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妄執世界のアリス  作者: 千里万里
第一部 夢見るアリス
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第二章 初めての旅路

「お父さんや故郷のみんなは無事かなあ……?」

 ナユタは暗澹たる気持ちになって、ついぼやいてしまう。

 村のみんなの安否も気になるが、ナユタの同行者も謎が多くて気になる。

 あれから近くの街に連れて行かれ、着ていた革鎧と剣を処分して旅装束に着替え、改めて旅に出たのだが……。

 ナユタは背中に大きな荷物を背負って旅をするのだが、前を歩くアリスとルイスは何も背負っていなかった。

 どうしても不公平感を覚えてしまうが、荷物の中身は自分だけが使い、二人は何も使っていないから文句の付けようもない。

 荷物の大半は食料なのだが、ここ数日間、ずっと食事をしていないのだ。

 歩いていても疲れた様子を見せず、そのくせナユタの状態はきちんと把握していて、気遣って休憩を入れてくれたりする。

 最初、自分達の前に現れた事や、適切な脱出経路を指示した時は、ただただ訳が解らなかった。

 元いた世界だとか人類を滅亡から救うとか言い出した時は、頭がおかしいのかと思った。

 そして今は……少なくともただ者ではない。

 何者なのだろう? ナユタの知識にある存在とは明らかに一線を画している。

 それがここ数日、行動を共にしてナユタが思った事だった。

 考えてみるまでもなく、突然、目の前に現れて窮地から救ってくれたこの二人の事を何も知らない。

 二人がどこで生まれ、どう生きてきて、どこに向かおうとしているのか。

 もうしばらくは旅の道連れなのだから、この不思議な二人の事をもっと知りたいと思うのだが。

 一夜を明かすために入った洞穴の中、揺れる焚き火の炎が照らし出すアリスの横顔を見ていると、するりと言葉が出てきた。

「ねえ、アリス。あなたはこの近くの生まれなの?」

「………」

「家族はいるの? ご両親はどんな仕事をしているの? 兄弟は? 姉妹は?」

「………」

 戸惑っているのか、答えはない。

 ナユタは構わずに続ける。

「私の父さんは村長をしていて……まあ村長と言っても普段は畑を耕していて、何かあった時にまとめ役をするくらいだけどね。母さんは私が小さい頃に亡くなって……ああ、この耳飾り、実は母さんの形見で……」

 そこにルイスが割って入る。

「ナユタさん、そのお話はこれからの僕達の活動に何か関わりがあるんですか?」

「いや、多分ないけど……」

「では黙っていてもらえますか?」

「もう! 女の子同士のおしゃべりなんだから邪魔しないでよ!」

 ナユタは子供っぽい仕草で、んべっと舌を出す。

 一方的に喋ってたような気もするが、それは気にしない。

「じゃあさ、前に野盗から逃げる時に、脱出経路を見付けたでしょ? あれはどうやってやったの?」

「あれは……他の人にはできない」

「神のお告げとかそんな感じ?」

「そういう非科学的なアプローチではない」

 アリスは答える。

「ごくわずかな気流や温度、地磁気などの変化を観測し、それらの情報を元に現在の状況を把握する……そういう能力が私にはある」

「………」

「さらに蓄積した過去の膨大な戦場のデータを分析、数値化して参照する事で、未来の戦況を予測し、自在にコントロールする……そういう能力」

「………」

 ごめん、さっぱり解んない。

「さっぱり解らない、という顔……」

「うん、ごめん……」

「いい。この世界の人間に理解してもらおうというのが無理な話」

「はあ……?」

 なおも解らないという顔をしているナユタ。

「では実践して見せる」

 アリスはコインを一枚取り出すと、軽く握った拳の親指の上に乗せる。

 親指で弾くと、コインはくるくると回転して宙を舞い、それをアリスは左手の甲と右の手の平の間で受け止める。

「こうやってコインの表が上か裏が上かを当てる。これがコイントス」

 そしてコインをナユタに渡す。

「やってみて。全部当ててみせる」

「う、うん……」

 ナユタは慣れない手つきでコインを弾き、受け止めたコインの裏表をアリスが当てていく。

「本当に当たった!」

 一回、二回と当てるとナユタは素直に喜びの声を上げる。

「すごい! すごい!」

 五回、六回と当てると驚きの声を上げて。

「はあ……」

 さらに十回、二十回と連続で当て続けると、流石に声も出なくなってくる。

「ラプラスの悪魔という……ナユタが知ってるはずないけど」

「知らないって決め付けないで……! まあ確かに知らないけど……」

「ある瞬間における全ての物質の力学的状態と力……この場合、弾く直前のコインの位置情報、コインを弾くナユタの指の力、空気の流れや受け取るタイミング……それらのデータを観測、解析すれば、コインの裏表を正確に予測する事ができる」

「いや、そんな事できるはずが……」

 ない、と言いかけて、ナユタは気付く。

 できる、ではない。

 やった、のだ。

 アリスは今、ナユタの、目の前で。

「そしてこの原理を応用し、観測範囲を拡大すれば、この世界の行く末さえ見通す事ができる」

「………」

「疲れた。そろそろ寝る」

「う、うん……おやすみ……」

 アリスが横になって目を閉じたので、ナユタも毛布にくるまって横になる。

 謎がますます深まっただけだった。

 そして洞窟での夜は更けていく……。

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