セリアとアリーシア
初投稿です。ゆっくり不定期になると思いますので、よろしくお願いします。
ある日、魔法使い同士の戦争が起こりました。きっかけはなんでしょうか。
些細なことかもしれないし、何か大切なことだったのかもしれません。まぁ、きっかけはともかく、戦争は大きなものとなり、約50年間もの間続いたとされています。戦争の終わりを迎えたとき、大陸の空は黒い雲に覆われ、大地は草木が枯れ、海は赤く濁り、生命の息吹が消えかかっていました。それに気づいた魔法使いたちは、自らの行いを嘆き、後悔しました。自分たちはなんて愚かだったのだろうと。目を覚ました全ての魔法使いたちは己の魔力の全てを使い、大陸を覆うほどの回復魔法の結界を張り、大陸の回復を行いました。
大陸は再生し、滅亡の危機は去りました。魔力を使い切った魔法使いたちは自らの罪を背負い、人々の目の届かないところに消えていきました。こうして、このフィーリア大陸最大の戦争、フィーリア魔法戦争は幕を閉じました。
そして、この戦争から200年後の現在、大陸の魔力が完全に回復したことで現代の魔術の系列が生まれました。
四大元素を基にした火、水、土、風の四種類の属性魔法。
動物などを召還して自身のサポートや、攻撃、防御の要として扱う召喚魔法。
この二種類の魔法が現代に蘇った現実の奇跡として知られています。
また、文献には人間が使えない光と闇を扱うことができる極神魔法と呼ばれる伝説の魔法が存在したと言われています。しかし、200年の大戦で失われたと言われておりその存在を確認することは不可能とされています。
セリニア魔法学園2年生
セリア・ウィンボード
「…これでいっか」
夜の森の中、少女が一人。少女の名は、セリア・ウィンボード。闇に溶け込む鮮やかな黒髪。好奇心の強さを感じさせる大きな水色の瞳。少し幼さを感じさせる整った顔立ち。森の探索に適している服装で、大きなバックパックを背負っていた。所謂、美少女と言われる要素を持っている少女である。しかし、今現在、髪は薄汚れ、瞳はどよんとしており、クマができている。ゾンビも逃げ出す疲れ切った人相をしているためか、彼女の周りだけ夜の闇が特に深く見えた。
「明日提出の課題完了!…はぁ、ボロボロだけど目的は達成したし別にいいか…」
言いながら、セリアはコートの懐から小瓶を取り出した。
「くふふ……これを売れば…」
小瓶の中には、小さな毛玉のようなものが入っていた。小瓶の中でふわふわと浮かんでいる。毛玉の名は、綿毛精霊という。精霊というのは本来人間の前には姿を現さない。何故なら、精霊は人間は危険という潜在意識を持って生まれてくるから。また簡単な魔法が使えるため人間たちに乱獲され自然界に存在する精霊の数は毎年減少の一途を辿ってきている。そのため末端の低級精霊のでさえ、かなりの値段で売買されている。王国も精霊売買禁止令を出しているほどだが、それでも精霊の闇市は消えることはなかった。
「とにもかくにも、今夜中に町に戻らないとねぇ…」
セリアは学生である。現在長い休みの最中であるが、課題提出のため一度学校に顔を出さなくてはならない。しかし、セリアはこの森での精霊探しに時間をかけていたので課題をやっていなかった。そこで休憩がてら、やっていなかった課題の残りを済ませていた。
「…さて、そろそろいきますか!」
よしっ、と気合を入れてセリアが立ち上がった。その時…
(ん?)
セリアは違和感を感じた。自分の後ろに気配を感じたからである。
(な、なに?)
ゆっくりと後ろを振り向いていくセリア。後ろの気配が濃く感じてくるのを肌で感じるようになっていく。森の中は夜ということもあり少し肌寒く感じていたところだが、気配に気づいてからは額から汗が流れ落ちていくのがわかった。
「え?」
完全に後ろを振り向いたセリアだったが思わず声を出していた。
いつでも自身の魔法を打ち出せるように魔力を手に集めていたが集中が切れたためか霧散してしまった。その気配の姿は、背が高く、寸胴で、頭に傘をかぶっているような……
(キ、キノコ?)
キノコだった。異常なほどの大きさである。人間であるセリアよりも大きく、見上げなければ頭の笠が見えないほどの…
(何だ、キノコか…)
セリアはキノコに近づいていく。普段のセリアならばたとえキノコでも気を抜かず、魔力弾の一つや二つ準備していただろう。しかし、今のセリアは休憩したとはいえ、まだ身体に疲労がたまっている状態だった。故に特に警戒することもなく近づいていく。
「え?ぶへえぇ!」
殴られた。キノコに。顎に入ったため意識が飛びそうになる。
(いったい…何が…殴られた?私が?)
朦朧とする意識の中でセリアは思った。
あぁ…殺ろう。
「上等じゃない!、私の顔を傷つけた罪は万死に値するわ!『氷の棘』!」
自分の足元に手を置いて、魔力を流し込む。すると地面から氷の棘が生えだした。それが、キノコに向かっていく。一つ一つが鋭く、2~3mほどの大きさである。
キノコは貫かれ、決着はつくものだと思われた。
「決まった!……あれ?」
勝利を確信し、セリアは喜びの声を上げる。しかし、キノコから魔力の流れを感じ取り戸惑いを覚えた。通常、魔法は人間にしか使えない。そう言われてきた。
セリア自身、学校の授業でも家の勉強でもそう習ってきたしそう思っていた。
キノコから魔力を感じ取るまでは――――
(人間ではないキノコ畜生から魔力を感じる?そんなバカな…)
セリアは否定するが、事実目の前のキノコから魔力を感じている。
「これで仕留める!」
「――――――――!!」
『氷の棘』がキノコに迫っていくが、当たる直前にキノコの魔法が発動した。
セリアの氷は魔法にぶつかり、あっけなく破壊された。
「えっ」
どうやら、キノコが使ったのは召喚魔法だったらしく、巨大な門が存在していた。全長5mほどの門には、木の幹や、植物の蔓がまとわりついている。門には一本の樹木が描かれており、どこかの遺跡から召喚されたように思えた。『森の禁門』と呼ばれるこの門はただ盾にするために呼び出されたものではない。
この門はあるものを召喚する。その条件は三つある。
一つ目は、召喚者が一定の魔力の持ち主であること。
一定のとは言っても、かなりの魔力量を持っていないといけない。
二つ目は、森の中での召喚に成功すること。
『森の禁門』はその名の通り、森に存在しないとその効力を発揮できない。
そして、三つめが夜であること。
何故なら、門から召喚されるものが夜行性だからである。
ゴゴゴ…と、重いものを引きずるような低い音を森に広がせながら門が開いていく。何かが門を押して、開いていっている。門が開くにつれてその正体が明らかになる。
「あれは…木?」
門を開けているのは巨大な樹木だった。木の幹がそのまま腕になり、拳となって門をこじ開けた。怪物の名は、『木精霊王』。
森の木々に宿る『木精霊』の頂点であり、森の木々を支配する存在である。
「ウウオォォォォォオ!!!」
木精霊王の技能『咆哮』。幹で組み上げた足を踏み鳴らし、叫びを上げながら暴れまわりその叫びは木々を大きくしならせる。
「きゃああぁぁぁ!!」
『咆哮』に巻き込まれ、セリアは吹き飛ばされた。上空まで吹き飛ばされたセリアは何とか体勢を立て直し『氷の羽』を詠唱して、空で木精霊王の様子を見ていた。
技能が終わったのか、暴れまわるのをやめた。そして、遠くの街を見つけたのか引き寄せられるように移動を始めた。
「このままだと町に!?、やばい!」
『氷の羽』を羽ばたかせ、木精霊王に近づくセリアだが、どうすればいいのかわからない。
「とにかく、動きを止めないと!、『氷結法陣』!」
木精霊王の足元に、特大の魔法陣が広がっていく。魔法陣の上に置かれた木精霊王の足が氷で固められる。木精霊王は、氷を何とかしようとするが動きを封じられてうまくいかずその場に立ち止まった。
「よし!これで…」
「セリア!なにをしている!」
ここでセリアに声がかかった。セリアはその声を聴くとビクリと震わせて振り返る。今日はなんだか振り返ることが多いような気がすると思う。
「げっ、アリーシア」
「げっ、とはなんだ」
セリアに声をかけたのは、アリーシア・バリトドールという。セリアと同じ学校の同級生である。燃えるような赤い髪に、強い意志を感じさせる切れ長で橙色の瞳で、セリアと比べると大人の雰囲気を感じさせる。
「まぁいい、あれはどうしたんだ?」
「えっ?…えーと…木の怪物?」
「見ればわかる。なぜあんなものがいる?」
「…さっ、さぁ?、私も今、来たところだし…」
セリアはとぼけることにした。
ピーピーと口笛を鳴らすがうまくいっていない。
「ほう、それにしてはずいぶん魔力を消費しているようだが」
「……あーと」
「後でゆっくりと聞かせてもらう」
「……はい」
無理だった。
「今は、奴を倒すことを優先するとしよう」
アリーシアは、掌を樹木に向けて魔法を打ち出す。
「『炎の千矢』」
アリーシアの後方から、10の魔法陣が展開される。その魔法陣から、矢の形をした炎の矢が打ち出される。夜空に輝く流星群のように打ち出されたそれは、木精霊王に向かって炸裂した。樹の身体に突き刺さった矢は爆発し、次々に矢は爆発を連鎖させていく。
「ギュオオオオォォォ!?」
突然の激しい爆発により、大きなダメージを負った木精霊王は痛みからか悲鳴にも似た叫びを上げる。身をよじらせ、自分を攻撃した者へと、目のない顔を向ける。
「あっ!こっち向いたわ!どうすんの?!」
「好都合だろう。これで街に被害は及ばない。こいつを倒すには私たちの全力でなければならないだろう」
「えー、私の魔力もう全くないのに~」
「精神を削ってもやれ」
「うっ」
アリーシアはセリアを半目で睨み言い放つと、樹木に向かっていく。セリアは、
はぁ、と息をつき魔法発動のための術式をくみ出した。
「『全ての水を統べる水の王よ、我にその力の一端を預けたまえ。契約は魂に、王の力はすべてを飲み込む聖水となる』」
魔法は詠唱と呼ばれる文を読み上げることで、現実に反映される。セリアの『氷の棘』やアリーシアの『炎の千矢』は、詠唱の必要がない低級呪文であるが込める魔力の多さでその威力は向上される。そして、詠唱が必要な中級呪文以上も魔法は発動するのに時間がかかる。
「ウゥゥゥアァ!」
「ハァ!」
木精霊王は握りしめた木拳をアリーシアに振り下ろすが、難なくかわし木精霊王の懐に飛び込み自身の拳に炎を纏わせる。
「『炎王正拳』!」
炎の正拳突きは胴に突き刺さり、木精霊王を後ずらせた。
「ガァ…アアアァァァ!!」
「何!?」
痛みを超え、怒りを感じさせる叫びが森中に響き渡った。木精霊王は拳を形作っていた幹を解いて、槍の形に作り替えアリーシアに突き出した。あまりの速さに避けることはできず、アリーシアは拳で受け止めた。
「くっ!…はあぁぁ!」
アリーシアは、槍を蹴り上げて木精霊王に突っ込んでいく。次に繰り出す技を考えながら、セリアの魔法完成のタイミングを探っている。
「『炎王旋風脚!』」
体を高速回転させ遠心力を足の一点に集中し、炎の回転蹴りを繰り出すアリーシアに対して、両腕を盾に変えた木精霊王は蹴りを受け止める。蹴りが盾に当たる毎に爆発音が響く。その音の響く中でセリアの声がアリーシアの耳に届いた。
「アリーシア、できた!」
「よし!、吹き飛べ!」
掛け声とともに、回転蹴りの威力を底上げて木精霊王を盾ごと吹き飛ばす。
「いっけー!『水氷一体!氷蓮水銀陣!』」
木精霊王の頭上から青い魔法陣が、足元から白い魔法陣が現れる。それが木精霊王の体を包み込んだ瞬間…
「――――――――――――――」
木精霊王の動きが止まった。体の蔓一つ動かさずに彫刻のように固まっている。
先ほどまでの怒りの感情は消え失せ、何の感情も浮かべていない。まるで、感情がなくなったように見えた。
「はぁぁー、うまくいったー」
「おい」
「やー、一時はどうなるかと思ったけどよかったー」
「…おいこら」
「……はい」
アリーシアの怒りの感情が燃え上がっているのが見える。顔は鬼の形相で…
「必要のないことを考えるな。質問に答えろ。今のはなんだ」
「…私の魔法です」
「そうだな、その効果は?」
「えっと…、魔法陣に包まれた対象の魂に直接、水と氷の魔法をぶつけて魂を凍らせて戦闘不能にする魔法です」
「ほう」
「…以上です。ぶへぇえぇ!」
「この馬鹿が!」
セリアがアリーシアにぶっ飛ばされた。吹き飛ばされたセリアは顔面から地面に叩き付けられ気絶した。
「また、危険な魔法を作るとはな…はぁ」
アリーシアは、セリアを拾いあげると肩に担いで森を抜けていくことにした。
セリアとアリーシアがいなくなった森には再び静寂が訪れていた。だがしかし、森の中にはもう一人、男の人間がいた。体の至る所に傷を作りながら森を歩いている。目は虚ろで、ただ目的もなく歩いているように見える。
「――――――――!」
その時、男の目の前にあのキノコが現れた。セリアとアリーシアに木精霊王を倒されたことで逃げていたのだった。恐れとともにキノコは激しい怒りを覚えていた。いつか人間に復讐を果たしてやると、復讐を誓っていた。そんな矢先に、人間を見つけたキノコはさっそくこの怒りをこの人間にぶつけてやろうと襲い来る。
「ウウアァァァアア!!」
「――――――――――――!?」
男の背後から飛び掛かったキノコだったが、男が後ろを振り向いたと思った瞬間に吹き飛ばされていた。地面に叩き付けられキノコは思った。自分が襲おうとしたものは、本当に人間だったのかと。あれは……何だ?
キノコは自分にとっての死がもうすぐ目の前まで来ていることを感じることができた。俺ではこいつに勝てない。理性的に、本能的にそう悟ったキノコは体の力を抜き、最期の時を待った。
しかし…男はとどめを刺しに来ることはなかった。キノコを蹴り飛ばした後、また歩き出していたからだ。ふらふらとした足取りでどこかへと…