第四章その2
ダルトンの軍は森の中に身を潜めていた。
街道からは少し離れた高地にあり、伏兵を潜ませるのに最適の場所だった。
こういう場所を、ダルトンの軍では幾つも確保しており、グロモフの軍が攻めてきた場合、その中のひとつが選ばれ、迎撃に利用してきた。
その全貌を把握しているのはダルトンの他、軍の上層部の数人しかいない。
今も軍を率いる騎士隊長の元には次々と斥候からの報告が届いており、グロモフの軍が侵攻してくる様子を着々と伝えてくる。
あとは所定の場所まで来たタイミングを見測らい、突撃を命じてグロモフの軍の横っ腹を突き崩すだけだ。
「奴らも懲りませんな。何度もこのやり方で痛い目に遭っているのに」
上機嫌の参謀が騎士隊長に話しかける。
「そう言うな。戦場では予想も付かない事が起きる。油断大敵だ」
「解ってますよ」
口ではそう言っても、参謀の緊張が緩んでいるのは明らかだった。
しかしどれだけ口を酸っぱくしたところで、緊張感が湧いてくる物ではない事を騎士隊長は長年の経験から知っているし、想像できないような事態には備えようがないのも事実だ。
とりあえず突撃のタイミングをきちんと見極めて……。
「敵襲! てきしゅーう!!!」
「何?」
騎士隊長は立ち上がる。
遅れて後方から敵軍の物と思しき鬨の声と、剣を打ち合う音が響く。
「敵軍だと? 一体、どうやって……?」
後方は深い森になっている。
道なき道を分け入って進軍しても脱落者が出て道に迷うだけで現実的ではない。
だから当然のように偵察も送っていなかった。
それはさておき、まずは目の前の敵に対処を……。
「各自、各個に武器を取って迎撃……!」
「隊長! 大変です! 街道のグロモフの軍がこっちに向かって来ます!」
「何だと?」
騎士隊長が振り返ると、街道を突き進んでいたはずのグロモフの軍が真っ直ぐこちらに駆け上がってくる。
進軍が遅い事だけが唯一の救いだが、このままだと挟撃の憂き目を見る。
騎士隊長は苦々しく認めざるを得ない。
「伏兵は失敗した……!」
それも伏兵を「発見された」ではなく「知られていた」という最悪の形で、だ。
内通者を疑わなければならないが、まずは挟撃を避けて離脱しなければならない。
「全軍! 俺に続け! 離脱する!」
騎士隊長が叫びつつ剣を抜いて一気に駆け下くと、参謀を始め全軍がそれに続く。
街道のグロモフの軍の鼻先を掠めつつ、そのまま離脱を図る。
追撃を受けて甚大な被害を出し、傷を負って走れなくなった者を置き去りにしても、とにかく街まで走り続けなければならない。
油断した自分に対する自責の念と、グロモフの軍に対する怒りに歯噛みする。
それでもこの離脱が最善の策と信じて。




