、一瞬にして一国を潰すという実力を持ち、まさに戦うために生まれた鬼”
僕はこの武士――皇 紅典と初めて出会った時に、そう言われた。
彼は僕とよく似ていた。口が悪く、決して本心を見せようとも話そうともしない。
「おい、奏鬼。こいつどうする?」彼は倒れている男を指差し、僕にどうするか、を訊いた。
この場合、どうする、という言葉が指すのは――殺すかどうかだ。
「放っておいていい。それは殺す価値も無い」
「了解」殺す価値もない、か……。
全く……甘いよな、お前は。
いつまでも鬼になりきれてない……お前はただの人だよ、奏鬼。
人殺しをやめたいって今でも思いながら人を殺して、
いつだってお前は少年のままで……